質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。
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辰巳に聞くのが一番かもしれませんが質問します。
伊藤塾ネタが多いところで辰巳の質問をするのも少し気が引けるのですが...。
他のは伊藤塾を使用していたのですが、何となく民訴辰巳のえんしゅう本を読み、その時にえんしゅう本の後ろを見ました。
そうしたら、辰巳の場合、論文のインプットは趣旨規範ハンドブックになっていました。
そうなると、辰巳の場合、テキストを使用せずに論文はえんしゅう本を使いつつ分からない所は趣旨規範ハンドブックでインプットをして学習する事を想定していると思われます。
そうなると、他の予備校だと予備校本が別にあると思いますが、辰巳の場合、自分ではまとめ本だと思っていた趣旨規範ハンドブックが他の予備校で言うところの予備校本という位置づけでえんしゅう本とセットにして学習するのが効率的なのでしょうか。
このやり方をすると、別に短答の学習を行えば論文の知識も両方得ることが出来、合格の能力を得ることが出来るという事でしょうか。
そんな事は辰巳に聞けと言われそうですが、質問させていただきます。
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個人的には辰巳法律研究所がいわゆる「予備校本」(網羅的なテキスト)を出していないのは、辰巳法律研究所は「基本書」を使って勉強することを前提にしているからだと思います。
辰巳の短答式の問題集や肢別本などでは参考文献として学者が書いた基本書が参考文献として挙げられていますし、かなり古いデータですが、西口竜司先生の入門講座でもテキストとしては主に学者の書いた基本書が指定図書にされていたようです。
辰巳法律研究所のパンフレットには以下の記載があります。
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「今回私が担当する入門講座では、いわゆる予備校テキストではなく、私が指定する基本書と判例集をテキストとして使用します。その理由は以下の2点です。
①法学部・ロースクールも基本書を使用する
②予備校テキストは勉強しやすい反面、思考力が身につかない
以下、具体的にお話します。
まず、①についてですが、大学でもロースクールでも法律を学ぶ際には基本書や判例集を使用します。したがって、入門段階から同じように基本書や判例集を使うことで、それらに慣れてしまうのが得策です。また、試験で点をとるための基本書の読み方、判例の読み方も今後大切になります。
その点も講義では気をつけていきたいと考えています。
次に②についてですが、予備校のテキストは勉強の便宜が考えられており、非常に使いやすいのがメリットです。一方、勉強のしやすさを重視するため、いろいろな基本書のいいところを切り貼りし、繋げ合わせた点は否めず、記述の一貫性や体系的理解に欠ける点がデメリットです。
新司法試験考査委員の先生方が毎年ヒアリングで重要視する「考える力」を養成するには、各科目の体系的理解が不可欠であり、前述の通り、体系的理解を身につけるには予備校テキストには一抹の不安があります。
そこで、私の入門講座では受験勉強という視点から見て最適な基本書、すなわち体系的理解を身につけるのにふさわしく、しかも出来る限り分厚くない基本書を選別し、使用することにしたのです。
結果、皆さんが基本書と判例百選を使いこなし、各科目の体系的理解を得ること、そしてそれを利用し、試験問題と対話できるようになることを西口クラスの最終目標にしたいと思います。」
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このパンフレットが作成された当時には、既に「趣旨規範ハンドブック」はありましたので、「辰巳の場合、テキストを使用せずに・・・学習する事を想定している」ということではないと思います。
上記の入門講座では「実務基礎ハンドブック」が指定図書になっているので、「【実務基礎】ハンドブック」については「他の予備校で言うところの予備校本という位置づけ」と言うことはできると思いますが、「【趣旨規範】ハンドブックが他の予備校で言うところの予備校本という位置づけ」ということではないと思います。
「趣旨規範ハンドブック」は私も使っていましたし、とても便利な本ですが、「趣旨規範ハンドブック」は、ある程度知識が身についた後に真価を発揮する本で、勉強の初期の段階で「趣旨規範ハンドブック」を中心に勉強するのは結構大変だと思います。
というのも、私も初期の段階で一度「趣旨規範ハンドブック」で知識をインプットしようとしたのですが、挫折をした経験があるからです。
「趣旨規範ハンドブック」は、論文式試験に必要な論点や定義がコンパクトにまとめられており、一見すると、「趣旨規範ハンドブック」に書いてあることを全て理解し暗記すれば、効率的に合格レベルに達することができるのではないか?とも思えます。
しかし、勉強の初期の段階で、実際に「趣旨規範ハンドブック」で知識をインプットしようとすると、問題が出てきます。
「趣旨規範ハンドブック」は、論点や定義がコンパクトにまとめられているのが長所なのですが、記述があっさりとしすぎていて論点を理解するために必要な情報が少ないですし、論文試験の問題文に相当する「事案」の説明もないので、「趣旨規範ハンドブック」だけで論点を理解することは難しいのです。
そのため、「趣旨規範ハンドブック」を使いながら知識をインプットしていこうとすると、
「趣旨規範ハンドブック」を読む
↓
よく分からないところが沢山出てくるので基本書、「他社の予備校本」、判例集などを読んで理解を深める
という作業を繰り返す必要があります。
実際にこのような作業を繰り返しながら知識をインプットしていた同級生もいましたが、この作業は基本書・予備校本を何度も通読するのと同じくらいの忍耐力を必要とします。
また、「趣旨規範ハンドブック」は一見コンパクトに見えますが、出題可能性が低い論点も含めて、ありとあらゆる論点が網羅的に記載されているため、「趣旨規範ハンドブック」を中心に知識をインプットしようとすると、膨大な時間がかかります。
論文式試験の知識をインプットするのであれば、やはりこれまでおすすめしているように、論文式問題集を中心にインプットしていったほうが効率的だと思いますし、苦痛も比較的少ないと思います。
「物事の結果のうち8割は2割の要素によってもたらされる」という「パレートの法則」というものがありますが、司法試験も同じで、論文式試験で出題される可能性の高い論点は、基本書や「趣旨規範ハンドブック」に書いてある論点の2割から3割程度だと思います。
受験生としてはあらゆる論点を広く万遍なく勉強したくなるものですが、早期に合格する受験生は論文式試験で出題される可能性の高い重要な論点をしっかりと理解し、些末な論点については大怪我をしない程度にさらっと押さえておく、というようにメリハリをきかせている人が多いです。
論文式試験での重要論点が何かを知るためには、最初のうちは基本書や「趣旨規範ハンドブック」よりも、掲載されている論点の数が少ない論文式試験の問題集を使ったほうが感覚がつかみやすいと思います。
なお、私は伊藤塾の「伊藤塾試験対策問題集」を主におすすめしていますが、「えんしゅう本」でも全く問題はないと思います。
私の同級生の中には「えんしゅう本」を使って合格した人は何人もいます。
要は自分が使いやすいと思うもの、自分が使っていてやる気が出やすいものを使えば良いのです。
では、「趣旨規範ハンドブック」は使えないかというと、そんなことは全くなくて、勉強がある程度進んできて知識・理解が増えた後であれば、「趣旨規範ハンドブック」はとても役立つツールになります。
勉強がある程度進んでくると、自分が良く知っている論点・分野と、自分の苦手な論点・分野が出てきて、知識・理解にムラが出てくることが多いです。
その時に、弱点を補強するために「趣旨規範ハンドブック」を読むと、自分が苦手だったり未知の論点を抽出することができ、苦手な論点・分野に絞って基本書・他の予備校本を読むことで、苦手な分野を克服していくことができます。
それから、「趣旨規範ハンドブック」には、科目ごとに本試験タイプの問題の解き方が詳しく解説されています。
勉強がある程度進んできて、論文式試験の過去問や、答練を受けていると、解き方が分からなくて
困ってしまう、ということが何度も出てくると思います。
その時に、「趣旨規範ハンドブック」を見ると、科目ごとに、どういう視点・順序で問題に取り組めば良いか解説されていますので、「趣旨規範ハンドブック」を頼りに論文式試験の解法を身につけていくことができます。
このように、「趣旨規範ハンドブック」は、勉強の初期よりもむしろ後半で役立つ参考書だと思いますし、最初から「趣旨規範ハンドブック」を使って知識のインプットをしようとすると、忍耐力のない人は挫折する可能性が大きいと思います。
ただ、先ほど書いたとおり、「趣旨規範ハンドブック」と基本書を使って、知識をインプットして合格した同級生はいますので、忍耐力に自信があるのであれば、初期の段階から「趣旨規範ハンドブック」を使っても良いと思います。
その場合でも、「趣旨規範ハンドブック」は、基本書や「他の予備校で言うところの予備校本」の代わりにはなり得ません。
「趣旨規範ハンドブック」は、あくまで論点や定義をコンパクトにまとめた本であり、論点を理解するために必要な情報が非常に少ないからです。
「趣旨規範ハンドブック」を使って知識をインプットするのでれば、基本書や「他の予備校で言うところの予備校本」を併用して使うことが不可欠だと思います。
質問者の方は、えんしゅう本を読み終わった段階のようですが、私だったら以下のように勉強を進めていくと思います。
①えんしゅう本にある問題について、参考答案と同じような答案が書けるようになる努力をする。
②えんしゅう本にある問題について、何度読んでも分からない論点については、基本書や予備校本を読んで理解を深める
③並行して短答式の過去問を大量にこなす。
④早い段階で論文式の答練や過去問にも取りかかる。
⑤論文式の答練や過去問をこなしていると、理解が不十分であることを実感するので、必要に応じて、①②の作業を繰り返す。
⑥論文式の答練や過去問をこなしていると、知識・理解に穴があることを実感するので、「趣旨規範ハンドブック」などを使って、自分の知らない論点・知識を洗い出し、穴を埋めていく。
⑦答練や論文式の過去問をこなしていると、どうやって対処して良いのか分からない問題が出てくるので、「趣旨規範ハンドブック」などに書いてある、論文式の解き方のマニュアルを参考にしながら、解法を身につけていく。
このように、私であれば「趣旨規範ハンドブック」は、後半のほうで活用すると思いますし、実際に受験生の時もそうでした。
以上が私の考えですが、司法試験の勉強方法には絶対的な正解のようなものはありませんし、勉強方法は合格者の中でも千差万別なので、色々と試してみたり、他の合格者の話も聞いてみて、自分に合う方法を探すことも大事だと思います。
なお、私の記事では「伊藤塾ネタが多い」ように見えるかも知れませんが、伊藤塾とは利害関係はなく、特定の予備校を優先しようという意図はありません。
論文式試験問題集については、単純に伊藤塾のものが出来が良いと考えているだけです。
私が受験生時代に最もお布施をした額が大きかったのは辰巳法律研究所だと思います。
受験生時代は、短答式では辰巳法律研究所やスクール東京出版の問題集を使っていましたし、答練や単発の講義は辰巳法律研究所を使っていました。
他方、予備校本はLECの「C-BOOK」を全科目買っていました。伊藤塾のテキストである「試験対策講座」は数科目分買いましたが、自分に合わないと思ったのでほとんど使いませんでした。
このように、自分に必要だと思う参考書等とつまみ食い的に使っていただけで、特定の予備校だけを使っていた訳ではありません。
節操のない感じに見えるかも知れませんが、受験生にとっては予備校は自分の合格の可能性を上げるために上手く使うことが大事なので、自分に合っていて好きな予備校を選べば良いと思いますし、勉強の段階や分野、時期、自分の理解度等によって使う予備校を変えることも全く問題ないと思います。
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