質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。
(この記事は「●忙しい社会人の予備試験・司法試験に向けた勉強時間の確保と勉強方法について」への再質問の回答です。)
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何度か質問させていただいているサラリーマンです(2.の方は私ではありません)。
まず、短答の成績は以下の通りです。憲法30、行政法17、民法12、商法15、民訴17、刑法21、刑訴13、教養33、合計158。
35年前に法学部を卒業しており、ゼミに入っていた憲法は、自分としては得意科目と思っています。また、学生の時は公法系の方が成績が良く刑事系も得意だと思っていました。他方、私法系はあまり成績も良くなく、商法は必修ではありませんでした。
論文試験が終わった時に一番手応えがあったのは刑法だったので、E評価はショックでした。
民法、商法は全く手応えがなく、F評価は納得です。
誤算と言えるのは一般教養で、A評価を取るべきところ、D評価は想定外でした。
ご指摘の通り、民法と商法の成績が芳しくないのは絶対的な勉強時間が足りておらず、基本ができていないせいだと思います。
また、刑事系は学生の頃から勉強すること自体は苦にならない科目だったので、民法、商法とともにしっかり勉強したいと思います。
そこでご相談なのですが、上記以外の憲法、行政法、民訴、実務の勉強についてはどの程度の時間配分を考えるべきでしょうか。
いずれも短期間で詰め込んだことは否定し得ず、年齢のせいか物忘れもあって、基本知識が定着している自信がありません。
もう一つは、短答の準備をどのくらいすべきか、ということです。今回の合格はギリギリで、しかも一般教養で受かったようなものだと思っています。
なお、自分の年齢からすると、異動の希望を出すのは難しいと思われますが、何とか時間を見つけて勉強していきたいと思います。よろしくお願い致します。
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以下の回答・説明は、「予備試験を一度受験して科目ごとの成績が分かっている」かつ「時間がほとんどない」という事情がある相談者さん用の回答であって、万人に向けたものではありませんので、相談者の方以外はその点にごついて注意ください。
- 短答式対策について
短答式の結果を見ると、民法の得点率が40%、商法の得点率が50%ですので、やはり民事系の基本的な知識が足りないのだと思われます。
旧司法試験の時から「民法を制するものは司法試験を制する」という言葉がありましたが、民法は司法試験の基本になる科目です。
予備試験では民法の配点は他の科目と同じですが、司法試験の短答式では憲法・刑法よりも民法の配点が1.5倍多くなりますし、民法と商法は条文数が多く範囲が広いため、知識の穴があると論文式試験で大怪我をしやすい科目ですので優先して補強しておいたほうが良い科目だと思います。
そのため、短答式については知識勝負になる民法・商法を中心に、短答式過去問集を回すか、肢別本のアプリを回すなどして、基本的な知識を身につける必要があると思います。
その他、刑事訴訟法の得点率が50%を切っているあたりも気になりますので、他の点数の低かった行政法、民事訴訟法、刑事訴訟法についても短答式の勉強はできればやっておきたいところです。
「短答の準備をどのくらいすべきか」というご質問については、理想的なことを言えば、各科目について短答式過去問集か肢別本の8~9割程度を正解できるまで繰り返しやるべきです。
ただ、時間がないということですので、問題集等の8~9割程度を正解できるまでたどりつかないという可能性があります。
その場合には、民法・商法を優先した上で、実際に過去問集・肢別本を回していき、ある程度回した後は、正答率が低い科目を中心に復習していき、極端に苦手な科目を作らないようにしておく、方法で妥協せざるを得ないかも知れません。
憲法については満点を取っているようですので、憲法の短答式の勉強は知識を維持する程度で良いと思います。
- 時間配分の考え方について
「憲法、行政法、民訴、実務の勉強についてはどの程度の時間配分を考えるべきでしょうか。」という点については、時間配分を先に考えるのではなく、最初に科目ごとに何をするべきかを考えた後に時間配分を決めるべきだと思います。
たとえば「民法については本番まで300時間勉強しよう」という目標を立ててしまうと、本番までに自分がやろうとしていた勉強が終わらない可能性が高いです。
それに対し、①「本番までに民法についてはこの作業をする」②「この作業には何時間くらいかかりそう」③「本番までに確保できる時間は何時間だから、他の作業との兼ね合いで民法については何時間を配分する」という順番で計画を立てた方が計画倒れになる可能性が低いですし、仮に計画倒れになりそうになっても途中で「このままでは計画倒れになる」ということに気づけるので、修正もききやすいです。
相談者さんが細切れ時間をどのくらい確保できるのかや、どのくらいの時間で各作業を終わらせることができるのか、といった要素によって時間配分の仕方は変わるため、はっきりと何割ずつ配分すべき、という回答をすることは難しいです。
そのため、各科目にやるべきことの案をお話した上で、時間配分の仕方の考え方の案についてお話します。
- 憲法
憲法は短答式で満点を取っているにもかかわらず、論文式の成績はCということですので、論文式の問題の対処の仕方や、答案の書き方(何を書けば点が付きやすいのか等)がまだ十分に身についていない可能性があると思います。
憲法については基本的な知識はあると思いますので、論文式問題集の人権分野のAランクレベルの規範をきちんと覚えた上で、辰巳法律研究所の「ぶんせき本」などを読んで論文式の過去問の解き方を学んだり、予備校の答練の復習をすれば、憲法の論文式の成績は一気にあがる可能性があると思います。
憲法の答案の書き方が分からない場合には辰巳法律研究所の趣旨規範ハンドブックなどに問題の処理のテンプレートがありますし、各予備校で「憲法の答案の書き方講座」というような単発の講座をやっていたりするので、手っ取り早く予備校の力を借りるのもありだと思います。
- 行政法
行政法は論文式で問われる範囲がある程度絞られているため、短答式試験の成績が悪くても論文式試験の成績は良い、ということがあり得る科目です。
行政法は短答式が17点であるものの、論文式がAということなので論文式の書き方は理解しているようにも思います。
ご自身の感覚として行政法の論文式試験についてはどのような問題であっても解法は理解できているということであれば、論文式についてはそれほど時間をかけなくても良いと思います。
他方、今回A評価を受けたものの、行政法の論文式の問題の解き方がまだマスターできていないという場合には、憲法と同様に辰巳法律研究所の「ぶんせき本」、予備校の答練、趣旨規範ハンドブックなどを使って、解き方を頭に入れておいたほうが良いでしょう。
短答式については、今回の試験で得点率が6割を切っているのは心許ないので、問題集・肢別本等を使って少なくとも7割程度は得点できるよう、基本的な知識のインプットをしたほうが良いと思います。
- 民事訴訟法
民事訴訟法は、どちらかと言うと短答式試験と論文式試験の成績が比例しやすい科目だと思いますが、質問者さんの民事訴訟法の成績は、短答式が17点であるものの、論文式がBということで、若干ちぐはぐな印象を受けます。
可能性としては、自分が知っている範囲が論文式試験で出たか、他の受験生の論文式の出来があまり良くなかったために、相対的に成績が浮き上がった可能性もあるかも知れません。
民事訴訟法に関しては、短答式の知識をインプットしていれば、論文式試験では少なくとも「何を書いていいのか全く分からない」という事態にはなりにくい科目ですので、まずは問題集・肢別本等を使って短答式の勉強をし、できれば伊藤塾試験対策問題集などの論文式問題集のAランクの問題について、同じような答案を書けるように訓練をしておくと良いと思います。
- 民事実務基礎・刑事実務基礎
私が受験生の時は予備試験は無く、実務基礎科目は法科大学院の定期試験対策でしかやっていないため、あくまで自分がもし現在の予備試験の受験生だったらということを前提とした回答になります。
実務基礎科目については、民法・刑法・刑事訴訟法を理解していないと勉強効率が悪いという特徴がありますし、他の受験生も十分な対策ができてない人が多い、というのが実情だと思います。
その点を踏まえて、私が時間がない受験生であれば以下のような勉強をすると思います。
・「新問題研究要件事実」に出てくる要件事実とその考え方を押さえる
・「紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造」を読んで「新問題研究要件事実」には記載のない要件事実を押さえておく
・法曹倫理、刑事実務基礎については、予備校が出版している参考書か予備校の講義を利用してざっと頭に入れる
●新問題研究要件事実
●紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造
要件事実には色々な問題集や参考書があるので手を広げて色々なものを使いたくなるのですが、基本的には「新問題研究要件事実」と「紛争類型別の要件事実」の要件事実をきちんと理解していれば、予備試験、司法試験、司法修習の起案、二回試験のいずれにも対応できると思います(私も最初は色々と手を広げましたが、司法修習に入った後に上記の2冊に絞ったところ起案の成績が安定するようになりました)。
「紛争類型別の要件事実」は解説がシンプル過ぎて最初のうちは難しく感じると思いますので、岡口基一裁判官の「要件事実マニュアル」を辞書として手元に置いておき、分からない時に調べるようにしておくと理解がはかどると思います。
●要件事実マニュアル
「要件事実マニュアル」は司法試験レベルでは1巻と2巻があれば十分です。
民事実務基礎・刑事実務基礎に関し、予備校が出版している参考書については、以下のいずれか、または複数を使っている人が多いと思います。
●刑事実務基礎の定石
●司法試験予備試験 法律実務基礎科目ハンドブック
●民事実務基礎 (伊藤塾試験対策問題集:予備試験論文)
予備校の講義は民事実務基礎・刑事実務基礎合わせて30時間くらいだと思いますので、予備校の講義をメインで対策する場合は復習もかねて40~50時間は確保しておく必要があると思います。
- 刑法
刑法に関しては短答式で7割の得点があり、得意科目だと思っていて、一番手応えがあったのに論文式がE評価だった、というのが気になります。
刑法の論文式試験は、処理の仕方が身についていれば少ない知識でも高得点を取りやすい科目ですので、もし知識が十分であるにも関わらず論文式の評価が悪かったとすれば、論文の書き方、特に事実の当てはめと評価の仕方に問題があるのかも知れません。
できれば、再現答案を合格者や予備校の講師に見てもらうなどして、自分の弱点がどこにあるのか((ア)知識が足りていない、(イ)定義や規範の暗記が不正確だった、(ウ)事実の当てはめと評価の仕方に問題がある、(エ)記述量のバランスが悪い、(オ)それ以外)を分析してもらったほうが良いと思います。
(もし、周りに再現答案を見てくれる人がいないという場合には、再現答案を他の方に見られても良いのであれば、このブログのコメント欄等に貼り付ける等してもらえれば、時間のある時に目を通した上でコメントさせていただきます。)
刑法の勉強として何をやるべきかは、その分析が終わってから決めたほうが良いと思いますが、おそらく「事実の当てはめと評価の仕方に問題がある」の可能性が高いように思いますので、その場合には、「ぶんせき本」や答練を通して論文式の優秀答案と同じような文章を書けるように訓練する、という作業が必要になってくると思います。
- 刑事訴訟法
刑事訴訟法は短答式が13点、論文式がの評価がEということなので、基本的な知識に不足があるように思います。
また、刑事訴訟法の論文式試験は刑法と同様に、事実のあてはめや評価が重要であるため、刑法と同様に論文式の成績が悪かったということを考えると、刑事訴訟法についても、事実の当てはめと評価の仕方がまだ身についていない可能性があります。
伊藤塾試験対策問題集などの論文式問題集のAランクの問題をマスターした上で、「ぶんせき本」や答練を通して論文式の優秀答案と同じような文章を書けるように訓練する、という作業が必要になってくると思います。
- 民法・商法
民法、商法については短答式の勉強をすれば基本的な知識は身につくと思いますが、論文式試験では規範を暗記していないときちんとした答案は書けないので、短答式の勉強とは別に最低でも伊藤塾試験対策問題集などの論文式問題集のAランクの問題、あるいは趣旨規範ハンドブックで重要とされている論点の規範については、暗記をするという作業が必要になります。
- 全体の勉強のまとめ
次の試験までどのような勉強をするかはご自身で決めていただく必要がありますが、時間がないということを前提に、全体の勉強方法の案の1つを提示すると以下のようになると思います。
・細切れ時間を使って民法・商法の肢別本のアプリを回す
・他の科目についても前回の試験の成績が悪かった科目を中心に肢別本のアプリを回す
・憲法の論文式について「ぶんせき本」・答練・趣旨規範ハンドブック・講座などを使って書き方を身につける
・行政法の論文式について「ぶんせき本」・答練・趣旨規範ハンドブックなどを使って書き方を身につける
・民事訴訟法について、伊藤塾試験対策問題集などの論文式問題集のAランクの問題について、同じような答案を書けるように訓練する
・「新問題研究要件事実」に出てくる要件事実とその考え方を押さえた上で、「紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造」をざっと読み「新問題研究要件事実」には記載のない要件事実を押さえる
・法曹倫理、刑事実務基礎については、予備校が出版している参考書か予備校の講義を利用してざっと頭に入れる
・刑法について、「ぶんせき本」や答練を通して論文式の優秀答案と同じような文章を書けるように訓練する
・刑事訴訟法について、伊藤塾試験対策問題集などの論文式問題集のAランクの問題について似たような答案を書けるようにする
・刑事訴訟法について、「ぶんせき本」や答練を通して論文式の優秀答案と同じような文章を書けるように訓練する
・科目全体について、最低でもAランクの問題、重要とされている論点の規範については、論文式試験本番までに暗記する
他にもやるべきことがあるかも知れませんが、上記の内容であれば、平日に細切れ時間を使って勉強時間を確保し、週末にある程度まとまった勉強ができれば、消化できるかも知れません。
そして、自分が本番までやるべきことを決めたら、
(ア)それぞれの作業をいつ、どこでやるのか(通勤途中に電車の中で何分やる、土曜日の何時から何時まで自宅の机でやる、毎日お風呂につかりながら何分やる、朝・夜の食事の時間にご飯を食べながら何分やる等)を決めて、試験本番までにどのくらいの勉強時間を割けるかを計算し、
(イ)そして、上記の作業について、これまでのご自身の勉強の進捗率などをもとに、ぞれぞれ何時間かかりそうかという予測を立て、
(ウ) (ア)と(イ)の時間をもとに、それぞれの作業を、いつからいつまでに、どこでやるというスケジュールを組んで、そのスケジュールに従って実行してみて、
(エ)実際にやってみると、スケジュールを調整しなければ本番まで間に合わないという場面が出てくると思いますので、適宜、優先順位の低い作業を切り落とす等して、スケジュールを再作成し、再度実行する、
という作業を繰り返すのが良いと思います。
このような計画を立てれば、自ずと、それぞれの作業にどのくらいの時間を割り当てるべきか、という回答が出てくると思います。
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