弁護士資格と在宅勤務について

コメント欄で質問をいただきましたのでお答えしたいと思います。

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突然のコメント失礼します。 
現在公務員として働いていますが、弁護士資格に挑戦したいと思い、法学初学者ですがこのブログを参考に勉強を進めております。 
弁護士としての働き方について質問なのですが 
在宅勤務で弁護士資格を生かすことができる仕事はあるのでしょうか? 
物理的な意味で(自宅でも仕事ができる、出社退社が縛られない等)自由度が高い仕事がしたいと思ってるのですが、例えば業務委託という形でメールでの質問に一つ返答するごとに報酬として5千円もらえるといった働き方をイメージしています。 

不明瞭な質問かもしれませんが、お時間あるときにご回答お願いいたします。
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  • ●自宅で仕事をする弁護士について

質問者さんは弁護士として在宅勤務をすることを考えているとのことですが,私の周りの特に年配の弁護士の中には,自宅兼事務所という形で自宅で仕事をしている人は少なからずいます。

ただ,メールだけで仕事をするという形ではなく,相談者や依頼者に自宅兼事務所に来てもらって打ち合わせをしたり,訴訟のために裁判所などに出頭したりしているので,質問者さんのイメージとはちょっと違うと思います。


それから,個人的には弁護士が自宅で仕事をすることにはリスクもあると思っています。

弁護士は事務所の住所を弁護士会に登録しなければならないことになっていて,登録した事務所の住所は弁護士会のホームページなどで公開されるんですよね。

つまり,自宅で仕事をするということは,自宅の住所を世間一般に公開するということになります。

そして,弁護士の事務所には,事件の相手方や関係者が突然事務所に押しかけてきたりすることもありますし,一度お断りをした相談者が何度もやってくることもあります。

また大きな事件に関わったりすると,マスコミの取材の電話が何度も来ることもあります。

自宅と事務所が同じ場所だと,自分が寝ている夜中や休みの日などにも事件の相手方や関係者などが来る可能性があり,身を休めることが出来なくなるリスクも無い訳ではありません。

個人的には弁護士は紛争に介入する仕事である以上,リスクを回避するためにも,出来れば自宅と事務所は分けておいたほうが精神上良いのではないかと思っています。






  • ●メールでの法律相談について

「メールでの質問に一つ返答するごとに報酬として5千円もらえるといった働き方」は私もモデルとして想像してみたことは一応あるのですが,不特定多数を相手方にするという形だと結構ハードルが高いような気がします。

メールのような文章の形で一般的な内容の法律相談をするサービスとしては既に「弁護士ドットコム」というサービスがあります。

また,メールで具体的な内容の法律相談を実施しようとすると,弁護士の側からも様々な質問をしなければならないので,メールでやり取りをすると何往復もやり取りをしなければならず,相談者としても弁護士としても手間がかかるケースが多いと思います。

例えば「離婚を考えているのですがどうしたら良いでしょうか。」という相談があった場合,弁護士としては

「いつ結婚しましたか。」「別居していますか。いつから別居しましたか。どのように別居がはじまったのですか。」「お子さんはいますか。何人いますか。それぞれ何歳ですか。貴方と相手方のどちらが主に面倒をみていますか。どのように面倒をみていますか。」「貴方と相手方の年収はそれぞれいくらですか。それぞれお仕事は何をしていますか。」「貴方と相手方の財産は何がありますか。マイホームはありますか。住宅ローンはありますか。残額はいくらですか。預金はありますか。保険には入っていますか。積立てしている年金はありますか。退職金の制度はありますか。」・・・のように質問をしなければならないことが山ほどあります。

上記の質問は一部で,質問に対する回答をもらうと,さらに質問をしなければならない事項が増えていくこともあります。

これをメールで全部やり取りするには,予め必要な情報を整理して送ってもらうなど,何らかの工夫が必要になると思います。




  • ●電話での法律相談について

上記のようにメールでの法律相談は大変な部分もあるので,在宅で相談を受けるとすると,メールよりも電話相談のほうが効率が良いと思うのですが,電話相談にも問題がない訳ではありません。

弁護士に関するルールを定めた「弁護士職務基本規程」には,同じ案件について一方の当事者から相談を受けた場合には,その相手方の相談は受けてはならないというルールがあり,弁護士が相談を受ける時には,過去に相談者の相手方から相談を受けたことがないかをチェックします。

そのため,法律相談を受ける時には,本人確認をすることも重要な作業になるのですが,電話相談の場合,相談者の素性が良く分からないことも多く,利益相反の確認がきちんと出来ない可能性もあります。

そのため,私は新規の相談者や面識のない相談者については,電話での法律相談はお断りするようにしています。

在宅で不特定多数の方から電話相談を受けるとなると,上記のような利益相反の確認や本人確認をどうやって行うのか,ということが問題なるかも知れません。


また,法律相談を受ける時には,資料を持ってきてもらうことも多いのですが,電話やメールのやり取りだと,「この資料のこの部分についてですが・・・」というような話をしても通じないことも多く,手間がかることは結構あります。

この点についてはスカイプのようなテレビ会議を使うと少し解決できるかも知れませんが。



  • ●企業との顧問契約に基づくメール・電話での法律相談について

上記のような問題をクリア出来る方法の1つとしては,企業と顧問契約を結び,顧問先の企業から日々,メールや電話でその企業がかかる問題について法律相談を受けたり,契約書のチェックをする等,在宅のインハウスローヤー的な仕事をするという方法が考えられると思います。

ベテランの弁護士の中には,企業との顧問契約が多くなるにつれて,訴訟案件等を扱っている時間よりも,顧問先の企業からの法律相談を受けている時間のほうが多い,という弁護士も少なからずいると思います。

IT企業を顧問先とする弁護士などであれば,メールで法律相談をやり取りすることも多いのではないかと思います。

もっとも,企業によっては「直接事務所に行って顔を見ながら相談をしたい」という場合もあると思いますし,弁護士としても「書類や図面を確認しながら話をしないと良く分からないので,事務所に来てもらうか,自分が顧問先の会社に行って直接話をしたい。」ということも出てくると思います。

また,企業と顧問契約を結んで法律相談を受けていると,訴訟をしなければ解決しない問題も出てきますし,逆に「訴訟を起こされた」という相談もあると思いますので,法律相談だけで業務が終わらないことも多々あります。

そして,訴訟になれば当然に裁判所に出頭しなければなりませんので(管轄の裁判所が遠方の場合には,電話会議が使えることもありますが),全てを在宅勤務で完結させるのは難しいと思います。

また,企業から顧問契約を獲得するためには,企業から弁護士としての信用を得ることも大事ですが,企業と多くの顧問契約を結んでいる法律事務所は,一等地に立派な事務所を構えていることも少なくありません。自宅で弁護士業務を行う場合,企業等からどのようにして信頼を得るかということも考えなければならないと思います。

リーハルハイというドラマでは,主人公の弁護士(古美門研介)は多くの企業と顧問契約を結んで,立派な自宅兼事務所でのんびりと生活してましたが,現実的にはあのような生活をするのはハードルが高いと思います。ただ,弁護士として企業の信頼を得られるような大きな実績があれば可能性があるかも知れません。



  • ●実際に訴訟等の実務を行うことの重要性について

それから,弁護士として法律相談を受けるためには,実際に裁判所に行って訴訟や調停などの実務を行うことも大事だと思います。

司法試験や司法修習では基本的なことは勉強しますが,実務の細かい部分については,実際に弁護士になってから身体を動かして汗をかいて経験しないと分からないことが多いです。

例えば,離婚の相談1つをとってみても,「離婚できそうかどうか」「親権はどうなりそうか」「養育費がいくらになりそうか」「財産分与はどのあたりが落としどころになりそうか」といった相談は,実際に離婚事件を何度も経験して得られる知識も多いです。

企業の相談であっても,実際に訴訟や調停を経験したり,企業の現場を多く見ることで法律相談に適切な回答が出来るようになるケースも少なくありません。

そのため,在宅勤務だけしかしたことがなく,訴訟等の実務をほとんどしていないという弁護士だと,法律相談を受けても形式的な回答しかすることができず,相談者が本当に求めていることについて答えてあげられない場面も出てくると思います。




  • ●まとめ

弁護士の働き方は様々な形があって良いと思いますが,「在宅勤務で法律相談」という相談者さんの希望を実行するには,個人的には上記のように解決しなければならない問題がいくつかあると思いますので,問題を解決していくためには新たな発想が必要になって来ると思います。

相談者さんが上記のような問題を解決する方法を見つけられれば,何らかの形で「在宅勤務で法律相談」というモデルも成立させることができるかも知れません。


その他,法律相談や従来型の弁護士業務の範囲に拘らなければ,在宅勤務の形は色々とあると思いますし,弁護士のイメージから離れて「法律に詳しいけど○○が出来る人」という立ち位置になれれば,在宅勤務の可能性ももっと広がっていくかも知れません。


たとえば,弁護士資格や司法試験合格という履歴を活かして在宅勤務をするとすれば,英語と英米法も勉強した上で,専門性の高い法律系の翻訳家になるという方法や,外国語の契約書を作成するサービスを立ち上げる等のモデルも考えられるかも知れません。

翻訳の仕事をしている人の中には,在宅勤務をしている人も多く,私の知人でも翻訳家として自宅で働いている人がいますので。



その他「弁護士資格があり,法律に詳しくて,話が上手い人。勉強を教えるのが上手な人」という立ち位置であれば,自宅でYoutubeを活用しながら,法律系のネタをメインにしたユーチューバー,などというモデルもあるかも知れません。Youtubeで安定した収入を得るのは結構ハードルが高いですけどね。

その他,インターネットを活用した司法試験予備校なども増えてきていますので,自宅でネットを使って司法試験受験生向けの講義を行う,というモデルなどもあるかも知れません。

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