民法改正と論文式試験の過去問対策について


前回お答えした点について,再度質問がありましたので,改めて私見についてお答えしたいと思います。

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改正民法の過去問の練習はどうやるのが理想ですか?
改正前と後では回答が違いやりようがないと思いませんか?
これからでてくる問題集ではなく、過去の試験問題のことです。
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ご回答ありがとうございます。
質問が悪かったようですが、論文の過去の試験問題を解く時の事でした。
昔のは当然、その時の法制度ですから、今からと解くと答えが違う可能性があると思うのです。
こう言う時はどうしますか。
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えんしゅう本は改正民法に対応しているようです。
しかし、試験にでた過去問は当時の法体系ですから、今では使えない回答もあると思うのです。
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論文式試験の過去問については,民法改正後に論述の仕方等が変わってくるものがあるのはそのとおりだと思います。

しかし,「やりようがない」といこということはありませんし,後述のとおり論文試験の過去問は,知識をインプットするためにやるというよりも,本試験のクセを把握した上で,本試験を解く技術を身につけるために行うためのものなので,やり方さえ気をつければ特に問題はないと思います。


個人的には,今回の民法改正が論文式試験の過去問の演習について与える影響については,それ程心配する必要はない,と思いますので,以下理由を述べています。


  • ●論文式試験では条文をきちんと読むことが大事であること

1つ目の理由ですが,,論文式試験では六法で条文を見ることができますので,論文式試験の過去問の演習をする際に,改正後の民法の条文を使っていれば,「改正点に気づかない」ということはないはずです。
これは本試験でも同様です。

★新しい民法の全条文: 債権法・成年年齢・相続法・特別養子改正



また,論文式試験では,短答式試験と異なり,1回の試験で関係する条文数は少ないですし,論文式試験で問われる可能性の高い条文の数も限られています。

そして,論文式試験の過去問を解いた後に,その問題に関係する条文(1年度あたり10個あるかないかくらいだと思います)について,改正点をまとめた本で改正があるかどうかと,改正がある場合にどのような改正があったかをチェックすれば,良いと思います。

改正点があった条文については,以下のような改正点をまとめた本で改正内容について読んで,本試験で同じ条文が問われた時に対応できるようにしておけば問題ありません。


★一問一答 民法(債権関係)改正 (一問一答シリーズ)

★Before/After 民法改正

したがって,短答式試験の過去問演習とは異なり,論文式試験の過去問演習に関しては,特にそれほど問題はないと思います。



実際,私が受験生の時,新司法試験の過去問の数が限られていたため,旧司法試験の問題を解いていたことがあるのですが,その際にも現在の条文とは処理が異なるものが出てくるということはありました。

しかし,改正後の条文(六法等)を使っていれば,改正点に気づかずにスルーしてしまうということはありませんし,改正後の条文の解説や基本書等を読めば,問題の処理の仕方は分かります。

民法に限らず,他の科目でも法改正や判例変更は毎年のようにありますのが,上記のように対応すれば特に問題はないはずです。

そのため,少なくとも私は論文試験の過去問で問われた条文に改正があったことで,困ってしまった,ということはなかったです。



  • ●今回の民法改正は,過去の判例の解釈や学説を条文化して整理したものが多いこと

今回の民法改正に関して言えば,論文式試験で問われる「論点」という箇所について,大きく考え方が変わったという部分はそれほど多い訳ではなく,過去の判例の解釈や学説を条文化して整理したものが多いです。

(民法の改正点は,先に挙げたような民法改正点に関する本を読むのが良いと思いますが,辰巳法律研究所のウェブページと,法務省民事局の「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」がコンパクトで分かりやすいので,改正点をまだ把握していないという場合には,これらの資料にも目をとおして概略だけでも把握しておくと良いと思います。)


そのため,過去の試験では論点について厚く論述が必要だった部分が,改正後には端的に条文を当てはめて処理すれば足りるという箇所が多くなりますので,論文式試験に関して言えば,問題を解く際にきちんと条文を読んで事案に当てはめるということを意識すれば,それ程苦労することはないと思います。

さらに,民法は短答式試験対策において細かい知識のインプットもすると思いますので,短答式試験の対策をしておけば,短答式試験の勉強で得た知識を論文式試験で活用することができます。


なお,個人的に,今回の民法の改正点のうち,論文式試験対策として特に準備をしておいたほうが良いと思うのは,売買における瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わり,従来の契約責任説ベース的な考え方になった点です。

受験生であれば,法定責任説と契約責任説の双方を勉強していると思いますが,この契約不適合責任になったことで,細かい処理が従来と変わってきますので,短答式試験でも論文式試験でも問われる可能性はあると思いますし,準備をしておかないと本番で出てきた時に慌てる可能性があります。

ですから,契約不適合責任についてはきちんと準備しておいたほうが良いと思いますし,過去問演習でこの論点について準備をすることは出来ません。

ただし,契約不適合責任については予備校の答練や模試をやればおそらく1回は出題されると思いますので,心配であれば,過去問の演習とは別に予備校の答練や模試を受けておけば良いと思います。



  • ●過去問演習は知識をインプットするよりも本試験を解く技術を身につける場として活用すべきであること

それから,基本的に論文式試験の過去問は,知識をインプットするためにやるというよりも,本試験を解くための技術を身につけるために行うものだと私は思っています。

もちろん,論文式試験の過去問を解いていて,知識や理解に漏れがあった場合には徹底的に復習をしておくことは大事です。

しかし,論文式試験の過去問を解く主な目的は,本試験のクセや傾向を把握したり,「自分の知らない未知の問題が出てきてパニックになってしまい答案が書けなかった」というようなことが無いよう,本試験を解くための技術を身につけるために行うというのが第一次的な目的だと思います。

合格レベルの受験生が「論文式試験では,毎年同じことが聞かれている」と言うことがありますが,これは論文式試験では問われる論点は毎年違ったとしても,法改正があったとしても,同じような観点・視点から,似たような理解の仕方が問われることが多いからです。

そのため,仮に改正前の民法による過去問であっても,本試験に必要な技術や考え方を身につけるという目的で過去問演習に取り組む上では,法改正の有無はそれ程気にする必要はないと思います。



以上のとおり,個人的には,今回の民法改正が論文式試験の過去問の演習について与える影響については,それ程心配する必要はない,と思っています。


相談者さんが,「やりようがない」と思っているとすれば,おそらく今回の民法改正の内容をまだ十分に把握していないからではないかとも思いますので,先程紹介した本やウェブページなどでまず民法の改正点を頭の中に(最初は完璧に入れなくてもよいので)整理しておくと良いと思います。


なお,新しい「えんしゅう本」について「試験にでた過去問は当時の法体系ですから、今では使えない回答もあると思うのです」との点ですが,辰巳法律研究所のウェブページには「平成29年民法(債権法)改正,平成30年民法(相続法)改正に対応させました」と書いてありますので,「今では使えない回答」ということはないと思います。

ただし,先程述べたとおり,契約不適合責任の論点のように,従来の判例等と異なる処理が必要となる部分については,過去問だけでは対応できませんので,短答式試験の勉強や,予備校の答練・模試などを通じて準備をしておく必要があると思います。




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