仕事を辞めて弁護士に転職しました

公務員として数年間働いていましたが、思い切って公務員を辞めて司法試験を受験し、現在は弁護士として働いています。 自分が受験生の時は情報が少なく相談できる人もいなかったため、色々と悩むことも多かったです。 公務員のこと、司法試験のことなどについて、受験生の方に参考になるかも知れないことを書いていけたらと思っています。 質問がある方はコメント欄に記載してもらえれば可能な範囲で回答したいと思います。回答まで時間がかかることが多々ありますがご容赦ください。

2017年07月

司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)

私は少ない勉強時間で司法試験に合格したほうだと思います。

法科大学院に入学する前は,平日1~2時間,土曜日は5時間程度,日曜日は基本的にお休みというスタンスでした。

法科大学院に入学してからはさすがに1日5時間以上は勉強をしましたが,同級生に比べると少ないほうだったと思います。

それでも無駄な勉強をしたり,回り道をいっぱいしました。

司法試験に合格して「最初からこうやって勉強すれば効率的だったな」という勉強方法や,おすすめの参考書や問題集をご紹介したいと思います。



■司法試験に合格するためのルートについて


勉強方法の前に,司法試験に合格するためのルートについて説明します。

司法試験に合格するためのルートは,大きく分けて以下の2つのルートがあります。

「法科大学院」に進学 → 「司法試験」に合格

「予備試験」に合格  → 「司法試験」に合格



「法科大学院」には、法律の学習経験がある人を対象にした「既修者コース」と、法律の学習経験がない人を対象にした「未修者コース」があります。

「法科大学院」の「既習者コース」に進学するためには法律の勉強をしなければいけませんし,「予備試験」に合格するためにも法律の勉強をしなければいけません。

どちらを目指す場合であっても法律の勉強の仕方は基本的に変わりませんので,法科大学院ルート・予備試験ルートに共通する勉強方法をお話したいと思います。

「いやいや?未修者コースであれば法律の勉強しなくても法科大学院に入学できるでしょ?」と思われた方もいるかも知れません。

しかし,個人的には法律の勉強をしないまま法科大学院に入学することはおすすめしません。

実際には「未修者コース」であっても多くの人が法律の勉強をしてから入学しています。

うっかりと法律の勉強を一切しないまま法科大学院に入学してしまった同級生の多くが法科大学院で大変な苦労をしていました。

もの凄く頭の良い人を除いて,法律の勉強をしないまま法科大学院に入学することは危険な行為です。


ですから,司法試験に合格したい人は,

とりあえず予備試験と法科大学院の既習者コースの両方を目指す
予備試験がだめだったら法科大学院の既習者コースに入学する
法科大学院の既習者コースに入学できなかった場合の最終手段として未修者コースに入学する

という考え方で望んだほうが良いと思います。




■「入門書」を読んでみよう



まず司法試験の勉強をする際に,最初に「入門書」を読んでおくことを強くおすすめします。


法律の「入門書」には様々なものが出版されていますが,これまで法律を勉強したことがほとんど無い人には、「伊藤真の法律入門シリーズ」が良いと思います。

●ISBN-10: 4535520399

●ISBN-10: 4535522596

「伊藤真」先生は「伊藤塾」という司法試験予備校の塾長です。

私は「伊藤真」先生の信者でも関係者でもありませんが,「伊藤真の法律入門シリーズ」は数ある入門書の中でも、基本中の基本に絞って書かれているため、かなり分かりやすいです。

司法試験の勉強を始める人の中で「入門レベル」の知識のインプットを省いてしまう人がいますが,そういう人は後々苦労することが多いです。

というのも司法試験では,この「入門レベル」の知識が合否を分けることが多々あるからです。

司法試験に不合格する人には様々なパターンがありますが,良くあるのが「基本的な知識に穴がある」というパターンです。

司法試験は難しい試験ですが,「自分の頭で考えて解く」という要素が大きい試験でもあるため,暗記しなければいけない知識の量は一般的な受験生が考えているよりもずっと少ないのです。

にもかかわらず,多くの受験生が「司法試験は難しい試験だから細かい知識も暗記しないと合格できないはず」と思い込んでしまい,「あれもこれも覚えなきゃ」と勉強の範囲を増やして,結果として入門書に書いてあるような基本的な知識を疎かにしてしまい,不合格になっています。

司法試験受験生の答案を採点していると,「入門書」に書いてあるような基本的な知識が正確に書けていない,ということが多くて驚きます。

ですから最初に「入門書」を読んで,基本的な知識に触れておくことが大事です。

とは言っても,最初から一生懸命になって暗記する必要はありません。

まずは「法律の勉強ってどんなものなのかな?」ってくらいの軽い気持ちで2~3回読んでみると良いと思います。


順番としては,「民法」or「憲法」→「刑法」を順で読んで,後の「民事訴訟法」「刑事訴訟法」「商法」「行政法」は読みたい順番に読むと良いです。

「民法」と「憲法」は他の法律の基本となるので,先に読んでおかないと他の入門書を読んでもしっくりこないと思います。ですから最初に読んでおきましょう。

●伊藤真の民法入門 第7版

●伊藤真の憲法入門 第6版


「刑法」を理解するためには「憲法」の知識の一部が必要になるので,「憲法」を読んだ後に「刑法」を読んだほうが良いです。


●伊藤真の刑法入門 第6版

「民事訴訟法」は「民法」という法律を実際にどのように訴訟など扱うのか,という話なので,「民事訴訟法」は「民法」よりも後に読むと良いでしょう。

●伊藤真の民事訴訟法入門第5版


「刑事訴訟法」は「刑法」という法律をどのように運用するのかという話で,「憲法」とも密接に関わる法律なので,「刑法」と「憲法」よりも後に読むと良いでしょう。

●伊藤真の刑事訴訟法入門 第5版

「商法」は「民法」の特別法(民法を前提とした法律)なので,「民法」よりも後に読むと良いでしょう。

●伊藤真の商法入門第5版

「行政法」は「憲法」や「民法」の知識が必要になるので,「憲法」と「民法」よりも後に読むと良いでしょう。

●伊藤真の行政法入門第2版




その他,おすすめの入門書としては「伊藤真新ステップアップシリーズ」があります。


見た目は入門書ですが,司法試験の論文式試験に必要な知識の多くがコンパクトに詰め込まれていますので,入門期だけでなく司法試験の直前期にも使えます。

私は司法試験に短期間に上位で合格した人からこの「ステップアップシリーズ」をすすめられて,司法試験の直前期に,基本的知識に穴がないことを確認するのに使っていました。

「ステップアップシリーズ」のうち,特に「刑法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」についてはかなり使えると思います。

入門期に余裕があればざっと目を通しておき,直前期にチェックのために読む,という使い方が良いと思います。

ただ、「ステップアップシリーズ」は現在は改訂されていないようで、時期が古くなっていっているのが欠点です。


「伊藤真の法律入門シリーズ」と「伊藤真新ステップアップシリーズ」以外のおすすめの入門書は,各科目の勉強方法の記事で別途ご紹介しているのでそちらを参照してください。

民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その1)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その2)
刑法の勉強方法とおすすめの刑法の基本書や参考書など
憲法の勉強方法とおすすめの憲法の基本書や参考書など
会社法・商法の勉強方法とおすすめの商法・会社法の基本書や参考書など
民事訴訟法の勉強方法とおすすめの民事訴訟法の基本書や参考書など
刑事訴訟法の勉強方法とおすすめの刑事訴訟法の基本書や参考書など
行政法の勉強方法とおすすめの行政法の基本書や参考書など



■他の資格試験を受けてみよう


入門書を読んだ後は何をすれば良いのか?

「いきなり司法試験に挑戦するのは不安だ」、「司法試験に向けた勉強ができるか不安だ」という人は,司法試験よりも簡単な資格試験からチャレンジしてみることを検討しても良いと思います。

簡単な資格からチャレンジして成功体験を積み重ねていったほうが、勉強が長続きしやすいというタイプの人もいます。

私も司法試験の勉強を本格的に始める前に、いくつかの資格試験を受験して合格することで「これなら司法試験の勉強を続けられるかも」という自信を得ることができました。

もちろん「いやいや,私は時間がないし、司法試験以外は眼中にないから、最初から司法試験に挑戦するんだ」という人は,最初から司法試験の勉強を始めても構いません。

司法試験の受験に役立つ資格試験については、以下の記事にまとめています。





■司法試験予備校の講座を受けるべきか?


司法試験予備校のホームページを見ると入門講座から答案練習会まで含めた「司法試験合格パック」みたいなセットの講座があります。

この司法試験予備校の講座を受験すべきか悩む人が多いと思います。

この司法試験予備校のセット講座は高いし時間もとられるんですよね。

予備校によって違いますが「司法試験合格パック」的なものは数十万円かかるところもあります。

お金と時間に余裕がある人は司法試験予備校の入門講座を受けてみても良いと思います。

勉強の順番を指示してくれますし,ペースペーカーにもなりますからね。

最近では比較的安い新興勢力の司法試験予備校も出て来ていますので,安い予備校を使うのも1つの選択肢だと思います。


ただし、司法試験予備校の入門講座は司法試験の合格に必須ではありません。

少なくとも私は司法試験予備校の入門講座は受験していませんし,私も周りでも半分くらいの人は司法試験予備校の入門講座を受けずに司法試験に合格しています。

他の難関の国家資格試験(公認会計士試験や税理士試験など)は予備校の講座を受験せずに合格するというのは至難の業なのですが、司法試験のメリットの1つは高額な司法試験予備校の講座を受験しなくても,やる気があって、やり方を間違えなければ、独学でも合格できるところにあります。

司法試験予備校の講座には良いところもありますが,独学には自分のペースで勉強できるというメリットがあります。

では,司法試験予備校の講座を受けずに,独学でどのように勉強をすれば良いのでしょうか?



■論文式問題集を読んでみよう


「入門書」を読み終わったら,一般的な司法試験受験生は「基本書」や「予備校本」を読み始めることが多いです。

「基本書」というのは法学者が書いた法律の教科書で,良く言えば重厚感があり,悪く言えば初学者には読みづらい本です。

●ISBN-10: 4130323512

「予備校本」は,司法試験予備校が出版している司法試験用のテキストで,初学者にも読みやすいように工夫がされています。

ただ勉強が進んでくると「予備校本」の丁寧な説明が逆に「回りくどい」感じたり,学問的な面白さがないので「つまらない」と感じることもあります。

●債権総論

●ISBN-10: 4844926241


私も「入門書」を読み終わった後に「予備校本」を買ってきて,イチから読み始めたのですが・・・3日で挫折しました。

「基本書」でも「予備校本」でも,司法試験8科目合わせると,全部で1万頁前後あるんですよ。

もの凄く頭の良い人はスラスラと読めるのかも知れませんが,一般人には「基本書」や「予備校本」をイチから読み込むというのは極めて非効率です。



では,どうすれば良いのか?

おすすめは「論文式問題集」を読み込むという勉強方法です。

司法試験の勉強は,そもそも司法試験予備試験,法科大学院入学試験,そして司法試験を受験するためにやるものです。

ですから,ゴール(実際の試験問題)に近いところから勉強したほうが効率的です。

司法試験や予備試験は,短答式試験と論文式試験という2種類の試験があります。

短答式試験は「次の5つの肢の中から正しいものを選べ」というような,マークシート式の試験,大学受験で言えば共通テスト(センター試験)的な方式です。

論文式試験は,問いに対して文章(論文)で解答するというタイプの試験方式です。

なので,司法試験に合格するためには,短答式試験で正解の肢を選べるようになって,論文式試験で求められている文章(論文)を書けるようになればいいんです。


極端に言えば「基本書」や「予備校本」を読まなくても,短答式試験と論文式試験で点が取れれば良いんです。


実際に、私は「基本書」や「予備校本」の通読(最初から最後まで通して読むこと)をほとんどしないまま司法試験に合格しました。

「基本書」や「予備校本」は,論文式試験の問題や,短答式試験の問題をやっていて分からないところだけ読み込めば良いんです。

「パレートの法則」と言って「大事なことは全体の2割程度だ」というルールがあったりしますが,司法試験でも「基本書」や「予備校本」に書かれている全てが試験に出るわけではありません。

「基本書」や「予備校本」に書かれている内容のうち,司法試験に合格するために覚えておかなければいけない知識は一部だけです。



司法試験に合格するために覚えておかなければいけない知識は,論文式試験の問題集の「解答例」や,短答式試験の問題集の「解説」に書かれています。

だったら,最初から「司法試験に合格するために覚えておかなければいけない知識」だけが書かれている「論文式試験の問題集」や「短答式試験の問題集」を読んだほうが効率が良いんです。



では,どの問題集を読めばよいのか?

問題集は本屋さんで実際に手で取ってみて自分に合いそうなものを選べば良いと思いますが、何を使えば良いか迷っている方には「伊藤塾試験対策問題集」をおすすめします。


●民法 (新伊藤塾試験対策問題集ー論文)


この「伊藤塾試験対策問題集」をおすすめする理由は、①「参考答案」の質が良い、②問題数の数が多すぎない、③ランクが付されている、という点にあります。


司法試験の合否は論文式試験の「答案」の質によって大きく左右されます。

法律的な知識が沢山あっても,論文式試験の「答案」に書いたことが試験委員に伝わらずに不合格になってしまう人が沢山います。

「答案」に書いたことが伝わらずに不合格,というのは司法試験に10年以上受からない人によくあるパターンです。

一方で,基本的な法律的な知識しかなくても,論文式試験で分かりやすく,法律の基本に沿った素直な「答案」を書けば,上位で司法試験(や予備試験)に合格することが可能です。

1~2年程度の勉強で予備試験や司法試験に合格する人は,基本的な法律知識だけをインプットして,後は「答案の質」で勝負している人が多いです。


ですから,司法試験の勉強の初期の段階から,上位合格者の答案に近い「質の高い」答案に触れて,その書き方を真似しておくことが大事です。

野球でもサッカーでも,上手い人の真似をしたほうが上達が早いですよね。


私は本屋さんにある論文式試験の問題集は全て目を通しましたが,この「伊藤塾試験対策問題集」の答案が一番,上位合格者の答案に近くて,かつ分かりやすいと思います。

「入門書」を2~3回読んだら,最初は「伊藤塾試験対策問題集」の「Aランク」だけで良いので,問題,参考答案,解説をぐるぐると読み込んでみてください。

「Aランク」の問題は1科目30問程度しかないはずですので,そんなに時間はかからないと思います。

最初は問題・参考答案・解説を読んでいても,分からないところが多いと思いますし、苦痛に感じることも多いと思います。

しかし、何回か回して読んでいるうちに「論文式試験の答案はこんな感じで書かなければ点がつかないんだな」とか「入門書に書いてあったことは,こうやって試験に出るんだな」とか,司法試験の感覚が掴めてくると思います。

読むだけの作業が苦痛な人は,実際に参考答案を真似して自分で答案を書いてみると良いです。

私は「伊藤塾試験対策問題集」の答案をパソコンで写経していました(手で書くよりもパソコンで打ったほうが速いので。)


中堅程度の法科大学院であれば,「入門書」を読み込んで「伊藤塾試験対策問題集」を何度か回していれば,(運が悪くなければ)それだけで既習者コースに合格できるはずです。

私も,とある旧帝大の法科大学院の既習者試験に向けてやった勉強は

①「入門書」を何回か読む

②論文問題集を読んだり写経する

③過去問を分析する

基本的にはこれだけです。



これだけで旧帝大の法科大学院の既習者試験にあっさり合格しました。

平日の勉強時間は1~2時間,土曜の勉強時間は5時間程度です(日曜日は試験直前以外はお休み)。


私は憲法・民法・刑法については,「伊藤塾試験対策問題集」ではなく,柴田孝之先生の「論文基礎力養成講座」を使いましたが,「論文基礎力養成講座」は改訂がなく古くなってしまったので,今から受験するのであれば「伊藤塾試験対策問題集」を使ったほうが良いと思います。

また行政法については当時「伊藤塾試験対策問題集」がなかったため「伊藤真試験対策講座」の巻末の問題集で代用しましたが,今は「伊藤塾試験対策問題集」があるので,「伊藤塾試験対策問題集」を使ったほうが良いと思います。

●ISBN-10: 4335304900




■基本書と予備校本について


「論文式問題集」を読み込む,という勉強方法をご紹介しましたが,「基本書」と「予備校本」は買っておいたほうが良いです。

「論文式問題集」を読み込んでいると,「何故このような答えになるのかよく分からないな」とか「似たような問題を違う角度で聞かれたら答えられないかも」という問題や、「そもそも問題の意味がよく分からない」という場面に出くわすと思います。

そういった時には「基本書」や「予備校本」を参照して,疑問に思っていることを調べると,必要な知識が頭に入りやすいです。

人間って,ただ本を読むよりも「何故なんだろう?」という問題意識を持って本を読んだほうが記憶に残りやすいんですよね。

ですから「論文式問題集」を読んで疑問を感じたら,「基本書」や「予備校本」を参照すると勉強がはかどります。



■基本書と予備校本,どちらを買うべきか?


司法試験受験生によくあるのが「基本書と予備校本,どちらを買ったほうが良いか?」という悩みです。

私の同級生も「予備校本なんて邪道だ」という基本書派と,「基本書なんて難しくて読めるかボケ」という予備校本派に分かれていました。



基本書と予備校本,どちらを買うべきなのでしょうか?

私は「両方買っておいたほうが便利」だと思います。

「基本書」や「予備校本」は,「問題集を読んでいて分からない時に調べるために使うもの」というスタンスですので,調べるための教材は多ければ多いに越したことはありません。

基本書には書いてあるが予備校本には書いていないこともありますし,予備校本には書いてあるけれども基本書には書いていないこともあります。

ですから,調べ物をするときに両方あったほうが便利なんですよ。


私は予備校本として東京リーガルマインド(LEC)の「C-Book」を全巻そろえていました。

「C-Book」は「痒いところにも手が届く網羅性」があって調べ物には便利です。

●ISBN-10: 4844926241



通読用であれば「伊藤真試験対策講座」が比較的コンパクトで読みやすいと思います。

●伊藤真試験対策講座


予備校本は便利ですが,調べ物をしていると予備校本だけでは「しっくり来ない」ことがあります。

そんな時に学者の先生が書いた「基本書」や判例百選の解説を読んだりすると「なるほど!」と納得することがあります。

学者の先生はやっぱり頭が良いので,我々が疑問に思うようなことはお見通しで丁寧に解説してくれていることが多々あるんですよね。

基本書を読んで「なるほど!」と一度納得したり感銘を受けたりすると,その調べた知識はなかなか忘れません。

また,勉強を始めた頃は予備校本のほうが読みやすいのですが,司法試験に合格するくらいの知識が身についてくると基本書のほうが読みやすくなります。

私も現在は弁護士の実務で専ら基本書を使っていますが,格好つけている訳ではなく,基本的な知識が身について基本書のほうが予備校本よりも読みやすくなってしまったからです。

そういった意味では「基本書」も持っていたほうがベターです。

各科目のおすすめの基本書は,各科目の勉強方法の記事を参考にしてください。

民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その1)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その2)
刑法の勉強方法とおすすめの刑法の基本書や参考書など
憲法の勉強方法とおすすめの憲法の基本書や参考書など
会社法・商法の勉強方法とおすすめの商法・会社法の基本書や参考書など
民事訴訟法の勉強方法とおすすめの民事訴訟法の基本書や参考書など
刑事訴訟法の勉強方法とおすすめの刑事訴訟法の基本書や参考書など
行政法の勉強方法とおすすめの行政法の基本書や参考書など

■判例集はどう使えば良いのか?


司法試験の勉強をするにあたって,基本書や予備校本と別に「判例集」も全科目買っておくべきです。

司法試験の問題は過去の裁判を元にした事例が良く出されます。

そのため問題集の問題を解いていると「この問題の元になった裁判ってどういう事案で,裁判所はどういう判断をしたんだろう?」ということを調べたくなる場合があります。

判例は基本書や予備校本にも載っているのですが,結論だけ書かれていたりして,基本書・予備校本を読んだだけでは「よく分からん」ということが多々あります。

そんな時に便利なのが「判例集」です。

過去の有名な裁判の「事案」と「裁判所の判断」が記載されていて,「解説」もついていたりします。

基本書や予備校本を調べても分からなかったことが「判例集」を見たら,あっさりと分かった,ということが多々あります。

「判例集」には色々なものがありますが,買うのであれば「判例百選」をおすすめします。

一番メジャーな判例集ですし,司法試験委員も司法試験で「どの判例を問題に出すか?」を考える時に判例百選に載っている判例かどうかをある程度の目安にしているそうです。

●民法判例百選1 総則・物権〔第8版〕


判例百選の良くないところは「字が小さい」ことです。

使っていれば慣れたりもしますが,字が小さいので読んでいて疲れます。

私は判例百選を裁断して,スキャナで読み込みPDFにして,パソコンやタブレットに入れて拡大して読むようにしていました。

判例集や基本書・予備校本を全科目買い集めると,結構な量になります。

PDFにしてパソコンやタブレットに入れておくと,どこにでも持ち運べるので便利ですよ。

●カール事務器 裁断機 ペーパーカッター A4対応 DC-210N

●富士通 ScanSnap iX500

●Apple iPad


「読取革命」などのOCRソフトを使うと本の中の文字を検索したり,ワードなどにテキストをコピペできるようになりますし、PDFファイルの編集ソフトを使うとPDFに蛍光ペンを塗ることができるようになり便利です。


●読取革命

●PDF-XChange Viewer Pro





■論文式試験の過去問・再現答案を分析しよう


論文式問題集を読み込んで最低限の知識をインプットしたら,できるだけ早い段階で論文式試験の過去問を分析しましょう。


(1)法科大学院ルートで司法試験を目指している人


法科大学院ルートで司法試験を目指している人は,まず受験を予定している法科大学院の入学試験の過去問を見て,どのような問題が出題されているか分析おきましょう。

法科大学院の入学試験の過去問は,たいてい法科大学院のホームページから閲覧できます。

法科大学院の入学試験について分析をしないまま合格する人も少なからずいます。

ただし,最低でもどのような問題が出題されるのかくらいは把握しておかないと本番で慌てる可能性がありますので,法科大学院のホームページにはよく目をとおしておきましょう。





(2)予備試験ルートで司法試験を目指している人


予備試験ルートで司法試験を目指している人は,予備試験の論文式試験の過去問と再現答案を分析しておく必要があります。

これをやってない人は,高確率で落ちます。

「そうは言っても『分析』って何をやればいいんだ?」と思われるかも知れません。

そんな人に便利なのが辰已法律研究所の「司法試験予備試験 論文本試験 科目別・A答案再現&ぶんせき本」です。

●ISBN-10: 4864663211

この本では,予備試験の上位合格者の再現答案や点数の良くない再現答案が掲載されていて,何が良くて何が悪くかったのかが分析されています。

時間を計って自分で答案を作成してみて,上位合格者の再現答案と違うところ,点数の良くない再現答案と共通しているところをチェックしてみると良いです。

勉強仲間がいるのであれば,お互いの答案を批評しあうと,やる気も出ますし,自分では気付かなかった悪いクセに気付くこともできます。

論文式試験の過去問を実際に解いてみると、全く歯が立たなくてショックを受けると思いますが、ほとんどの受験生がそうなので、最初はあまり気にする必要はありません。

上位合格をした受験生でも、最初に論文式試験の過去問に取り組んだ時は、全く書けなかったり、酷い答案を書いてしまうことがあります。

めげずに何度も過去問にチャレンジし続けることで、問題を解くためのコツのようなものが分かってきて、少しずつまともな答案が書けるようになってくるはずです。



(3)法科大学院に入学した人・予備試験に合格した人


法科大学院に入学した人・予備試験に合格した人は,できるだけ早い段階で司法試験の論文式試験の過去問と再現答案の分析をしましょう。

予備試験と同様に,辰已法律研究所の「司法試験 論文過去問答案パーフェクト ぶんせき本」が便利です。

辰已法律研究所は上位合格者の再現答案を大量に保有しており,過去問や再現答案の分析も得意としています。

●ISBN-10: 4864663246

時間を計って自分で答案を作成してみて,上位合格者の再現答案と違うところ,点数の良くない再現答案と共通しているところをチェックしてみてください。

法科大学院生であればゼミ組んで,お互いの答案を批評しあうと良いです。

最低でも過去3年分,できれば平成18年以降全ての問題をやったほうが良いです。





■短答式試験対策をやろう


法科大学院の入学試験では,短答式試験を課しているとことはあまり多くありません。

他方,予備試験ルートで司法試験を目指す人は,予備試験において憲法・民法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法・商法・行政法・一般教養科目の8科目について,短答式試験を受験する必要があります。

法科大学院ルートで司法試験を目指す人も,司法試験で,憲法・民法・刑法の3科目について短答式試験を受験する必要があります。


ということで,予備試験ルートで司法試験を目指す人は,最初から8科目について短答式試験対策をする必要がありすし,法科大学院ルートで司法試験を目指す人は法科大学院に入学したら3科目について短答式試験対策をする必要があります。

短答式試験の勉強は比較的単純で「ひたすら問題をこなし,解けなかった問題を繰り返し解く」,基本的にはこれだけです。

論文式試験は答案の書き方が悪いといくら勉強しても点数が伸びないことがありますが,短答式試験は基本的に勉強すれば勉強しただけ点数が上がっていきます。

そういった意味では対策が立てやすい試験です。


■短答式試験対策をやろう

(1)「司法試験・予備試験 短答 過去問集」


短答式試験の問題集は好みのものを使えばよいと思います。

私が最終的に使っていたのはスクール東京出版の「司法試験・予備試験 短答 過去問集」です。

●ASIN: B06WGN544Q

司法試験の短答式試験は,知識で解く問題もありますが,短期合格者の多くは基本的な知識を使って考えて問題を解いています。

司法試験に短期間で合格するコツは「基本的な知識だけをインプットして,本番で少ない知識をどうやって活かすか」にかかっています。

この「司法試験・予備試験 短答 過去問集」では,短答式試験の問題を「頭を使って解く」にはどうしたらよいか,という視点から解説が書かれていたりします。

解説もコンパクトで速く回せるのもおすすめです。

ただ、このスクール東京出版の問題集は使っている人が少ないので、他と同じ問題集を使いたい人には向いていません。



(2)司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト」


他の受験生が使っているようなメジャーな問題集を使いたい人は辰已法律研究所の「司法試験&予備試験短答過去問パーフェクト」などを使うと良いと思います。

●ISBN-10: 4864662940

辰已法律研究所の問題集は旧司法試験の頃からメジャーで,解説が詳細なのが特徴です。

解説が詳細なため,わざわざ基本書・問題集・判例集を参照しなくても良い,というのがメリットです。

ただし,解説を読むのに時間がかかるため,自分に不必要な解説を読み飛ばせる人じゃないと,何回も回すには向いていないかも知れません。


(3)肢別本


「時間がない」という人や「電車の中や空き時間で読めるコンパクトな問題集が欲しい」という人には,辰已法律研究所の「肢別本」をおすすめします。

「肢別本」は,司法試験・予備試験の過去問を分野毎に1問1答形式並べたもので,「速く」回すことができるのが特徴です。

もの凄く気合いを入れれば憲法・民法・刑法の3科目を4日程度で,刑事訴訟法・民事訴訟法・商法・行政法を含めた7科目を10日程度で回すことも不可能ではありません。

下手に基本書や予備校本を読み込むよりも「肢別本」を読み込んだほうが,法律知識は一気に増えます。

ただし「肢別本」は1問1答形式なので「肢の切り方」の訓練ができません。

司法試験や予備試験の短答式試験の問題は「以下の肢から正しいものを選べ」という形式だけでなく「以下の肢から正しいものの組み合わせを選べ」とか,「正しいものはいくつあるか」といった複雑な問題が出るので,「肢別本」だけだと本試験に対応できない可能性があります。

司法試験であれば短答式試験の足切ラインが低いため「肢別本」メインでやっていても合格点は取れると思いますが,予備試験は短答式試験のレベルが高いので「肢別本」だけだと、人によっては合格点を取れないという場合もあると思います。

「肢別本」をメインに据えて予備試験を受ける人は,予備校の短答式の答練を受けるなどして,「肢の切り方」の訓練をしておいたほうが良いと思います。




■択一六法は必要か?


短答式試験対策に便利な参考書として「択一六法」があります。

●ISBN-10: 4844924699

「択一六法」は短答式試験に必要な知識をコンパクトにまとめた本で,東京リーガルマインド(LEC)が出版している「択一六法」は,同社の予備校本である「C-Book」の内容をコンパクトまとめたような本になっています。

東京リーガルマインドの「択一六法」他に,似たような本としては伊藤塾の「伊藤真の条文シリーズ」というものがあります。

「伊藤真の条文シリーズ」は伊藤塾の予備校本である「伊藤真試験対策講座」をコンパクトにまとめたような内容になっています。

●ISBN-10: 4335312660



「択一六法」や「条文シリーズ」はあると便利ですが,絶対に必要というわけではありません。


「択一六法」を使う場合には,「短答式の問題集」で問われた知識の箇所について「択一六法」でマーカーを引いておくなどして,試験の直前に「択一六法」のマーカーで引かれた部分を一気に読み込む,という方法が便利です。

イメージとしては,自分で短答式対策用のノートを作るのではなく,既に他人が作った短答式対策用のノートを活用する,という感じです。

「択一六法」を読み込むという勉強方法が合うと思った人は買えば良いと思いますし,そうでない人は無理に買う必要はないと思います。

私は一応「択一六法」を全科目買いましたが,ほとんど使いませんでした。



■予備校の答案練習会・模試を受験しよう


予備試験・司法試験の1年~半年くらい前になったら,予備校が行っている答案練習会(答練)を受験しましょう。

答案練習会(答練)では,予備試験・司法試験と同じ形式の問題が出題され,本番と同じ時間で解くことになります。

そして論文式試験の答案は司法試験合格者が採点をして,コメントを入れて返却されます。

そのため,答案練習会を受けることで受験生の中での自分の位置や,不得意な科目,答案の悪いクセなどが分かります。

答案練習会の結果を見て「憲法は合格点を取れそうだけど,民法はヤバそうだな。民法を中心に勉強をしよう。」といった勉強の軌道修正を行うことができます。

受験生の多くは予備校の答練や模試を受験していますので,本番で答練や模試と同じような問題が出題された場合,答練や模試を受けていなかった受験生は一気に不利になってしまいます。

このように,予備校の答練や模試は、費用がかかることを除けばメリットしかありませんので,合格したければ受験しておくべきです。


答練や模試を実施している予備校は複数ありますが,だいたいの特徴は以下のとおりです。

・辰巳法律研究所
→旧司法試験の頃から「答練の辰巳」と呼ばれていただけあって受験生が多い。

・伊藤塾
→問題の質,参考答案の質が良い。
 最近の司法試験合格者に聞くと、伊藤塾の答練を受けていた、という人が増えてきているように思われる。

・早稲田セミナー
→価格がやや安め。
お金にあまり余裕はないけど複数の予備校の答練を受けたい人にはおすすめ。


迷ったら、周囲の受験生にどこの答練を受けているか聞いてみて、受験者が最も多そうな予備校の答練を受けておくのが無難だと思います。

他の受験生が答練や模試で経験した論点や問題を自分だけ知らないという状況になると、不利になる可能性が高いからです。

ちなみに,私はお金も時間も余裕がなかったので辰巳法律研究所の「スタンダード答練第2クール」と「全国模試」だけ受験しました。


答練や模試では「復習」が大事です。「復習」をしないと意味がありません。

答練や模試の点数が悪くてもあまり落ち込む必要はありません。

むしろ「本番前に自分の知識の穴が見つかって良かった。ラッキー。」くらいに考えてしっかりと復習をしましょう。


■まとめ


以上のとおり説明した方法は私がやってきた勉強方法ですので,これを実践できれば司法試験には合格できるはずです。

とは言っても勉強方法は十人十色で,自分に合った勉強方法を見つけることも大事です。

上記の方法以外でも合格できる勉強方法はたくさんあります。大事なのは、思考停止せずに、自分にとって何が最善の勉強方法なのかを自分の頭で考えることです。

自分に合った勉強方法を見つけるためには,いろんな合格者の本や合格体験記を読んでみると良いと思います。


私は受験生の時に「柴田孝之」先生の勉強法の本を何冊か読みました。

柴田孝之先生は東京リーガルマインド(LEC)の講師で,この人が考える司法試験の勉強方法はとにかく合理的です。

1冊で良いので柴田孝之先生の本を読んでおくことをおすすめします。

●ISBN-10: 4844971077

●ISBN-10: 4534046251



合格体験記は予備校が出しているものだと「是非この予備校を使いましょう」みたいな予備校の宣伝になっている場合があるので,そのようなバイアスが少ない受験新報の合格体験記がおすすめです。

●ISBN-10: 4587232920

●ASIN: B072RC11J9



受験新報には,合格者が作成した非常に便利なノートなどが掲載されることがあって便利だったですが・・・残念ながら2020年に休刊になってしまいました。


その他,司法試験の受験雑誌としては,辰巳法律研究所の「ハイローヤー」がおすすめです。

特に「ハイローヤー」では,毎年4月頃に司法試験の「ヤマ当て」の特集があるのですが,公法系と刑事系はヤマが当たることが多いので,司法試験直前に読んでおくことをおすすめします。




次回からは,各科目ごとの勉強方法とおすすめの基本書等についてお話したいと思います。



【アクセスの多い記事】
司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その1)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その2)
刑法の勉強方法とおすすめの刑法の基本書や参考書など
憲法の勉強方法とおすすめの憲法の基本書や参考書など
会社法・商法の勉強方法とおすすめの商法・会社法の基本書や参考書など
民事訴訟法の勉強方法とおすすめの民事訴訟法の基本書や参考書など
刑事訴訟法の勉強方法とおすすめの刑事訴訟法の基本書や参考書など
行政法の勉強方法とおすすめの行政法の基本書や参考書など
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仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格9:司法試験

仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格の中で,私が一番おすすめすしているのが「司法試験」です。

自分自身が司法試験に合格して人生が大きく変わって自由になった,というのもありますが,やはり他の資格に比べると合格のメリットが圧倒的に多すぎますし,司法試験に合格していれば仕事を辞めても食べるに困るということはほぼないでしょう。



■弁護士は食べていけるのか?


私が司法試験に合格する前に不安に感じたのは「司法試験に合格して食べていけるのか?」ということでした。

というのも,インターネッを見ると「年収100万円以下の弁護士が増えてきた」といったような記事を目にすることがあるからです。

しかし,実際に司法試験に合格して弁護士になってみると,「弁護士になって食べていけないという人はほとんどいないのではないか」というのが実感です。

私の法科大学院の同級生,司法修習の同期,同じ弁護士会の弁護士を見ても「弁護士になったけど食べていけなくて困っている」という人を見たことがありません。

就職活動に失敗したり,ボスに事務所を追い出されたりして,数ヶ月間収入があまりないという弁護士に時々出会うことはありますが,そういった弁護士もほぼ半年以内には次の就職先(法律事務所や一般企業)を無事に見つけて,給料をもらっています。

就職活動に失敗したり,クビになっても,半年以内にまともな就職先が見つかる職業って,弁護士と医者以外にはそうそうないんじゃないでしょうか。


「でも,ネットの情報では年収100万円以下の弁護士や,年収300万円程度の弁護士がいるみたいじゃないか」と思われる方もいると思います。

私の周囲でも年収100万円以下の弁護士はいますが,それは弁護士をほぼ引退した高齢の先生か,先ほどお話ししたような就職活動に失敗したり,ボスに事務所を追い出されたりして,一時的に就職活動をしている弁護士です。


前者の高齢の先生ですが,弁護士には定年がないので70代や80代でも現役で弁護士をしている人がいます。

その中には「年金ももらっているし,貯金もあるし,住宅ローンもないから,弁護士の仕事をしなくても食べていけるけど,無職という肩書きになるのが嫌だから,弁護士登録はしている」という高齢の先生が少なからずします。

裁判所ではほとんど見かけないのですが,弁護士会の忘年会なんかには出席するような先生ですね。

弁護士会のルールでは,高齢の先生は弁護士会費が免除される制度もあるので,「仕事はしていないけど取りあえず弁護士登録をしたままにしている」という先生もいます。

弁護士としての収入は100万円以下でも,年金をもらっているので,別に生活に困っていないんですよね。


後者の「就職活動に失敗したり,ボスに事務所を追い出されたりして,一時的に就職活動をしている弁護士」については先ほどお話ししたとおり,ほぼ半年以内に次の就職先が決まります。

なので高齢の「年収100万円以下の弁護士」は生活に困っていないし,若手の「年収100万円以下の弁護士」はずっと年収100万以下な訳ではなくて一時的なもの,というパターンが多いと思います。


それから「仕事がない」と言っている弁護士のほとんどは東京の弁護士です。

東京で弁護士をやるメリットは「成功すれば年収3000万は余裕,年収1億も可能」という点ですが,東京で弁護士をやるデメリットは「競争が激しいため,客が付かないと売上があがらない」というところにあります。

他方,地方で弁護士をやっていると,大手企業の本社が少ないため年収1億は厳しいですが,競争がそれほど激しいわけではないので,食べていけないということはありません。


しかも,司法試験に合格した後の進路は弁護士だけではありません。

後にお話するように,司法試験に合格した後に,弁護士にならずに大企業に就職する人,自治体や官公庁で働く人,大学教員になる人,会社役員になる人,裁判官・検察官になる人など,司法試験合格後の進路は弁護士だけではありません。

しかも司法試験に合格すると,行政書士,税理士等の仕事もできますし,公認会計士,中小企業診断士等の試験でも科目免除を受けられるのでダブルライセンスを狙いやすくなります。

司法試験のメリットは,合格することで職業選択の幅が一気に広がるという点にあります。


■弁護士は自由


司法試験に合格するメリットは「仕事の幅が広くて自由」という点でしょう。

司法試験に合格して弁護士になるにしても様々なタイプの仕事の仕方がありますし,司法試験に合格すると弁護士以外にも様々な仕事があります。


1 渉外弁護士,企業法務専門の弁護士


弁護士の中でも「花形」といえば渉外弁護士や企業法務専門の弁護士でしょう。

弁護士を数百人抱える大手法律事務所に就職して,国際性のあるビジネス案件を取り扱ったり,大企業の顧問となって大規模なM&A事案に携わったりする,そんな弁護士に憧れて司法試験を目指す人も少なくありません。

大手法律事務所に就職すれば,弁護士1年目から年収1000万円は超えます。

ただしその分だけ仕事は忙しく,睡眠時間が1日3時間なんてことも珍しくないようですので,体力に自信がない人には,あまりおすすめできません。

また大手法律事務所の中でも四大法律事務所では,事務所内の競争が激しく,競争に敗れて事務所を辞める弁護士もいます。

ただ,競争に敗れて大手法律事務所を辞めた弁護士の中にも「元四大法律事務所に勤めていた弁護士」ということで箔が付けて,独立して活躍をしている弁護士もいます。



2 町弁(マチ弁)


大手法律事務所の弁護士と対義語のような形で使われる言葉が「町弁(マチ弁)」です。

「町弁(マチ弁)」という言葉は,主に離婚,相続,債務整理,消費者事件,交通事故・・・等々といった,個人の事件を主に扱う弁護士を意味する言葉として使われることもありますが,「町弁(マチ弁)」の中には中小企業の法務を扱っている弁護士もいますし,非常に幅広い意味を持っている言葉でもあります。

主に1人から10人程度の法律事務所で働いている弁護士を「町弁(マチ弁)」と呼ぶことが多いと思います。

弁護士のメリットは,いわゆる「町弁(マチ弁)」として,自由に仕事をして,食べていけるという点にあると思います。

サラリーマンをやっていると,仕事をクビになったら再就職するのも大変です。

公務員の場合は仕事をクビになることはほとんどありませんが,嫌な上司にあたってしまったり,激務に追われて精神的に病んで仕事を辞めてしまう人も少なくありません。

でも弁護士は「職場が嫌になったら辞めればいいや」って思えるのが強みです。

嫌な上司にあたったら辞めれば良いし,その職場が合わないなって思えば辞めれば良いんです。

私は幸い上司や先輩に恵まれているので今の事務所を辞めようとは思っていませんが,知り合いの弁護士の中には上司とそりが合わなくて,他の事務所に移ったり,独立している弁護士が少なからずいます。

「独立したら収入も休みも増えて,海外旅行にも気軽に行けるようになった」なんて話を聞くと,少し羨ましいなって思います。




3 インハウスローヤー


最近では企業でインハウスローヤーとして勤務する弁護士も増えてきました。

インハウスローヤーの魅力は,弁護士資格を持っていると比較的容易に大企業・有名企業の法務に就職できること,年収もまずます良いこと,ワークライフバランスが取りやすい事などでしょう。

一般の法律事務所の場合,夜遅くまで働くということも珍しくありませんが,インハウスローヤーの場合,企業によっては残業も少なく,土日も休めて,しかも有給休暇や夏期休暇も取りやすい職場もあります。

知り合いの弁護士の中にも,法律事務所の就職活動に失敗した後に,有名企業にインハウスローヤーとして就職した人がいます。

一般企業って法律をきちんと分かっている人は意外に少ないんですよね。

そんな中に法律を一通り学んだ弁護士がいると重宝されます。

もともとサラリーマンだった人が仕事を一度辞めて法科大学院に進学して司法試験に合格し,その後に元の会社に戻って役職を得る,という人もいますね。


4 地方自治体や中央官庁で働く弁護士


インハウスローヤーと同様に最近増えてきたのが,地方自治体や中央官庁に勤務する弁護士です。

自治体の場合は500万円から1000万円程度,中央官庁の場合は600万円から1000万円強くらいの年収で,弁護士を募集しているところが多いようです。

公務員としての安定性もありますし,公益のために働くというやり甲斐もあるので,弁護士が働く場所としては魅力的な1つの選択肢になってきています。

私の知り合いは,法律事務所を辞めて地方自治体に弁護士として就職したのですが「いろいろと頼られて,毎日仕事が楽しくて仕方がない」と言っています。


5 ひまわり基金法律事務所


「独立開業してみたいけど,生活ができるか不安だ」という人もいると思います。

そんな人に魅力的なのが「ひまわり基金法律事務所」の弁護士です。

「ひまわり基金法律事務所」は,弁護士が不足している地域に設置される法律事務所(弁護士事務所)で,なんと事務所の開設費用として最大500万円が援助されます。

しかも,なんと収入が少ない場合には運営費用も援助されます。

弁護士会のホームページの言葉を引用すると

運営費援助は、公設事務所の運営経費に720万円(公設事務所弁護士の年間保障所 得額)を加えた額に実際の収入が満たない場合に、その不足分の範囲内で援助されます。

運営費援助の上限は原則1000万円ですが、事情により1200万円まで認められます。こ の他、支援委員会に出席する際の交通費・宿泊費や、研修に参加する際の交通費・宿泊費も援助されます。

とあります。

ようするに「赤字になりそうになったら生活できるように援助してあげますよ」というシステムなんですよ。

そして開業してみて運営が軌道に乗った場合には,そのまま定着することも可能です。

「ひまわり基金法律事務所」は「弁護士が不足している地域で頑張ってみたいけど,独立するのは心配だ」という人には魅力的な選択肢です。




6 法テラスのスタッフ弁護士


「法テラス(日本司法支援センター)」とは,「法的なサービスをだれでも身近に受けられるように」という理念の元で国によって設置された機関なのですが,その法テラスで働く弁護士が「スタッフ弁護士」です。

スタッフ弁護士は普通の弁護士と同じように,個人から事件を受任して訴訟等を行うという仕事もありますし,最近では「司法ソーシャルワーク」と言って高齢者,障がい者,生活困窮者,外国人,DV・ストーカーの被害者、虐待を受けている子供など,自分から弁護士などにアクセスすることが難しい人達に対して,自治体,福祉機関,医療関係者などと連携して,支援を行っていく,という仕事をしている人もいます。

スタッフ弁護士は,法テラスから同期の裁判官・検察官とほぼ同等の給与(月給)が支給され,しかも厚生年金,健康保険,雇用保険,労災保険も付けてもらえるという好待遇です。

普通の弁護士も公益的な活動を熱心にしている人が多いのですが,スタッフ弁護士は給料をもらいながら公益的な活動に携わることができる,というところが魅力だと思います。



7 大学教授,大学教員,法学者


最近では司法試験に合格した後に大学教授・大学教員になる人が増えてきました。

以前は弁護士を目指す人は司法試験を受験し,学者を目指す人は研究大学院に進学する,という棲み分けがあったのですが,最近では司法試験合格者が研究大学院の後期課程(博士課程)に進学して学者になるというパターンが増えてきています。

むしろ,最近では大学教授・大学教員を目指すためには,司法試験に合格するほうが近道だ,と言われることもあるようです。

実際に大学院の後期課程(博士課程)の入学試験を見ると,司法試験合格者には別枠が用意されていて,入学しやすいように配慮がなされているんですよね。

最近,ある法学部の准教授にお会いしたのですが,その先生は「僕の時は司法試験に合格しなくても大学教員になれたから運が良かった。今から大学教員を目指す学生は大変だよね。」って言っていました。

裏を返せば,司法試験に合格すれば,大学教授・大学教員への道も見えてくるということです。


8 裁判官・検察官


司法試験に合格した後の進路として,弁護士以外に多いのが裁判官・検察官になるというパターンです。

そもそも,司法試験は裁判官・検察官・弁護士になる者を選別するための国家試験なので,裁判官や検察官を目指して司法試験を受験する人も多いです。

私の司法修習の同期でも,将来を希望を聞くと,弁護士になりたい人5割,検察官になりたい人3割,裁判官になりたい人2割といった感じでした。

裁判官の魅力は,自分で判決を書くことができる,すなわち事件に決着を付けることができるという点でしょうか。

もっとも民事訴訟の場合には和解(話合い)で事件が解決することも多く,裁判官が間に入って紛争を解決する,ということも裁判官の仕事の醍醐味だと思います。


検察官は悪いことをした人を調べて裁判にかけて罪を償わせるという点で,正義感のある人にとっては魅力的な仕事だと思います。

他方,間違って無罪の人を処罰することは絶対に許されませんから,責任も重く,大変な仕事ではあります。


裁判官や検察官は最初の給料は若干少なめですが,少ないと言っても一般的な公務員よりは多く給料をもらっています。

そして,給料はどんどん上がっていき,裁判官・検察官になって約10年目で年収は1000万,約20年目で年収1700万円くらいになります。


なお,弁護士になった後に裁判官になるという「任官制度」というものもあります。

なので,弁護士になった後に「やっぱり裁判官が向いていたな」と思った場合にも,裁判官になるチャンスはあります。




9 法律の仕事に拘る必要もない


司法試験に合格した後に,弁護士や裁判官,検察官になる必要はありません。

司法試験に合格すれば最低限度の法律知識は身につきますし,経歴にも箔が付きますので,司法試験をステップにして全く別の仕事につくという選択肢もあります。

法律家以外の職業で多いのは例えば政治家です。

橋下徹,高村正彦,仙谷由人,枝野幸男等,司法試験に合格した後に政治家になった人は少なくありません。


また,企業の経営者になる人もいます。

例えばライフネット生命の岩瀬大輔社長は東京大学在学中に司法試験に合格したものの法律家にはならずに海外企業に入社し,ハーバードビジネススクールに留学した後に,ライフネット生命を設立しました。


このように司法試験に合格したとしても,弁護士や裁判官,検察官以外にも道はあります。


「せっかく司法試験に合格したのに,法律家にならないのは意味がないんじゃないか?」と思われる人もいるかも知れませんが,法律家以外の仕事であってもほとんどの仕事は法律の知識があったほうが優位に仕事をすすめることができます。

法律の知識がないまま仕事をするのは,ルールが分からないままスポーツをしているようなものです。

特に政治家は法律を作るのが仕事ですから,現行の法律を知らないと何も出来ません。

ですから,司法試験に合格した後に法律の知識を活かして法律家以外の仕事につけば,法律の知識がないライバル達に大きな差を付けることがきます。





■司法試験に合格すると他の資格もついてくる


あまり知られていないことですが,司法試験に合格して弁護士資格を得ると,弁護士以外の士業などの仕事もできるようになります。

司法試験は他の士業の仕事も扱えるオールマイティーな資格なんです。

たとえば,弁護士の資格を持っていると,司法書士,行政書士,社会保険労務などの仕事をすることができます。

また,弁護士の資格を持っていると,税理士,弁理士,行政書士,社会保険労務士の登録をすることができます。

司法試験に合格した後に,弁護士と税理士の両方に登録する人は結構います。


また,国会議員の「政策秘書」になるためには,原則として「国会議員政策担当秘書資格試験」に合格する必要がありますが,司法試験の合格者は無試験で政策秘書になることができます。


司法試験は合格すると,他の様々な士業などの仕事が扱える最高峰の試験なんです。



■司法試験に合格すると他の資格試験で有利になる


その他にも司法試験に合格すると,他の資格試験で有利になります。

たとえば,公認会計士試験に合格するためには,本来であれば以下の科目の全てを受験する必要があります。

○短答式試験
(1)財務会計論
(2)管理会計論
(3)監査論
(4)企業法


○論文式試験
(1)財務会計論
(2)管理会計論
(3)監査論
(4)企業法
(5)租税法
(6)選択科目(経営学,経済学,民法,統計学のいずれか1つ)


しかし,司法試験に合格していれば,公認会計士試験の短答式試験が全て免除になり,論文式試験も,企業法と民法が免除になります。

したがって,財務会計論,管理会計論,監査論,租税法だけ受験すれば良いんです。

これの免除の多さはもはや反則レベルです。

○短答式試験
→全て免除

○論文式試験
(1)財務会計論
(2)管理会計論
(3)監査論
(4)企業法→免除
(5)租税法
(6)選択科目(民法)→免除

このように司法試験に合格すると,公認会計士試験も免除制度を利用して合格しやすくなるため,法律系最高峰の司法試験と,会計系最高峰の公認会計士試験の両方を受験して合格,ダブルライセンスを取る人も少なからずいます。


司法試験に合格していると,公認会計士試験の他にも中小企業診断士試験,不動産鑑定士試験などでも一部科目の免除を受けられます。

そのため司法試験に合格すると,文系の国家資格のうち,かなりの範囲の業務が出来るようになります。

司法試験合格者は様々なところで優遇をされ,特権とも言える地位を与えてられているんです。


■まとめ


以上,司法試験をおすすめする理由についてお話をしてきましたが,やはり他の資格に比べると合格のメリットが圧倒的に多すぎますし,司法試験合格後の仕事の選択肢も弁護士以外にも数多くありますから,司法試験に合格していれば仕事を辞めても食べるに困るということはほぼありません。

ということで「何の資格を目指そう?」と迷っている人には取りあえず司法試験をおすすめします。

ただ,いきなり司法試験の勉強をするのは大変だと思います。

そこで,司法試験の勉強方法についてお話したいと思います。

【アクセスの多い記事】
司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その1)
民法の勉強方法とおすすめの民法の基本書や参考書など(その2)
刑法の勉強方法とおすすめの刑法の基本書や参考書など
憲法の勉強方法とおすすめの憲法の基本書や参考書など
会社法・商法の勉強方法とおすすめの商法・会社法の基本書や参考書など
民事訴訟法の勉強方法とおすすめの民事訴訟法の基本書や参考書など
刑事訴訟法の勉強方法とおすすめの刑事訴訟法の基本書や参考書など
行政法の勉強方法とおすすめの行政法の基本書や参考書など
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仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格7:行政書士試験

■「行政書士」は社会人に人気の資格



「行政書士」は社会人にとってとても人気の資格です。

「カバチタレ」などのドラマの影響もあったと思いますが,「行政書士」=「法律を武器として扱う正義の味方」みたいなイメージを持っている人も多いと思います。

平成28年度の行政書士試験のデータを見ても4万1053人が受験し,うち4084人が合格する超人気の資格です。


もっとも「行政書士」がどんな仕事をしているのかよく分からないという人も多いのではないでしょうか。

「行政書士」は主に官公署に提出する書類を作成したり,代理人として行政手続を行う等の仕事をしています。

たとえば会社を設立する際に行政に提出する書類を作成したり,自動車の車庫証明等の手続をしたり,風俗業や産業廃棄物許可の手続をしたりと,その業務の範囲は非常に広いんです。

また遺言や相続などに手続に関わることもあります。

行政書士の仕事内容をより詳しく知りたい人は「行政書士の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本」という本を読んでみることをおすすめします。

●ISBN-10: 4798039012


また,行政書士を題材にした「カバチタレ」という漫画やドラマもあります。

この「カバチタレ」という漫画やドラマでは非弁行為といって,本当は行政書士ができない紛争事件の交渉などもやってしまっているのですが・・・なんとなくのイメージは湧くと思います。



■行政書士は食べていける資格なのか?


ただし,ちょっと厳しいお話になりますが,行政書士の資格をとっても,それだけですぐに食べていけるという訳ではありません。


これまでご紹介した資格のうち,税理士・公認会計士・司法書士といった資格は世間では何だかんだ言われていますが,今でもまだまだ需要がある仕事ですし,合格者数も抑えられているため,「資格を取ったのに全く食べていけない」ということはそれほそ多くありません。

また宅地建物取引士・社会保険労務士・中小企業診断士といった資格は独立開業のハードルはやや高めですが,企業内でのニーズがあるため転職には今でも役立つ資格です。

これに対し「行政書士」の資格は,独立開業のハードルが高いだけでなく,企業内のニーズもそれほど多いとは言えないため,「資格を取った後に,どのようにして資格を活かしていくか」ということが大事になってきます。

そのため「行政書士試験に合格したら将来はバラ色だ!」と思い込んで行政書士試験に挑戦すると,「せっかく頑張って資格をとったのに資格を活かせなかった・・・」ということにもなりかねません。


・・・と,少し暗い話をしてしまいましたが,行政書士の資格に魅力がないかというとそうではありません。

私の友人の中には行政書士事務所に勤務しながら行政書士の資格をとって,行政手続のプロとしてバリバリ働いて稼いでいる人もいます。

また弁護士の仕事をしていると行政書士の先生と知り合う機会が多いのですが,独立開業をして顧客を開拓し成功している方も少なくありません。


また行政書士の資格は他の資格を取る手がかりになります。

行政書士の試験科目は憲法・民法・商法・行政法・基礎法学と一般知識(一般教養のようなもの)ですが,この試験科目や司法書士試験や司法試験,公務員試験と一部共通しています。

そのため,とりあえず行政書士試験を受けてみて合格した後に,司法書士試験や司法試験,公務員試験に挑戦する人も多いんですよね。


特に行政書士と司法書士のダブルライセンスはおすすめです。

司法書士は主に「登記」に関する書類を作成する仕事をしており,行政書士は官公庁に提出する書類を作成する仕事をしています。

でも,普通の人は行政書士と司法書士の区別がよく分からないので,行政書士のところに司法書士の仕事が来たり,司法書士のところに行政書士の仕事が舞い込んでくることが結構あるんですよね。

そんな時に「私は行政書士なんで司法書士の仕事はできません」とか「私は司法書士なんで行政書士の仕事はできません」なんて言っていたら,せっかくのビジネスチャンスを逃すことになります。

そのため,行政書士と司法書士のダブルライセンスで仕事をしている人は結構多いんです。



もちろん「私は行政書士一本で食べていく」という考え方も良いと思いますが,行政書士を目指している方は,将来的に司法書士試験などの受験も視野に入れておくと良いと思います。

仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格6:司法書士試験

「司法書士」試験も,社会人が転職のために受験するパターンが多い資格です。

それもそのはず。

仕事も魅力的ですし,試験も比較的受験しやすいからなんですよ。



■司法書士は主に「登記」に関する手続をする仕事


司法書士は主に「登記」に関する手続を代理して行っています。


「登記って何?」っていう人も多いと思います。

「登記」は不動産などの権利関係を公示するためのです。


と言っても分かりにくいと思いますので例を挙げてみましょう。

たとえば,AさんがBさんに土地を売ったとします。

Bさんは「やった。この土地は僕のものだ。」と喜んでいたら,Aさんが同じ土地をCさんにも売ってしまったとします。

AさんがBさんとCさんに二重に土地を売ってしまった状態ですね。

こうなるとBさんとCさんの間で「この土地は僕のものだ!」という喧嘩になります。

こんな時に便利なのが登記です。

AさんがBさんに土地を売った時に,Bさんが「この土地はBのものです」という「登記」をして公示おくと,その後にAさんがCさんに土地を売っても,BさんはCさんに「この土地は僕(B)のものです」と言えるんですね。

なぜなら,Bさんがきちんと「登記」で「この土地は僕のものですよ」と公示をしていたのに,それを確認しないで同じ土地を買ったCさんが悪いからです。

ですから,不動産の売買では「登記」は非常に大事なんです。


また不動産の売買だけでなく,不動産に抵当権(担保)を付ける時にも「登記」をしますし,会社を作ったり会社の役員が替わった時なんかにも「登記」をしたりします。


ただ,この「登記」の手続が面倒くさいんですよ。

そこで頼りになるのが「司法書士」です。

「司法書士」の先生は,面倒くさい「登記」という手続を代わりにやってくれるんですね。

私たち弁護士も「登記」の業務はできることになっているのですが,普段から登記業務をやっているプロの司法書士の先生には太刀打ちできません。

ですから,弁護士も「登記」をしなければならない時は,司法書士の先生にお願いをすることが多いです。


ちょっと話が長くなりましたが,司法書士が行う「登記」というのはとても大事な業務ですし,需要がある仕事なんです。




■司法書士は簡易裁判所で訴訟(裁判)の代理人にもなれる


司法書士の仕事は「登記」だけではありません。

司法書士は必要な認定を受けることで,法律の専門家として簡易裁判所の裁判で代理人として,弁護士と同じような仕事ができるんですね。

簡易裁判所は訴額(裁判の対象となるお金や物の価格)が140万円未満の事件を取り扱っています。

ですから,問題となっているお金や物の価格が140万円未満でれあれば,司法書士も弁護士と同じような仕事ができるんです。


また相続の際に遺産分割に関する書類を作成することもあったり,法律の専門家として法律相談を受けることも少なくありません。

まさに司法書士は気軽に相談をできる「町の法律家」です。


司法書士の仕事内容をより詳しく知りたい人は「司法書士の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本」という本を読んでみることをおすすめします。

●ISBN-10: 4798035866


■司法書士試験は働きながら合格する人が多い


司法書士試験は,社会人になった後に転職のために受験する人が多い資格であるというお話をしましたが,それは司法試験などに比べると社会人も受験しやすいからなんですよね。


弁護士になるための「司法」試験(≠「司法書士」試験)を受験するためには,法科大学院を卒業するか,予備試験に合格する必要があります。

法科大学院を卒業するためには会社を休職するか辞めるかしなければなりませんし,予備試験経由で司法試験に合格するためみは,予備試験と司法試験の両方の試験に合格する必要があるのでハードルは高めです。


他方,司法書士試験は受験資格の制限はなく,だれでも受験可能です。

しかも試験は筆記試験1日,口述試験1日の合計2日間だけですから,社会人にとっては受験しやすい試験なんです。


とは言っても司法書士試験の合格率は2%~3%程度で,簡単な試験ではありません。

そこで,次回は司法書士試験の勉強方法についてお話をしたいと思います。

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仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格5:公認会計士試験

前回,「税理士」資格について説明をしましたが,税理士と関連のある資格とし
て「公認会計士」という資格があります。



■「公認会計士」は主に大企業の「監査」を行う


「税理士」は,基本的に依頼者の代わりに税務署に提出する申告書類などを作ったり,税に関する相談に乗ったりする仕事をしますが,「公認会計士」は主に大企業の「監査」を行います。


「監査」の仕事については東芝のニュースを思い出してもらえると分かりやすいと思います。

平成27年に東芝が不正経理・粉飾決算をしていたことが判明して,東芝は経営危機に陥っています。

企業は毎年「決算書(財務諸表)」という書類を作らなければいけないんですよね。

決算書は金融機関が融資をしたり,投資家が投資をしたりする際に参考にするので,決算書の内容に嘘が書いてあると,周りにものすごい迷惑がかかるんですよ。

そこで不正経理や粉飾決算を防止するために,公認会計士の資格を持った人が集まった「監査法人」が「監査」という形でチェックをすることになっているんです。



そのため「税理士」が個人事業主や中小企業を相手に仕事をすることが多いのに対し,「公認会計士」は大企業を相手に仕事をすることが多いという違いがあります。



「公認会計士」は基本的に不正を防止するために「監査」をする仕事ですから,正義感がある人に向いています。

一般的なサラリーマンをしていると,会社の中で「これって方法としてマズイんじゃないの?」と思うことがあっても,クビになるのが怖くてなかなか言い出せない雰囲気があったりすることもあります。

実際,私も公務員時代に法律に抵触する運用について上司に何度も文句を言いましたが,「今までこれでやってからいいんだよ。黙ってやれ!」と怒られてしまったことがあります。

しかし,「公認会計士」は「正しいことをしましょう」と言ってお金をもらえるんですね!

なんて素晴らしい仕事!

公認会計士の仕事は責任も重く,大変なことも多いようですが,その分やり甲斐はありますので,曲がったことが嫌いな人には向いている仕事だと思います。


公認会計士の仕事の内容をより詳しく知りたい人は「公認会計士の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本」という本を読んでみると良いと思いますよ。

●ISBN-10: 4798040657



■公認会計士の年収や勤務環境


以前は一時的に「公認会計士は就職難」と騒がれていましたが,最近では公認会計士の合格者数も元に戻ってきたこともあり,最近では監査法人も人手不足のようです。

そのため,監査法人に就職すると初任給で500万円から600万円も貰えることが多く,就職して数年で1000万前後の給与になる人も珍しくありません。


決算の時期には残業が多くなりますが,決算以外の時期は普通に有給休暇を取ることもできることが多く,子育てをしながら公認会計士の仕事を続けている女性も多いです。



このように,年収も勤務環境も比較的恵まれている「公認会計士」ですから,社会人になってから公認会計士の試験を受験して転職する人も少なくありません。

とはいっても,「公認会計士」の資格を取ることはそうそう簡単ではありません。


そこで,次回は「公認会計士試験」の勉強方法についてお話をしたいと思います。

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