転職

2019年04月01日


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お世話になります。
お忙しい中大変恐縮ですが、もう一つ質問させてください。
弁護士業界はこれから40年、どのようになると考えますか。

今後、少子高齢社会による財政逼迫が深刻化し、夕張市のように破綻する自治体が近い内に都内でも現れるでしょう。
私の勤め先では、終身雇用とはいえ毎年ボーナスカットが進んでいます。アルバイトの雇止めも進み薄給激務の傾向が強まっています。非常に不安です。

一方で弁護士はAIの台頭により、これから無くなる職業として挙げられています。晴れて弁護士になったとして、比較的高給であるが先が短いのではないかと考えてしまいます。若手から50代までのキャリアパスは一般的にどのようになりますか。弁護士は将来も需要があるのでしょうか。

学生時代からの夢。諦めるつもりはさらさらありませんが具体的なビジョンが欲しいです。
よろしくお願いします。
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弁護士の将来については,

(1)弁護士の仕事がAIに取って代わられるか

という問題と

(2)弁護士数と人口のバランス

を考える必要があると思います。


(1)弁護士の仕事がAIに取って代わられるか



まず(1)の「弁護士の仕事がAIに取って代わられるか」という点については,「現時点での制度を前提にすると,交通事故等の一部の分野を除いて,弁護士の仕事がAIに取って代わられる可能性は低いだろう。」というのが個人的な見解です。

以下理由を述べていきます。


・判例を集めるのが難しい,判例を集めたとしても画一的な方針を決めることが難しい

「弁護士の仕事がAIに取って代わられる」という論拠の根拠として,「AIは膨大な量の判例を記憶して,その中から適切な解決方法を選択し,書面等まで作成することができる。だから,弁護士の仕事がAIに取って代わられるんだ。」ということが言われていると思います。

しかし,AIが「膨大な量の判例」を記憶するためには,AIにインプットするための「膨大な量の判例」を用意しなければなりませんが,現在の制度では公表されている判決はごく一部だけであり,AIが必要とするだけの判例を用意することは困難だと思います。

我々が普段弁護士業務をしている中でも「判例システム」を使って似たような判例を探すということはやっていますが,似たような判例がデータ上存在しない,というケースが多々あります。

むしろ,全く同じ事例はないと言っても過言ではないですし,全く同じ事例がないからこそ弁護士という仕事が必要になっています。

そういった時は,弁護士が依頼者から良く話を聞いた上で,自分の頭で考えて最善の方針を立てる必要がありますが,こういった作業はAIが不得意な分野だと思います。



・日本では規範を立てなで結論を出している判決が多い

裁判官が判決を書くためには,裁判官が「規範」という基準を作って,それに事実を当てはめて結論を導く,というやり方をするのが本来の姿です。

このような本来の姿の判決が多くあればAIに情報をインプットすることで画一的な結論を導ける可能性はあると思うのですが・・・しかし実務では裁判官が「規範」と立てずに結論を出している裁判例がとても多いです。

特に最高裁の判決などを見ていると,なぜそのような結論になったのか,理由がはっきりしないものが少なくありません。

この「規範を立てない判決」は批判もされているところですが,なぜ判決がそのような結論になったのか理由がはっきりしない場合には,どのような事実が結論に影響を与えるのか,判例評釈などを大量に読んだ上で自分の頭で考えて推測を立てていくしかありません。

判決の結論に至る理由がはっきりしない以上,AIに大量の判決の情報をインプットしたとしても,AIが画一的な結論を導くということは難しいと思います。



・和解に関するデータを集めるのが難しい

また,民事訴訟の半数以上は,判決によらずに「和解」と言って話合いで解決されています。

依頼者の利益を最大化するためには,和解についても適切な判断をする必要があります。

AIが「和解をすべきか」「和解をするとしてどういう和解をすべきか」という判断をするためには,和解に関する大量のデータを集める必要があります。

しかし,成立した和解のデータは公表されていませんし,和解に至る過程についても裁判所の記録にはほとんど残っていませんので,AIにインプットするための和解のデータを集めるのも難しいと思います。

さらに,和解をするためには,相手方が何を考えているかを推測した上で,駆け引きをすることが必要なることもありますが,AIにそのような駆け引きがどこまで出来るかという問題もあります。



・まとめ

以上のように考えると,「日本において,弁護士の仕事がAIに取って代わられる可能性は低いだろう。」というのが個人的な見解です。

ただし,交通事故等の一部の分野については,裁判例のデータが大量にありますし,判決に至る基準も基本的に「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」や「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本などがあり,比較的しっかりしてます。

なので,交通事故等の分野に限って言えば,必要な情報を入力することで自動的に訴状を作る,といったシステムを作ることは可能ではないかと思います(比較的シンプルな事案であれば,今でもそういったシステムは作れるはず。)。

ただ,こういったシステムを作ったとしても,個人が1件の交通事故だけのためにシステムを買うということはちょっと考えにくいので,法律事務所がシステムを購入して弁護士の業務の補助に使う,という形になるのではないかと思います。





(2)弁護士数と日本の人口のバランス


弁護士の将来を考える上では,AIの問題よりも「弁護士数と日本の人口のバランス」の影響のほうが大きいと思います。

現在は司法試験の合格者も1500人程度となり,就職難の状況も解消されたようですが,依然として弁護士の数は増え続けています。

日弁連の資料によれば「司法試験合格者1500人を維持していくと,法曹人口総数は,2062年に6万5324人となって,新規法曹資格者と法曹でなくなる者が均衡し,安定する。この時の弁護士人口は5万7464人と予想される。」とされています。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-7_tokei_2016.pdf

2018年の弁護士数は4万0066人で日本全体の人口が約1億2644人ですから,弁護士1人あたりの日本人口は約3156人です。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2018/1-1-1_tokei_2018.pdf

他方,前記のとおり2060年頃の弁護士数が5万7464人だとして,「平成30年版高齢社会白書」によると2060年頃の予想される日本の人口が9284万人ですから,弁護士1人あたりの日本人口は約1616人です。

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_1_1.html


仮に司法試験の合格者が1500人のままだとすると,単純計算で弁護士1人あたりの日本人口が半分程度になり,その結果,弁護士の平均収入も半分程度になってしまうかも知れない,ということが考えられます。

ただ,私はこの点についても少し楽観視をしていて,いずれ日本の人口が減り,学生の数が減るについて,司法試験の合格者数も減っていくと思いますし,弁護士の収入が半分程度になってしまう可能性も低いと思います。

弁護士の就職難が問題になった時も,国もさすがにまずいと思ったのか,司法試験の合格者数を絞っていますし,今後,仮にまた弁護士に就職難が問題になるようなことがあれば,司法試験の合格者数を減らす方向の議論が出てくると思います。

また,日本の人口が減るということは,企業においても労働力が減るということですので,元弁護士等,ある程度専門的な知識を持った人材を今よりも多く採用するという場面が出てくるかも知れません。

現在も,一部の自治体が弁護士を公務員として採用しようと募集をしていますが,なかなか弁護士からの応募が無くて弁護士を採用できないでいる,という状況があるようです。

したがって,弁護士の数が増え,日本の人口が減るにつれて,本来の弁護士業務以外の仕事をする弁護士(又は元弁護士)が増えていったり,司法試験の合格者数が減り,受給バランスがそれほど大きくは崩れないのではないかと思っています。

また,私の現在の収入を前提にすると,仮に収入が半分になったとしても食べていけないことはないかと思います。

個人的には,仮に弁護士としての仕事が大幅に減るようなことがあれば,人生1回しかない訳ですし,他にもやってみたい仕事がたくさんあるので,他の仕事に挑戦してみたいと思っています。




(3)弁護士の資格を取ることはキャリアの自由度が増えるということ


最後に。

質問者された方は「今後、少子高齢社会による財政逼迫が深刻化し、夕張市のように破綻する自治体が近い内に都内でも現れるでしょう。私の勤め先では、終身雇用とはいえ毎年ボーナスカットが進んでいます。アルバイトの雇止めも進み薄給激務の傾向が強まっています。非常に不安です。」という不安を抱えて,弁護士を目指されているということですが,私も公務員をしていた時,同じような不安を抱えていました。

今振り返ってみると,あの頃の自分の視野は狭かったなと思います。

司法試験に合格した今になって思うことは「人生は思ったよりも自由なんだ」ということです。

司法試験に合格した後のキャリアとしては,一般的には弁護士・裁判官・検察官等になる人が多いですが,司法試験に合格して法律の基本的な知識を身につけることで,仕事の幅はそれ以外の職業,例えば経営者,政治家,経営コンサルト,企業や官公庁のインハウス等,色々な職業に広がっていきます。

司法試験に合格すると,仮に他の仕事に挑戦をして失敗をしたとしても,また弁護士に戻れって頑張って働けば食べられないということはないだろう,という安心感があります。

なので,司法試験に合格するということは,弁護士という仕事を目指すというだけでなく,人生の選択肢を広げるという観点でも挑戦をする価値はあるかと思います。


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Comments(0) |  │   (19:11)



以下の質問をいただきましたので回答したいと思います。

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いつも記事を見ているものです。
私は4月から市役所の職員になるのですが管理人様の記事で弁護士もいいなと思いました。
そこで、前職が市役所の弁護士は就職は不利なのでしょうか?
ぜひお願いします。
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結論から言うと,

・基本的に元公務員(市役所職員)だからと言って,それだけで弁護士としての就職が不利になる,ということはない

・ただし弁護士になる年齢が遅くなると,一部の大手事務所への就職は難しくなることがある

というのが私の見解です。


私が就職活動をしていた時期はいわゆる就職氷河期で,司法修習が終わる直前になっても就職が決まらないという修習生も結構の割合でいました。

しかし,私は幸いにも何件かの事務所からお声をかけていただき,かなり早い段階で内定をいただくことができました。

内定をもらった後も,修習生の同期から「君が元公務員だという話を聞いて,会ってみたいと言っている弁護士がいる。」という話をもらったりしていましたので,元公務員を採用したいというニーズは一定割合であるのだと思います。

たとえば,顧問先に自治体を抱えている法律事務所であれば「うちの事務所には元公務員がいるので内情も分かっています。」というアピールにもなると思いますし,自治体から相談を受けた時に事務所に公務員の内情を分かっている弁護士がいたほうが便利,ということもあると思います。

また,私の知り合いの弁護士の中には「社会経験のない新人は,ビジネスマナーのイロハから教えなければいけないので面倒。」「社会経験があってビジネスマナー等がしっかりしている人のほうが,即戦力になるので,できれば元社会人を採用したい。」という人もいます。

そのため,元公務員ということが,弁護士としての就職において有利に働く場面はあると思います。


他方,大手の事務所では,年齢の若い人を優先して採用するという事務所もあります。

弁護士の数が多い事務所の場合,30代ないし40代の弁護士を採用すると,20代の先輩弁護士が30代ないし40代の後輩弁護士を部下として使うことになって,やりづらい,という配慮があるのだと思います。

そのため,「元公務員であるか」という問題とは別に,社会人経験を経たために弁護士になる年齢が遅くなると,一部の大手事務所への就職は難しくなると思います。



弁護士業界は数年前までは買手市場で就職状況も厳しかったですが,去年あたりからは売手市場に転じていて,修習生の話を聞いていても,さほど苦労することなく就職先が決まっているようです。

したがって,就職先に強いこだわりがある訳でなければ,公務員から弁護士に転職をしたとしても,就職活動で困るということはないと思います。


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