質問をいただきましたのでお答えしたいと思います。
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勉強の仕方について
勉強の時、ノートのとり方がうまく行かないことはありませんでしたか。
最近、ノートを取らず、予備校本を読んで、問題集や過去問をやってわからない所は又予備校本を読んでを繰り返しております。
そこで、論文は趣旨規範ハンドブック(工藤の論証集でもよいらしいですが)にまとめると良いという事ですが、普段のノートと別にまとめるとよいのでしょうか?
それとも、全て趣旨規範ハンドブックにまとめてしまうのですか。
勉強していてわからないところは基本書や論証集に載っているのでそれを見れば良いのであまりノートを取らなくても良く、問題を解くときだけノートを使うと良いという事でしょうか。
基本書を7回読めとかいいますがノート取りより読み込みと演習書や過去問のやりこみが良いでしょうか。
説明がうまくないですが、勉強の範囲が膨大なので、自分でわからない所の整理をどうやっていくのか、そこがうまく行かないです。
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伊藤塾の予備試験論文にも論証一覧は載っていますし、予備試験論文のはじめにも、論証一覧はつけたが、巷の論証集は少し量が多いとかかれています。
他にあるものをノートに書いてもあまり意味がなさそうですから、こういうのを使い復習するか。
あまりうまく説明できませんが、宜しくお願いします。
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  • ●論証集やノートを作る必要性について

司法試験の勉強における論証集やノートの使い方について質問がありましたので、お答えしたいと思います。

私も勉強を始めた頃は論証集(論証パターン)の扱いについて悩んだことがあるので、お気持ちは分かります。

結論としては、
(ア)自分で論証集・ノートを作る必要性があると感じていて、かつ時間があるのであれば論証集やノートを作れば良いと思いますし、
(イ)
現時点で論証集・ノートを作る必要性を感じていない場合や、論証集やノートを作る時間的余裕がない場合には、敢えて作る必要はないと思います。


参考として私が受験生の時にどうしていたかという話をしたいと思います。

私は、勉強を始めた頃は論証集やノートは作っていませんでした。必要性を感じていなかったからです。

伊藤塾の「試験対策問題集 論文」など論文式試験用の問題集を読めば主要な論点の論証は載っていますので、論証を覚えたいのであれば、論文式試験用の問題集の問題と参考答案を何度も読みながら分からないこところを基本書や予備校本で調べるという作業を繰り返したり、参考答案を写経したりすれば良いと思います。

★ISBN-10: 433530370X

また、勉強を始めたばかりの頃や、自分の頭で考えて論証を作るよりも、出来の良い論証を丸暗記してしまったほうが学習効率が良いので、敢えて自分なりの論証集というものを作る必要性は低いと思います。(「守破離」の「守」、つまり、教わった型を守る)段階です。)



しかし、ある程度勉強が進んできて理解が深まってくると、「自分の頭で考えた論証」や「お気に入りの先生の基本書に書いてある論証」や「司法試験の優秀答案にあった論証」のほうを使いたいという場面出てくると思います。(「守破離」の「破離」、つまり、教わった型を自分なりに改善・改良できる段階になっていきます。)

こうなってくると「試験対策問題集 論文」などの論証を丸暗記するよりも、自分が理解したことや、腑に落ちたことをベースに論証を作って覚えたほうが、記憶に残りやすくなってくるんです。

また単に論点を学習する上で、過去の裁判例でどのような事案であったとか、どのような当てはめたがされたなどの情報を整理したくなってくることも出てきました。

そこで、私は「自分なりの論証を作ったほうが記憶に残りやすい」と感じた論点が出てきた時や、事案や当てはめを整理したい論証ができた時には、その論点について、ワードで自分なりの論証集を作るようにしていました。


たとえば、刑法の共同正犯の成立要件に関する論証ですが、一般的な予備校の問題集にある論証のままだと、事案への「当てはめ」がやりにくいと感じていたので、基本書や過去の判例を参考に以下のような論証を作っていました。


【ここから】

※C-book366、370、山口160、講義案318、ステップアップ101、終局起案手引25、

(1)
実行行為の一部を分担していないが
共謀に参加した者についても
共同正犯(60条)が成立しうるか
が問題となる

(2)
思うに、
「共同して犯罪を実行した」(60条)場合に
全員が正犯とされるという
共同正犯の正犯性の根拠は
各共謀者の
自らの犯罪を実現するために
共謀をなし
共謀に基づいて
相互に
他方の行為を利用・補充し合って
犯罪が実行された場合には
各関与者が
自ら事態の成り行きを操作して
直接的に
法益侵害またはその危険を惹起した
という意味で
各関与者が
自ら犯罪を実行したものと
規範的に評価できる点にある。
そこで、
①共同実行の事実
(共謀に基づいて
共謀者のいずれかが
実行行為を行ったこと)
②各被疑者が犯意を相互に認識したこと
(犯意の相互認識)
③各被疑者に
故意だけでなく
他の者と行為を利用・補充し合い
自己の犯罪を実現する意思(正犯意思)があること
という要件を満たす場合には
実行行為の一部を分担しない者についても
共同正犯が成立しうると解する。
(最大決昭33.5.28:百選Ⅰ75))
(最決平15.5.1:百選Ⅰ76))

(3) あてはめ
→別途、表を作って整理

※講義案318-
実行共同正犯・共謀共同正犯のいずれにおいても上記の要件となる。
∵共同正犯の正犯性の根拠は共謀へ参加した点にある
→共同正犯の成否という観点では,
実行共同正犯と共謀共同正犯との間には何ら本質的な差異はない
実行共同正犯・共謀共同正犯の区別は
刑事訴訟法の訴因の特定や訴因変更において問題となるにすぎない
【ここまで】


そして、この論証集には、参考にした基本書・予備校本・判例集の頁・番号を記載し、答練をやったり、過去問をやって気づいたことや、気に入った論証のフレーズを加えていき、答練や試験の直前期に見直すようにしていました。


このような自分なりの論証集は全ての論点について作っていた訳ではなく、あくまで論証を作る必要性を感じた論点(自分で論証を作ったほうが理解しやすい、記憶に残りやすいと感じた論点)に絞って作っていました。

自分なりの論証集を作っていない論点については、伊藤塾の「試験対策問題集 論文」を直前期に読んで覚えたり、辰巳法律研究所の「趣旨規範ハンドブック」を直前期に読んで、暗記するという作業をしていました。




その他、論証の他に、似て非なる知識が出てきた時に、主に択一対策用に表を作って知識を整理する、といこともやっていました。

たとえば、民法であれば「共有」「合有」「総有」の違いを整理するとか、「代理」と「使者」の違いを整理したりするというものです。


以上のやり方は、あくまで私のやり方ですので、上記のとおりにしなければならないということではありません。

前記のとおり、①自分で論証集やノートを作る必要性があると感じているという点と、②論証集やノートを作っている時間があるのか、という2点から、作るかどうかを判断したほうが良いと思います。

受験生の中には、論証集やノートの作成に時間をかけすぎて、本番に間に合わなくなってしまう人もいますので、時間がない場合には、論証集は全て論文問題集や趣旨規範ハンドブックで代用するとか、ノートは択一六法で代用する等の判断が必要になってくると思います。


私の同級生の中には、自分の論証集やノートを一切作らずに合格している人も多数います。

論証集・ノートを一切作らずに合格している人は、問題演習をたくさんこなしながら、演習の復習の際に知識をインプットしている人が多かったように思います。





  • ●「論文は趣旨規範ハンドブック(工藤の論証集でもよいらしいですが)にまとめると良いという事ですが、普段のノートと別にまとめるとよいのでしょうか?それとも、全て趣旨規範ハンドブックにまとめてしまうのですか。」


この点も人それぞれだと思います。

「普段のノート」について、どのようなものを作っていらっしゃるのか分からなかったのですが、私は趣旨規範ハンドブックをスキャンした上でOCRソフト(読取革命)で読み込んで、ワードに貼り付けて、そこに自分のメモを打ち込んでいくとう方法を取っていました。

「OCRソフト」とは以下のようなソフトです。

★ASIN: B0091L3FDS


しかし、OCRソフトを使っても、趣旨規範ハンドブックの内容をワードの貼り付けるという作業は結構時間がかかりますので(慣れている人でも丸1日くらいはかかると思います。)、私の方法は効率が良かったとは言えないとと思います。

私の同級生(合格者)は趣旨規範ハンドブックに手書きで、自分が必要だと思う情報をどんどん書き込んでいって、直前期に見直すという方法をとっていました。

ただ、この方法も、同級生曰く「趣旨規範ハンドブックが改訂される度に、手書きのメモを書き写さなければならないのが非常の面倒くさい」と言っていましたので(これも1日から数日かかるようです)、前記のようにワードにデータを貼り付けたりするのか、紙ベースで手書きで書き込んでいくかは、一長一短だと思います。



  • ●「勉強していてわからないところは基本書や論証集に載っているのでそれを見れば良いのであまりノートを取らなくても良く、問題を解くときだけノートを使うと良いという事でしょうか。」

「勉強していてわからないところは基本書や論証集に載っているのでそれを見れば良いのであまりノートを取らなくても良く」という点については先程お話ししたとおりです。

自分なりの論証集や知識を整理したノートを作る必要性と時間があると思うのであれば作ればよいと思いますし、必要性を感じないとか、時間がないという場合にはノートを作る必要はないと思います。

「問題を解くときだけノートを使うと良いという事でしょうか」という点については、どのような形で問題演習をするかによると思います。

短答式の問題を解く場合であれば、事案図を書くためのメモ紙等があれば十分だと思いますし、肢別本をガンガン回す時にはノートは使わない人のほうが多いと思います。

論文式の問題集を使う時には、知識のインプットがメインであれば、ノートを使わずにとにかく読み込むというやり方でも良いと思いますし、実際に答案が書けるかチェックしたいということであればノートや答案用紙に実際に答案を書いてみるという作業をしたほうが良いと思います。

なお、司法試験の論文式の過去問を解く時は、下書き用紙に答案構成をした上で、本番と同じ答案用紙に答案を実際に書くという作業をするべきです。

答案用紙は法務省のHPからダウンロードできます。

http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00165.html





  • ●「基本書を7回読めとかいいますがノート取りより読み込みと演習書や過去問のやりこみが良いでしょうか。説明がうまくないですが、勉強の範囲が膨大なので、自分でわからない所の整理をどうやっていくのか、そこがうまく行かないです。」

「基本書を7回読めとかいいますが」という点については、これも人それぞれだと思います。

以前の記事で書いていると思いますが、私は基本書を通読する必要性を感じなかったので、通読した基本書はほとんどありません(通読したのは入門書のみ。)。


他方で、問題演習をして腑に落ちない部分が出てきた時は、基本書や予備校本の該当箇所を何度も読んでいましたので、重要な論点に限って言えば、10回以上基本書を読んでいる部分もあると思います。

基本書を何回読むかが問題なのでなく、予備試験・司法試験の本番で実際に答案を書くことができるのか、合格点が取れるかどうかが問題です。

基本書を何度も読んで合格点が取れるようになるタイプであれば別ですが、そのような人は一部の天才だけなので、普通の受験生であれば、問題演習を中心に勉強をしていったほうが効率が良いと思います。

また、普通の受験生は基本書を7回も読んでいる時間はないと思います。

試しに基本書を1頁読むのにどのくらいの時間がかかるか計った上で、全8科目(憲・民・刑・民訴・刑訴・商法・行政・選択)の基本書の合計の頁数を掛けるみると、基本書の通読には膨大な時間がかかることが分かると思います。

実際に基本書を何度も通読して合格している受験生も少なくありませんので、基本書を通読するな、とは言いませんが、本当に基本書を7回も読む時間があるのかという点と、基本書を7回読んで試験本番で使える知識・技術がどれだけ得られるのかということを良く考えた上で、自分の必要な勉強方法が何なのかを選別していったほうが良いと思います。


なお、特殊な例として、基本書を論証集のように使っている人もいます。

基本書を読む時に、問題提起の部分、規範の部分、理由付けの部分、あてはめの部分をそれぞれマーカー色分けをして、基本書を読む時に、自分の頭の中で論証(もし論文式試験で問われたたらどういう答案になるのか)を構成しながら読むという高度な方法なのですが、地頭が良い方であればこういう方法もあると思います。

江頭先生や伊藤眞先生のような重厚な基本書でこれをやろうとするとかなりキツイと思いますが、最近は予備校本的な初心者にも優しい基本書も増えてきていますし、このような使い方が出来るのであれば、基本書を何度も読むというのもありではないかと思います。




  • ●「伊藤塾の予備試験論文にも論証一覧は載っていますし、予備試験論文のはじめにも、論証一覧はつけたが、巷の論証集は少し量が多いとかかれています。他にあるものをノートに書いてもあまり意味がなさそうですから、こういうのを使い復習するか。」

論証集は色々なものがありますが、個人的には主要論点を抑えるという点で伊藤塾の「試験対策問題集 論文」を使いつつ、細かい論点を押さえるために辰巳法律研究所の「趣旨規範ハンドブック」を補助的に使うというのがお勧めです。

予備校本の巻末にも論証集は載っていますが、これらの論証集は基本的に事案が書いておらず、あてはめの記載もないため、使い勝手はあまり良くないです。

伊藤塾の「試験対策問題集 論文」は、重要論点はほぼ網羅していて、答案例の質も良いのですし、あてはめもシンプルながら要点が押さえられています。

他方、「試験対策問題集 論文」は改訂が数年に1回しかないため、最新判例に関する論点や、近時の本試験で出題されたような先進的な論点については掲載されていないことあります。

そのため、辰巳法律研究所の「趣旨規範ハンドブック」を補助的に使って、論点に漏れがないようにカバーをしておくのが安全かと思います。







以上が私の意見ですが、分からないことがありましたらまた質問をいただければと思います。


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