「伊藤真の○○入門」シリーズと「伊藤真新ステップアップシリーズ」の違いについて「到達点は違いますか? 2冊買うのではなく1つを何度もやりたいのでどちらかに絞りたいです。」という質問をいただきましたので,私の考えをお話したいと思います。


結論から言えば,敢えてどちらか1つに絞るとすれば「伊藤真新ステップアップシリーズ」ということになりますが,効率のことを考えれば,出来れば初学者の段階では,「伊藤真の○○入門」シリーズを読み,ある程度勉強が進んだ段階で必要に応じて「伊藤真新ステップアップシリーズ」を使ったほうが良いだろう,というのが私の考えです。


「伊藤真の○○入門」シリーズは,法律の初学者のために書かれた本で,実際に講義を受けているような丁寧な説明があることと,論点(法律的な争点・問題点)に関する記載があまりなく,その分読みやすいことが特徴です。

そのため,初学者が各法律の全体像や軸となる考え方を素早く把握し,その後の学習の効率を上げるのに適している本です。


●ISBN-10: 4535520399

●ISBN-10: 4535522596


他方,「伊藤真新ステップアップシリーズ」は,各法律の主要な項目毎に,「概説」(制度の趣旨や定義等)を説明した上で,司法試験で問われることの多い最重要論点(これを知らなければ落ちても文句は言えないという法律上の争点・問題点)について「問題の所在」「学説の整理」「判例」「結論」がコンパクトに整理されています。





このように,両者は性質が違うので,司法試験の勉強をまだきちんとしたことがない人は,最初は「伊藤真の○○入門」シリーズを読んで各法律の全体像や軸となる考え方を素早く身につけたほうが学習効率は良いと思います。

他方,「伊藤真新ステップアップシリーズ」は,一見,初学者用の本に見えるのですが,シンプルで無駄な記述が少なく洗練されているが故に難易度が高い本であり,初学者が手を出すと挫折をしたり,学習効率が悪くなったりする可能性があります。



私の経験をお話すると,私は一応法学部出身で,公務員試験(地方上級,国家公務員一般職)に合格した経験があったので,ある程度法律的な知識があるつもりでした。

しかし,司法試験の勉強の初期の段階で「伊藤真新ステップアップシリーズ」を読んでみたところ,「何となく分かった」という感じはするものの,いまいち十分な理解が出来ず消化不良な感じがしたので,1回で読んで取りあえず終わりにしました。

そこで,入門知識のインプットとしては「伊藤真の○○入門」シリーズを2~3回読んで取りあえず良しとし,その後は「伊藤塾試験対策問題集」を何度も読んだり,実際に答案を書いてみるというトレーニングをして一気に論文試験の力を上げていきました。(このあたりは「●司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)」などでお話したとおりです。)


その後,司法試験の勉強を進め,択一過去問をやったり,予備校の答練を受けたりするようになると,細かい論点の知識や択一用の知識が増えていき,基本的な知識や理解がおろそかになっているという危機感を感じるようになりました。

これが知識のドーナッツ化という現象で,時間をかけて一生懸命勉強しているのに何故か論文式試験の点数が上がらなくなり,司法試験に落ちてしまうという受験生に良くみられる現象です。

司法試験の論文式試験では,基本的な知識を,正確に書くことで点数が上がるようになっていて,細かい知識や高度な知識は書けなくても,それだけで不合格になることはありません(これは受験業界で昔から良く指摘されていることです。)。

しかし,勉強が進むにつれて知識が増えすぎて「基本って何だけって・・・」という状況になり,「このままでは基本がおそろかになって,不合格になってしまうのではないか」「やばい・・・」と思うようになりました。


そこで,私よりも1学年上の司法試験の合格者に相談をしたところ,「伊藤真新ステップアップシリーズ」で,基本的な知識を再度整理するように勧められ,改めて「伊藤真新ステップアップシリーズ」を読んでみたところ,基本的な知識の再整理が一気に進み「この本は便利な本だ!」と思うようになりました。


私が相談した人は,旧司法試験時代から,10年以上司法試験にチャレンジして落ち続けていて,合格するためには細かい知識や高度な知識を覚えなければと必死になって基本的な知識をおそろかにしてしまっていたのですが,司法試験の上位合格者から「伊藤真新ステップアップシリーズ」を使って基本を見直すように言われて,基本的な知識を正確に理解し記憶するようにしたら,「次の年にあっさりと合格した」「今までの苦労な何だったんだと思った」と言っていました。


このように,私の経験の限りでは,初学者の頃は「伊藤真新ステップアップシリーズ」の便利さや凄さは実感できないことが多く,むしろある程度勉強が進んだ段階で「基本的な知識や理解に漏れがないことを確認する作業」として読み直したほうが,効率が良いのではないかと思います。


ただ,いただいた質問の「伊藤真の○○入門」シリーズと「伊藤真新ステップアップシリーズ」の「到達点は違いますか? 2冊買うのではなく1つを何度もやりたいのでどちらかに絞りたいです。」にそのまま答えるとすれば,「伊藤真の○○入門」は論点知識に記述がほとんどなく,試験の直前期まで使える本ではなく,他方で「伊藤真新ステップアップシリーズ」は試験の直前期でも便利な本であるため,敢えてどちらか1つに絞るとすれば「伊藤真新ステップアップシリーズ」であろう,とうことになると思います。

もっとも,以上の話はあくまで私の経験上の話であって,(私と違って)頭の良い人であれば初学者の段階から「伊藤真新ステップアップシリーズ」を読んでみても,ガンカンと理解が進むという人もいると思います。



以上,整理すると

・初学者には「伊藤真の○○入門」をおすすめする

・「伊藤真新ステップアップシリーズ」は,どちらかというと試験の直前期に使うと便利

・ただ,敢えて1つに絞るとすれば「伊藤真新ステップアップシリーズ」

というお話でした。

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