質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います

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働きながら予備試験の勉強をしているものです。
ひとつ、教えていただければ大変幸いです。
商法の試験範囲には手形法が含まれますが、どのように、また、どの程度勉強されましたでしょうか?
予備試験受験生ですので、当然、短答の対策はしておりますが、論文になりますと、正直全く書ける気がしません。出題可能性が低いために気力が湧かないというのもあるかもしれませんが
アドバイスいただけますでしょうか?
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私が受験生の時は予備試験は無かったため、ロースクール受験、司法試験受験をとおした経験と、自分がもし現在の予備試験の受験生だったらということを前提とした回答になります。




  • ○私がロースクールを受験した時

私がロースクールを受験する際、受験先のロースクールの入試で手形法が出題される可能性があったため、柴田孝之先生の「論文基礎力養成講座 商法・会社法」に載っている問題の範囲で、一応、手形法の勉強はしました。

ただ、質問者さんと同様に「出題可能性が低いために気力が湧かない」という状況であり、手形法についてはあまり理解ができていないままロースクール入試本番を迎えました。

そして、入学試験で運良く手形法が出題されなかったため、特に問題は生じなかった、というのが正直なところです。



  • ○私が司法試験を受験した時

私が司法試験を受験した時は、商法についても短答式があったため、短答式の過去問演習の範囲でのみ手形法の勉強をし、論文式試験については全く対策をしませんでした。

ロースクールで商法の教授からは「今後は手形は使われなくなるから、手形の勉強は各自でするように」と言われた記憶があります。

過去問を見る限り、司法試験の論文式試験では手形法の知識を正面から問うような問題は(現時点では)出題されたことは無いと思います。



  • ○予備試験について

予備試験については、論文式試験の過去問を見ると、平成24年平成28年に手形法の知識を正面から問う問題が出題されています。

そのため、現時点では、予備試験の本番で「手形法を勉強していなかったけれども、出題されてしまった」という事故を防ぐためには、ある程度は手形法の勉強をしておいたほうが良いはと思います。

ただ、今年(令和3年)の2月から3月頃にかけて、「経済産業省が2026年めどに約束手形の利用廃止を求める方針を決定した」という報道がありました。

(以下のサイトの「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」の「報告書」に詳細が記載されているようです。)



司法試験や予備試験は、裁判官・検察官・弁護士という実務家の資格を与えるための試験なので、上記の報道の内容をふまえると、実務的に使われなくなる可能性の高い手形について、予備試験でも出題が減ったり、無くなったりする可能性があると思います。

個人的には、今後の司法試験や予備試験の論文式試験で手形法の知識を正面から問う問題が出題される可能性は低いだろうとは思っていますが、前記のような事故を防ぐためには、現時点ではある程度の勉強はしておいたほうが良いと思います。



  • ○手形法の勉強はどこまでやるべきか

予備試験受験生であれば、短答式の勉強をする際に手形法の勉強もすることになるため、手形法について基本的な知識はインプットできるはずです。

そのため、論文式試験で手形法が出題された際には、短答式試験の知識をフル活用して、手元にある六法を頼りに、何とか解答をひねり出す(三段論法を守りつつ解答らしいものを作って軽傷で済ませる)、という方法もあると思います。

現実問題として、予備試験の論文式試験で手形法が真っ正面から出題された時に、質の高い答案を書ける受験生はそれほど多くないと思います。

そのため、条文を間違えずに指摘して、三段論法を守りつつ、それなりに説得力のある論証をすることができれば、大怪我を避けることは可能だと思います。


もっとも、質問者さんのように「短答式の勉強だけでは論文式試験でどのように書けば良いのかイメージがわかない」と方もいると思いますので、その場合には、論文式試験用の問題集や、論文式試験の解答的な解説がなされている予備校本を使って、論文式試験の答案のイメージを作っておく、という方法もあると思います。

別の記事で紹介している伊藤塾の「試験対策問題集」や辰巳法律研究所の「えんしゅう本」にも、数問程度、手形法の問題があったと思います。

★試験対策問題集

★えんしゅう本

数問という問題数は「時間がないので、基本的な問題に絞ってくれていたほうが助かる」と感じる人もいると思いますし、「問題集が少ないと不安」と感じる人もいると思うので、ご自身がどこまで手形法の勉強に時間割くことができるか等の事情をふまえた上で、本屋さんで実際に見てみて、自分の気に入ったものを選ぶと良いと思います。


その他、LECの「C-Book 商法II」という予備校本では、手形法に関する論点ごとに「問題の所在」「考え方のすじ道」という箇所に問題と解答例のような形で解説されています。

★C-Book 商法II

この「C-Book」に掲載されている主要論点を解答例に形でインプットしておけば、手形法の分野では試験が怖いということはなくなると思います。

ただ、現実的には、他の科目との兼ね合いで、手形法を予備校本で網羅的に勉強するための時間をとることは、かなり難しいと思います。


そのため、私が今の予備試験の受験生だった場合には、

(1)短答式の過去問演習で手形法の基本的な知識をインプットする

(2)それでも不安な場合には、「試験対策問題集」や「えんしゅう本」など、問題数が少なめの論文式問題集の解答例を読んだり写経したりして、解答のイメージを掴んでおく

(3)論文式試験で手形法が出際された際の過去問と合格者の再現答案(成績上位者の答案だけでなくボーダーラインの答案も)を読んで、少ない知識でどのように無難な答案を書くべきかをイメージしておく

というくらいで済ませると思います。


前記のとおり、政府も約束手形は廃止する方向で動いているようですので、今後は司法試験や予備試験で手形法の知識を正面から問う問題が減ったり、無くなったりする可能性があると思います。

令和3年度以降の予備試験の短答式の問題において、手形法の問題が著しく減ったり、無くなったりするようであれば、論文式試験でも手形法の分野が出題される可能性は低いと思いますので、今後の状況をふまえつつ、どこまで勉強するのかを判断したほうが無駄な勉強をしなくて済むと思います。


  • ○その他(蛇足です)

前記のとおり、私はロースクールで商法の教授からは「実務では今後は手形は使われなくなる」と言われていましたし、政府も約束手形を廃止する方針です。

しかし、実務に出てみると、中小企業などでは未だに手形を使っているところもあり、たまに手形がからんだ問題に出くわすこともあるため、私は「受験生の時にもう少し手形を勉強しておけばよかった」と思うことがあります。

「手形法の勉強をしようとしても、やる気が出てこない」という気持ちは、自分もそうだったので良く分かります。

手形法が良く分かっていないと私のように苦労することもあるかも知れませんので、実務で手形法の問題に出くわした時のことをイメージしながら勉強を頑張っていただければと思います。



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