質問をいただきましたので私見についてお答えしたいと思います。

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予備試験における実務科目はいつ頃勉強すれば良いのでしょうか
例えば刑事実務なら刑法や刑事訴訟法の後、などあれば。
勉強の為に参考になる本などもあれば知りたいです
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私が受験生の時には予備試験はまだ無く,私は予備試験の受験経験はありませんが,予備試験の過去問を検討した内容や,私が司法試験や司法修習で事実認定の勉強をした経験をもとにお答えします。

その点についてご了承ください。



  • ●予備試験における法律実務基礎科目の勉強を開始する時期

予備試験の法律実務基礎科目では,具体的には民事では主に要件事実と事実認定について,刑事では主に事実認定について問われます。

そして,民事の法律実務基礎科目で必要とされる要件事実と事実認定の能力を身につけ,理解するためには主に民法を理解している必要があります。

また,刑事のの法律実務基礎科目で必要とされる事実認定の能力を身につけ,理解するためには,主に刑法と刑事訴訟法を理解している必要があります。

予備試験の法律実務基礎科目の過去問中には,民法・刑法・刑事訴訟法等の十分な理解があれば,現場で自分の頭で考えることで対処可能な問題も少なくありません。

民法・刑法・刑事訴訟法等と法律実務基礎科目を切り分けて考えるのではなく,民法・刑法・刑事訴訟法等の知識・理解の延長線上に法律実務基礎科目で問われる知識・理解があるというイメージです。


そのため,民法・刑法・刑事訴訟法の勉強が不十分なまま,法律実務基礎科目の勉強を開始しても効率はあまり良くないと思います。

したがって,法律実務基礎科目の勉強を開始するのは,民法・刑法・刑事訴訟法等をある程度理解してからのほうが良いでしょう。

具体的には,民法・刑法・刑事訴訟法等の問題集を回し,民法・刑法・刑事訴訟法等の答案がある程度書けるようになってから,法律実務基礎科目に取り組むと良いと思います。

ただし,短期間(1年程度)で予備試験の合格を目指している場合は,民法・刑法・刑事訴訟法等の理解が深まってから法律実務基礎科目の勉強を開始したのでは間に合わない可能性があります。

そのため,短期間で予備試験の合格を目指している場合は,民法・刑法・刑事訴訟法等がある程度理解できた段階で,早めに法律実務基礎科目に対応した問題集に目を通しておき,法律実務基礎科目で必要となる要件事実・事実認定の知識・理解がどの程度なのかを把握しておくと良いと思います。


★ISBN-10: 4335303602

★ISBN-10: 4335303610





  • ●法律実務基礎科目の勉強において参考になる本(民事)

民事の法律実務基礎科目については,まず「新問題研究 要件事実」を何度も読み,この本に書かれている要件事実を頭に叩き込んだ上で,なぜ条文等からそのような要件事実が導かれるのかをきちんと理解しておくことが大事です。



また,普段から民法の問題を解いたり,条文を読むときに,その問題で出てきた訴訟物・条文の要件事実が何かを考える習慣を付けておくと良いです。

そして,自分で考えた要件事実が合っているかを,岡口裁判官の「要件事実マニュアル」で確認し,理解が不十分だった場合には,「要件事実マニュアル」の解説部分を読んでおくと良いです。

★ISBN-10: 4324096562
★ISBN-10: 4324096570


「要件事実マニュアル」はあくまで「辞書」なので,最初から最後まで読む必要はありません(一般的な受験生にはそのような時間はないと思います。)

問題を解いたり,条文を読んで必要性を感じた時に読んでおくだけで十分です。

また,「要件事実マニュアル」は全5巻ありますが,司法試験・予備試験の範囲は1巻と2巻でほぼ網羅していますので,受験生の時点では3巻以降は必ずしも買う必要はありません(買ってダメということはありませんが)。


このように,「新問題研究 要件事実」を徹底的に記憶・理解し,普段から要件事実を考える習慣を身につけておけば,民事の法律実務基礎科目も,司法試験もクリアできると思います。

初学者向けの他の本も読んでみたいということであれば,岡口裁判官の「要件事実入門」もおすすめです。

★ISBN-10: 4908621063

★ISBN-10: 4908621071



心配であれば「紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造」や「要件事実論30講」などをやってみても良いと思いますが,個人的には司法試験・予備試験レベルでは,ここまでやらなくても,前記のように普段から要件事実を考える訓練をしておけば,合格ラインには達すると思います。

★ISBN-10: 4908108226

★ISBN-10: 4335357508


「紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造」は,解説がシンプル過ぎてとっつきにくいですが,何度も読み込んで一度マスターしてしまえば,薄い本であるため試験直前に要件事実を短時間で復習できる強力なツールになります。

「要件事実論30講」は私が受験生の時から定評がある演習書で,この本をマスターしておけば要件事実は怖くなくなると思いますが,ちょっとオーバースペック気味なので,他の科目の進捗状況を勘案しつつ,手を付けるかどうか考えたほうが良いと思います。


私は「新問題研究 要件事実」と「「紛争類型別の要件事実―民事訴訟における攻撃防御の構造」」を完璧にして,後は問題演習をした時に出てきた要件事実を「要件事実マニュアル」を使って整理するという形で勉強をしていましたが,法科大学院の要件事実の試験はAでしたし,司法修習の最後にある二回試験の民事裁判・民事弁護科目も「優」だったので,手を広げ過ぎるよりも基本を大事にすることと,自分の頭で考える習慣を付けておくことが大事だと思います



あと,念のため民事執行法・民事保全法は概要だけでも勉強しておいたほうが良いです。

論文式試験で民事執行法・民事保全法を問われた時に,条文を引けるようにしておきましょう。

民事執行法・民事保全法の基本書としては「基礎からわかる民事執行法・民事保全法」が分かりやすいという受験生が多いようですが,私は有斐閣アルマの「民事執行・保全法」のほうが好みです。

自分が読みやすいほうを選べば良いと思います(私は両方持ってます)。

★ISBN-10: 4335354754

★ISBN-10: 4641220859



そして,とにかく過去問をやりましょう。

本を読んでいても実力は身につかないので,過去問を繰り返し解き,問題の解き方の感覚を身体にしみこませておくことが大事です。

★ISBN-10: 4864664358




  • ●法律実務基礎科目の勉強において参考になる本(刑事)

刑事の法律実務基礎科目においてもっとも参考になるのは「過去問」だと思います。

★ISBN-10: 4864664358

刑事の法律実務基礎科目においておもに問われるのは「事実認定」ですが,刑事の事実認定は「習うより慣れろ」的な要素が大きく,過去問を繰り返し解きながら,上手い人の答案を盗んでいくのが上達の近道です。

野球を上手くなりたい人が,いくら野球の教科書を読んでも上手くならないのと同じように,刑事の事実認定も実際に自分で手を動かして問題に慣れていくことが大事です。



参考書としては,辰巳法律研究所の「司法試験予備試験法律実務基礎科目ハンドブック〈2〉刑事実務基礎」が比較的使いやすいと思いますが,今は絶版になっていますね。

必ず必要という訳ではないので,予備試験の合格者などからもらえたり,安い中古本があれば入手しておけば良いと思います。

★ISBN-10: 4864662614



こちらも必須という訳ではありませんが,刑事事実認定の本の中では「刑事事実認定入門」が薄くて分かりやすいです。

司法試験・予備試験レベルで必ず読んでおかなければならないという訳ではありませんが,過去問をいくつか解いた後に読むと,頭の中が整理できると思います。

★ISBN-10: 4891861940



その他,私が「出来れば受験生時代に目を通しておきたかったな」と司法修習生になってから思ったのが「検察終局処分起案の考え方」という本。

「検察終局処分起案の考え方」は司法修習の検察科目で徹底的に覚えるように指導される本で,司法研修所で使われているだけあって,事実認定の考え方が非常に詳しく整理されています。

司法試験・予備試験の受験生は,この本をマスターする必要はありませんが(そもそも司法試験・予備試験の答案の書き方と,検察終局処分起案の書き方は違うのでマスターしないほうが良い),間接事実の考え方,目をつけるべき間接事実,事実の評価の考え方,構成要件の捉え方(客観面,主観面の区別等),共同正犯の考え方等,司法試験・予備試験の事実認定でも参考になる事項がコンパクトに整理されているので,ある程度勉強が進んだ後に目をとおしておくと役に立つと思います。

この本をある程度理解出来れば,司法試験・予備試験の刑事の事実認定では他の受験生に差を付けることが出来ると思います。




その他,私が受験生の時に軽めに読んだのが,菊地幸夫先生の「刑事事実認定 特訓講座」という本です。

菊地幸夫先生はテレビにも出ているので知っている受験生も多いと思いますが,以前に司法研修所で教官をされていたり,辰巳法律研究所の講師をやっているので,説明は分かりやすいです。

★ISBN-10: 4887277512

★ISBN-10: 4887278063

「刑事事実認定 特訓講座」は読んですぐに即効性があるような本ではありませんが,頭の体操になると思うので,興味がある人は気分転換がてらに目を通してみると良いかも知れません。

今は絶版になっているようですが,Amazonで中古本が安く売られています。




その他,刑事の事実認定の本として「刑事事実認定重要判決50選」という本を薦める合格者もいるかも知れませんが,個人的には司法試験・予備試験の段階では「刑事事実認定重要判決50選」は明らかにオーバースペックで,読んでも消化不良になる人が多いと思いますので,あまりお勧めしません。

司法試験に合格した後に買うか図書館で借りて読むと良いでしょう。


★ISBN-10: 4803743312

★ISBN-10: 4803743320



以上,予備試験における法律実務基礎科目についてお話しましたが,特に事実認定についてやはり一番役に立つのは過去問です。

過去問を繰り返し解くことで事実認定の能力が身についていきますので,紹介した本を参考にしていただた上で,過去問をきっちりとやっていただければと思います。


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