仕事を辞めて弁護士に転職しました

公務員として数年間働いていましたが、思い切って公務員を辞めて司法試験を受験し、現在は弁護士として働いています。 自分が受験生の時は情報が少なく相談できる人もいなかったため、色々と悩むことも多かったです。 公務員のこと、司法試験のことなどについて、受験生の方に参考になるかも知れないことを書いていけたらと思っています。 質問がある方はコメント欄に記載してもらえれば可能な範囲で回答したいと思います。回答まで時間がかかることが多々ありますがご容赦ください。

2021年01月

辰巳法律研究所の趣旨規範ハンドブックについて

質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。

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辰巳に聞くのが一番かもしれませんが質問します。
伊藤塾ネタが多いところで辰巳の質問をするのも少し気が引けるのですが...。
他のは伊藤塾を使用していたのですが、何となく民訴辰巳のえんしゅう本を読み、その時にえんしゅう本の後ろを見ました。
そうしたら、辰巳の場合、論文のインプットは趣旨規範ハンドブックになっていました。
そうなると、辰巳の場合、テキストを使用せずに論文はえんしゅう本を使いつつ分からない所は趣旨規範ハンドブックでインプットをして学習する事を想定していると思われます。
そうなると、他の予備校だと予備校本が別にあると思いますが、辰巳の場合、自分ではまとめ本だと思っていた趣旨規範ハンドブックが他の予備校で言うところの予備校本という位置づけでえんしゅう本とセットにして学習するのが効率的なのでしょうか。
このやり方をすると、別に短答の学習を行えば論文の知識も両方得ることが出来、合格の能力を得ることが出来るという事でしょうか。
そんな事は辰巳に聞けと言われそうですが、質問させていただきます。
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個人的には辰巳法律研究所がいわゆる「予備校本」(網羅的なテキスト)を出していないのは、辰巳法律研究所は「基本書」を使って勉強することを前提にしているからだと思います。

辰巳の短答式の問題集や肢別本などでは参考文献として学者が書いた基本書が参考文献として挙げられていますし、かなり古いデータですが、西口竜司先生の入門講座でもテキストとしては主に学者の書いた基本書が指定図書にされていたようです。




辰巳法律研究所のパンフレットには以下の記載があります。
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「今回私が担当する入門講座では、いわゆる予備校テキストではなく、私が指定する基本書と判例集をテキストとして使用します。その理由は以下の2点です。
①法学部・ロースクールも基本書を使用する
②予備校テキストは勉強しやすい反面、思考力が身につかない
以下、具体的にお話します。
まず、①についてですが、大学でもロースクールでも法律を学ぶ際には基本書や判例集を使用します。したがって、入門段階から同じように基本書や判例集を使うことで、それらに慣れてしまうのが得策です。また、試験で点をとるための基本書の読み方、判例の読み方も今後大切になります。
その点も講義では気をつけていきたいと考えています。
次に②についてですが、予備校のテキストは勉強の便宜が考えられており、非常に使いやすいのがメリットです。一方、勉強のしやすさを重視するため、いろいろな基本書のいいところを切り貼りし、繋げ合わせた点は否めず、記述の一貫性や体系的理解に欠ける点がデメリットです。
新司法試験考査委員の先生方が毎年ヒアリングで重要視する「考える力」を養成するには、各科目の体系的理解が不可欠であり、前述の通り、体系的理解を身につけるには予備校テキストには一抹の不安があります。
そこで、私の入門講座では受験勉強という視点から見て最適な基本書、すなわち体系的理解を身につけるのにふさわしく、しかも出来る限り分厚くない基本書を選別し、使用することにしたのです。
結果、皆さんが基本書と判例百選を使いこなし、各科目の体系的理解を得ること、そしてそれを利用し、試験問題と対話できるようになることを西口クラスの最終目標にしたいと思います。」
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このパンフレットが作成された当時には、既に「趣旨規範ハンドブック」はありましたので、「辰巳の場合、テキストを使用せずに・・・学習する事を想定している」ということではないと思います。


上記の入門講座では「実務基礎ハンドブック」が指定図書になっているので、「【実務基礎】ハンドブック」については「他の予備校で言うところの予備校本という位置づけ」と言うことはできると思いますが、「【趣旨規範】ハンドブックが他の予備校で言うところの予備校本という位置づけ」ということではないと思います。



「趣旨規範ハンドブック」は私も使っていましたし、とても便利な本ですが、「趣旨規範ハンドブック」は、ある程度知識が身についた後に真価を発揮する本で、勉強の初期の段階で「趣旨規範ハンドブック」を中心に勉強するのは結構大変だと思います。

というのも、私も初期の段階で一度「趣旨規範ハンドブック」で知識をインプットしようとしたのですが、挫折をした経験があるからです。


「趣旨規範ハンドブック」は、論文式試験に必要な論点や定義がコンパクトにまとめられており、一見すると、「趣旨規範ハンドブック」に書いてあることを全て理解し暗記すれば、効率的に合格レベルに達することができるのではないか?とも思えます。


しかし、勉強の初期の段階で、実際に「趣旨規範ハンドブック」で知識をインプットしようとすると、問題が出てきます。

「趣旨規範ハンドブック」は、論点や定義がコンパクトにまとめられているのが長所なのですが、記述があっさりとしすぎていて論点を理解するために必要な情報が少ないですし、論文試験の問題文に相当する「事案」の説明もないので、「趣旨規範ハンドブック」だけで論点を理解することは難しいのです。


そのため、「趣旨規範ハンドブック」を使いながら知識をインプットしていこうとすると、


「趣旨規範ハンドブック」を読む
  ↓
よく分からないところが沢山出てくるので基本書、「他社の予備校本」、判例集などを読んで理解を深める


という作業を繰り返す必要があります。


実際にこのような作業を繰り返しながら知識をインプットしていた同級生もいましたが、この作業は基本書・予備校本を何度も通読するのと同じくらいの忍耐力を必要とします。

また、「趣旨規範ハンドブック」は一見コンパクトに見えますが、出題可能性が低い論点も含めて、ありとあらゆる論点が網羅的に記載されているため、「趣旨規範ハンドブック」を中心に知識をインプットしようとすると、膨大な時間がかかります。



論文式試験の知識をインプットするのであれば、やはりこれまでおすすめしているように、論文式問題集を中心にインプットしていったほうが効率的だと思いますし、苦痛も比較的少ないと思います。

「物事の結果のうち8割は2割の要素によってもたらされる」という「パレートの法則」というものがありますが、司法試験も同じで、論文式試験で出題される可能性の高い論点は、基本書や「趣旨規範ハンドブック」に書いてある論点の2割から3割程度だと思います。

受験生としてはあらゆる論点を広く万遍なく勉強したくなるものですが、早期に合格する受験生は論文式試験で出題される可能性の高い重要な論点をしっかりと理解し、些末な論点については大怪我をしない程度にさらっと押さえておく、というようにメリハリをきかせている人が多いです。

論文式試験での重要論点が何かを知るためには、最初のうちは基本書や「趣旨規範ハンドブック」よりも、掲載されている論点の数が少ない論文式試験の問題集を使ったほうが感覚がつかみやすいと思います。



なお、私は伊藤塾の「伊藤塾試験対策問題集」を主におすすめしていますが、「えんしゅう本」でも全く問題はないと思います。

私の同級生の中には「えんしゅう本」を使って合格した人は何人もいます。

要は自分が使いやすいと思うもの、自分が使っていてやる気が出やすいものを使えば良いのです。




では、「趣旨規範ハンドブック」は使えないかというと、そんなことは全くなくて、勉強がある程度進んできて知識・理解が増えた後であれば、「趣旨規範ハンドブック」はとても役立つツールになります。

勉強がある程度進んでくると、自分が良く知っている論点・分野と、自分の苦手な論点・分野が出てきて、知識・理解にムラが出てくることが多いです。

その時に、弱点を補強するために「趣旨規範ハンドブック」を読むと、自分が苦手だったり未知の論点を抽出することができ、苦手な論点・分野に絞って基本書・他の予備校本を読むことで、苦手な分野を克服していくことができます。



それから、「趣旨規範ハンドブック」には、科目ごとに本試験タイプの問題の解き方が詳しく解説されています。

勉強がある程度進んできて、論文式試験の過去問や、答練を受けていると、解き方が分からなくて
困ってしまう、ということが何度も出てくると思います。

その時に、「趣旨規範ハンドブック」を見ると、科目ごとに、どういう視点・順序で問題に取り組めば良いか解説されていますので、「趣旨規範ハンドブック」を頼りに論文式試験の解法を身につけていくことができます。



このように、「趣旨規範ハンドブック」は、勉強の初期よりもむしろ後半で役立つ参考書だと思いますし、最初から「趣旨規範ハンドブック」を使って知識のインプットをしようとすると、忍耐力のない人は挫折する可能性が大きいと思います。


ただ、先ほど書いたとおり、「趣旨規範ハンドブック」と基本書を使って、知識をインプットして合格した同級生はいますので、忍耐力に自信があるのであれば、初期の段階から「趣旨規範ハンドブック」を使っても良いと思います。

その場合でも、「趣旨規範ハンドブック」は、基本書や「他の予備校で言うところの予備校本」の代わりにはなり得ません。

「趣旨規範ハンドブック」は、あくまで論点や定義をコンパクトにまとめた本であり、論点を理解するために必要な情報が非常に少ないからです。

「趣旨規範ハンドブック」を使って知識をインプットするのでれば、基本書や「他の予備校で言うところの予備校本」を併用して使うことが不可欠だと思います。



質問者の方は、えんしゅう本を読み終わった段階のようですが、私だったら以下のように勉強を進めていくと思います。


①えんしゅう本にある問題について、参考答案と同じような答案が書けるようになる努力をする。

②えんしゅう本にある問題について、何度読んでも分からない論点については、基本書や予備校本を読んで理解を深める

③並行して短答式の過去問を大量にこなす。

④早い段階で論文式の答練や過去問にも取りかかる。

⑤論文式の答練や過去問をこなしていると、理解が不十分であることを実感するので、必要に応じて、①②の作業を繰り返す。

⑥論文式の答練や過去問をこなしていると、知識・理解に穴があることを実感するので、「趣旨規範ハンドブック」などを使って、自分の知らない論点・知識を洗い出し、穴を埋めていく。

⑦答練や論文式の過去問をこなしていると、どうやって対処して良いのか分からない問題が出てくるので、「趣旨規範ハンドブック」などに書いてある、論文式の解き方のマニュアルを参考にしながら、解法を身につけていく。


このように、私であれば「趣旨規範ハンドブック」は、後半のほうで活用すると思いますし、実際に受験生の時もそうでした。


以上が私の考えですが、司法試験の勉強方法には絶対的な正解のようなものはありませんし、勉強方法は合格者の中でも千差万別なので、色々と試してみたり、他の合格者の話も聞いてみて、自分に合う方法を探すことも大事だと思います。



なお、私の記事では「伊藤塾ネタが多い」ように見えるかも知れませんが、伊藤塾とは利害関係はなく、特定の予備校を優先しようという意図はありません。

論文式試験問題集については、単純に伊藤塾のものが出来が良いと考えているだけです。

私が受験生時代に最もお布施をした額が大きかったのは辰巳法律研究所だと思います。

受験生時代は、短答式では辰巳法律研究所やスクール東京出版の問題集を使っていましたし、答練や単発の講義は辰巳法律研究所を使っていました。

他方、予備校本はLECの「C-BOOK」を全科目買っていました。伊藤塾のテキストである「試験対策講座」は数科目分買いましたが、自分に合わないと思ったのでほとんど使いませんでした。

このように、自分に必要だと思う参考書等とつまみ食い的に使っていただけで、特定の予備校だけを使っていた訳ではありません。

節操のない感じに見えるかも知れませんが、受験生にとっては予備校は自分の合格の可能性を上げるために上手く使うことが大事なので、自分に合っていて好きな予備校を選べば良いと思いますし、勉強の段階や分野、時期、自分の理解度等によって使う予備校を変えることも全く問題ないと思います。


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40代になってから弁護士になった人の就職について

質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。

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40歳になってから弁護士になっても就職先はあるのでしょうか
ちなみに職歴は5年ほどある30代半ばの男性です
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私の同期や私が所属する弁護士会に来た修習生の中には40歳以上の人は何人かいましたが、私が知っている範囲では、最終的に全員就職先は決まっているようです。

サンプルが10人以下なのであまり無責任なことは言えませんが、40代であれば、仕事をした経験があって、ある程度社会人としてのマナーがある人であれば、就職できる可能性は高いと思います。

50歳を超えるとハードルはさらに上がると思いますが、私が知っている範囲でもそれでも50代で弁護士になって就職した人もいます。

以前に書いた「50代・60代で司法試験に合格した後の就職について」という記事を参考にしてもらえればと思います。


40代で就職する際の壁としては

① 就職先のボスや兄弁が自分よりも年下だと採用されにくい

② 年齢が40代だからといって最初の給料等の条件は20代の弁護士と同じ(場合によってはそれ以下)

というあたりだと思います。



①については、自分よりも年上の弁護士が経営している法律事務所や、ボスよりも年配の勤務弁護士がいるような事務所を中心に就職活動をすると、採用される確率はあがると思います。


②については、弁護士になって1~2年の間はサラリーマン時代よりも収入が少なくなることを覚悟する必要があると思います。

ある程度経験を積めば収入は増えていくと思いますし、同じ事務所で働いていて収入が増えない場合には他の法律事務所への転職や独立を検討すれば良いと思います。



以下は蛇足ですが、以前の記事でも書いたとおり、弁護士は就職先が見つからなくても、いきなり独立することが可能な職業です。


首都圏でいきなり独立するのはハードルが高いと思いますが、地方であれば独立して間もなく国選事件・刑事当番が回ってくると思いますし、独立して1年くらい経つと、成年後見等や破産管財事件などが定期的に回ってくるところもあると思います。

国選は受任すれば1件10万円から20万円程度の収入が入ってきます。裁判員裁判であれば1件50万円以上になることもありますが、弁護士なった最初のうちは先輩弁護士と共同受任する必要があるという場合が多いと思います(共同受任しても報酬はそれぞれに支払われます)。

刑事当番では運が良ければ私選(ある程度お金のある人の刑事弁護)にあたることがあります。(私は弁護士になって2ヶ月目で私選弁護にあたり、約2週間被疑者の弁護活動をして約50万円くらいの収入がありました。)

成年後見は1件で年間24万円~30万円程度の報酬になる場合が多いと思いますが、成年後見等は受任しない弁護士もいるので、5件以上、人によっては10件以上受けていたりします。

管財事件も最初のうちは報酬が少ない事件(1件10万円から20万円くらい)が多いですが、裁判所に信頼してもらえれば100万円以上の報酬が見込める事件も回ってくるようになります。

その他に、弁護士会・法テラス・自治体などが主催する法律相談に行くと定期的に事件が入ってきますし、弁護士会から自治体の委員、各研修の講師依頼、単発の法律相談会などの案内等が来ます。法律相談料、委員報酬、講師謝金等だけで月10万円以上の収入になることもあります。

地方だとまだホームページを作っていない事務所もあるので、SEOを意識したホームページを作れば「(地域名) 弁護士」で検索した場合に、Googleの検索結果に1頁目にあっさり出てきたりします。

あまりえり好みをせずに積極的に仕事をやっていけば、いきなり独立しても、やっていくことは可能だと思います。

ただ、独立した場合、経費もそれなりにかかるので、最初のうちは経費をあまりかけないように賃料の安い小さな事務所で、事務員無しで始めるのが無難だと思います。


1年目から独立するのは怖いという場合は、「給料はそれほど高くなくても良いので、修行のために事務所に置かせてください」的なスタンスで何件もお願いをしていれば、「仕方ない。じゃあ1年だけ。」という感じで経験を積ませてくれる事務所はおそらくあると思います。




いきなり独立するのは怖い思う人もいるかも知れませんが、司法試験の勉強をしっかりやって、司法修習を真面目にこなしていれば、司法修習が終わった時点で、弁護士として働くための基本的な知識は身についているはずです。

就職をしてもボスや兄弁が丁寧に仕事を教えてくれるとは限りませんし、弁護士の仕事は自由である反面、自分の頭で考えて決定しなければならない場面が多い仕事でもあります。


独立をして1人で仕事をしていても弁護士会の業務や委員会などを真面目にやっていれば、他の弁護士からアドバイスを受けることができたり、仕事を振ってもらえることもあります。

なので、「就職できなかったらどうしよう」と思う気持ちは分かりますが、弁護士を目指すからには「自分が希望する就職先が見つからなかったら独立も考えよう」と覚悟して、独立をした時のことも考えて司法試験の勉強や司法修習に取り組むほうが良いのではないかと思います。

そして、独立も覚悟している人のほうが勉強を一生懸命やる傾向がありますし、事務所経営のことも考えたりすることになるので、かえって早く司法試験に合格して就職先もあっさり決まったりすると思います。



なので、結論としては

・40代であれば、仕事をした経験があってある程度社会人としてのマナーがある人であれば、就職できる可能性は高い

・「就職できなかったらどうしよう」と悩むのであれば、独立する時のことを考えて司法試験の勉強や司法修習での勉強をきちんとしておく。そのほうが、受験生としても弁護士としても成長のスピードは速い。

というのが私の考えです。


ご不明な点があればまた質問してください。


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税理士資格と弁護士資格の相乗効果等について

質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。

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いつもありがとうございます。
記事を楽しく読ませて頂いております。

最近になって、弁護士という職業に興味を持ち始めました。私は30代前半で勤務税理士をしております。税理士の資格を取得できたのは最近です。税務も面白いのですが、実務をしていくにつれ、民法や会社法を触れる機会が多くなり、他の法律も一通り勉強したいという意欲が出てきました。
しかし、長年かけて税理士を取得したことと、現在の年齢を考えると弁護士を目指すには遅いのではと懸念しています。

そこで、以下2点質問がございます。

1.税理士と弁護士の相乗効果
このダブルライセンスについて筆者様はどのようにお考えでしょうか。あまり相乗効果がないでしたら諦めますし、いくつかの道があるなら目指したいと考えています。

また、通常弁護士をとれば税理士の業務もできるため、税理士⇨弁護士の資格を取得するというルートを辿る人はいないこと思いますので、勉強オタクやドMなど変な人と思われないか心配しています。

2.地方都市での転職は可能か
仮に合格できたとして年齢は30代後半になっていると思います。そこで地方都市での実務未経験が30代後半で転職は難しいでしょうか。できれば弁護士を多く擁している中堅(40〜100人程)以上で働きたいと考えていますが、無理な願いでしょうか。

税理士でも弁護士でも、今後の人口減少・少子高齢化による働く世代の減少という点、現在の税理士法人弁護士法人が増加している点を考えると独立はリスクがあるのではと考えており、できれば勤務し続けたいと考えています。


ご多忙の折大変恐れ入りますが、ご回答頂けると幸いにございます。よろしくお願い申し上げます。
(周りに相談する人もなく、背中を押して欲しいのかもしれません... よろしくお願いいたします。)
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  • 1 税理士資格と弁護士資格の相乗効果等について

税理士資格と弁護士資格の両方を持っていることの相乗効果は大きいと思います。

ご質問にもあるとおり税理士の仕事をしていると、税法以外の法律に触れる機会も多いと思いますし、顧問先から法律相談をされることもあると思います。

私も弁護士をしていると税理士や公認会計士の方から、法律相談をしたいという方や、弁護士に依頼をしたいという方を紹介されることがよくあります。

もし弁護士資格を持っていれば、税理士の業務の中で出てきた法律問題を、1つの事務所で処理できるというメリットがあります。


他方、弁護士の業務をしていても、税の問題はよく出てきます。

法律相談の中で税法上の相談をされることはよくありますし、企業関係の事件をしていると税法上の問題点をクリアしなければいけない場面ということもよくあります。

具体例を挙げるときりがないのですが、一例を挙げると

・相続や遺言の相談とからめて、相続時精算課税制度を使うことになったケース

・相続の問題にあたり、相続税の処理が必要となったケース

・和解金等の支払いにあたり、贈与税の問題等が出てきたケース

・破産手続の中で弁護士が破産管財人として破産会社の確定申告をしなければならないケース

・中小企業の事業承継にあたり、税の処理が必要になるケース

・合併などの組織再編にあたり、税の処理が必要になるケース


この中には税理士の方であれば特に悩むことなく処理できるものもあると思いますが、税法に詳しくない弁護士が税法の問題を処理するのは大変ですし、税理士に頼むケースが多いです。

他方、税理士と弁護士の両方の知識や経験があれば、弁護士としての業務と税理士としての業務の両方を処理できるというメリットがあります。


税理士と弁護士の業務をワンストップで行っている法人としては「税理士法人 山田&パートナーズ」(弁護士法人 Y&P法律事務所)などが有名だと思います。

また、税に強い法律事務所としては鳥飼総合法律事務所などが有名です。


このような形態の法人があること自体、弁護士としての業務と、税法上の知識経験が必要となる業務の双方が必要になる場面が少なからずある、ということを示していると思います。



ご質問にあるとおり、弁護士資格があれば税理士登録はできますが、税の知識がないのに税理士登録をするのは怖いので、敢えて税理士登録をする弁護士はそれほど多くありません。

なので、税理士の資格を持っている方が弁護士の資格を目指すメリットは十分にあると思いますし、「勉強オタクやドMなど変な人」と思われることはないと思います。

むしろ、優秀な弁護士の多くは弁護士資格をとった後も一生勉強を続けていますので、資格をとった後も勉強を続けることは大事なことだと思います。


ただ、資格を2つとったとしても、仕事ができる時間が2倍になる訳ではありません。

そのため、2つの資格があっても、税理士と弁護士の両方の業務を完璧にこなすというのは、なかなか難しいと思います。

双方の資格をとった場合は「税法に詳しい税理士資格も持っている弁護士」を目指すか、「弁護士的な知識経験がある税理士」を目指すか、どちらかを選択することになると思います。


なお、蛇足だと思いますが、弁護士の資格を取ると公認会計士試験の二次試験で、ものすごい量の免除が受けられます。

具体的には短答式と論文式の民法と選択科目が免除になり、税理士の資格を持っていれば論文式の税法が免除になります。

そのため、弁護士資格と税理士資格の両方を持っていれば、論文式試験の会計学と監査論にだけ受かれば公認会計士の二次試験に合格することができます。
 

公認会計士になるためには、論文試験に合格した後、①2年以上実務経験 ②原則3年間の実務補習 ③修了考査が必要ですが、税理士試験に合格した経験があれば、それほど苦労することなく、仕事をしながら公認会計士の資格をとることも不可能ではないと思います。


弁護士、税理士、公認会計士の3つの資格を持っていればさらに業務の幅は広がりますし、私が知っている複数資格保持者は、この3つの資格を持っているパターンが多いです。






  • 2 地方都市での転職について

税理士としての勤務経験があり、社会人としてマナー等に問題がなければ、30代後半や40代前半でも法律事務所への就職は可能だと思います。

むしろ、弁護士は税法を苦手にしていることが多いため、税理士の経験がある弁護士というのは希少価値は高いと思います。

条件さえ合えば歓迎されると思います。

ただし、地方で弁護士が「40〜100人程」いる事務所に就職するというのは難しいと思います。

というのも、地方には弁護士が40〜100人もいる法律事務所というもの自体が少ないからです。

以下のジュリナビのデータを見ていただければ分かると思いますが、弁護士の数が40人以上の事務所をピックアップしていくと、大阪府4事務所、愛知県1事務所で、その他の40人以上の事務所はすべて東京にあります。


したがって、東京都以外で弁護士の数が40人以上の事務所に就職しようとした場合、選択肢は5つ程度の事務所しかない訳です。

この5つの法律事務所に就職できなければ、地方で弁護士が「40〜100人程」いる事務所に就職する、ということはできないことになります。

なので、地方で働くことを希望する場合には、より小規模の法律事務所等も視野に入れる必要があると思われます。


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