質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。
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いつもありがとうございます。
記事を楽しく読ませて頂いております。
最近になって、弁護士という職業に興味を持ち始めました。私は30代前半で勤務税理士をしております。税理士の資格を取得できたのは最近です。税務も面白いのですが、実務をしていくにつれ、民法や会社法を触れる機会が多くなり、他の法律も一通り勉強したいという意欲が出てきました。
しかし、長年かけて税理士を取得したことと、現在の年齢を考えると弁護士を目指すには遅いのではと懸念しています。
そこで、以下2点質問がございます。
1.税理士と弁護士の相乗効果
このダブルライセンスについて筆者様はどのようにお考えでしょうか。あまり相乗効果がないでしたら諦めますし、いくつかの道があるなら目指したいと考えています。
また、通常弁護士をとれば税理士の業務もできるため、税理士⇨弁護士の資格を取得するというルートを辿る人はいないこと思いますので、勉強オタクやドMなど変な人と思われないか心配しています。
2.地方都市での転職は可能か
仮に合格できたとして年齢は30代後半になっていると思います。そこで地方都市での実務未経験が30代後半で転職は難しいでしょうか。できれば弁護士を多く擁している中堅(40〜100人程)以上で働きたいと考えていますが、無理な願いでしょうか。
税理士でも弁護士でも、今後の人口減少・少子高齢化による働く世代の減少という点、現在の税理士法人弁護士法人が増加している点を考えると独立はリスクがあるのではと考えており、できれば勤務し続けたいと考えています。
ご多忙の折大変恐れ入りますが、ご回答頂けると幸いにございます。よろしくお願い申し上げます。
(周りに相談する人もなく、背中を押して欲しいのかもしれません... よろしくお願いいたします。)
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- 1 税理士資格と弁護士資格の相乗効果等について
税理士資格と弁護士資格の両方を持っていることの相乗効果は大きいと思います。
ご質問にもあるとおり税理士の仕事をしていると、税法以外の法律に触れる機会も多いと思いますし、顧問先から法律相談をされることもあると思います。
私も弁護士をしていると税理士や公認会計士の方から、法律相談をしたいという方や、弁護士に依頼をしたいという方を紹介されることがよくあります。
もし弁護士資格を持っていれば、税理士の業務の中で出てきた法律問題を、1つの事務所で処理できるというメリットがあります。
他方、弁護士の業務をしていても、税の問題はよく出てきます。
法律相談の中で税法上の相談をされることはよくありますし、企業関係の事件をしていると税法上の問題点をクリアしなければいけない場面ということもよくあります。
具体例を挙げるときりがないのですが、一例を挙げると
・相続や遺言の相談とからめて、相続時精算課税制度を使うことになったケース
・相続の問題にあたり、相続税の処理が必要となったケース
・和解金等の支払いにあたり、贈与税の問題等が出てきたケース
・破産手続の中で弁護士が破産管財人として破産会社の確定申告をしなければならないケース
・中小企業の事業承継にあたり、税の処理が必要になるケース
・合併などの組織再編にあたり、税の処理が必要になるケース
この中には税理士の方であれば特に悩むことなく処理できるものもあると思いますが、税法に詳しくない弁護士が税法の問題を処理するのは大変ですし、税理士に頼むケースが多いです。
他方、税理士と弁護士の両方の知識や経験があれば、弁護士としての業務と税理士としての業務の両方を処理できるというメリットがあります。
税理士と弁護士の業務をワンストップで行っている法人としては「税理士法人 山田&パートナーズ」(弁護士法人 Y&P法律事務所)などが有名だと思います。
また、税に強い法律事務所としては鳥飼総合法律事務所などが有名です。
このような形態の法人があること自体、弁護士としての業務と、税法上の知識経験が必要となる業務の双方が必要になる場面が少なからずある、ということを示していると思います。
ご質問にあるとおり、弁護士資格があれば税理士登録はできますが、税の知識がないのに税理士登録をするのは怖いので、敢えて税理士登録をする弁護士はそれほど多くありません。
なので、税理士の資格を持っている方が弁護士の資格を目指すメリットは十分にあると思いますし、「勉強オタクやドMなど変な人」と思われることはないと思います。
むしろ、優秀な弁護士の多くは弁護士資格をとった後も一生勉強を続けていますので、資格をとった後も勉強を続けることは大事なことだと思います。
ただ、資格を2つとったとしても、仕事ができる時間が2倍になる訳ではありません。
そのため、2つの資格があっても、税理士と弁護士の両方の業務を完璧にこなすというのは、なかなか難しいと思います。
双方の資格をとった場合は「税法に詳しい税理士資格も持っている弁護士」を目指すか、「弁護士的な知識経験がある税理士」を目指すか、どちらかを選択することになると思います。
なお、蛇足だと思いますが、弁護士の資格を取ると公認会計士試験の二次試験で、ものすごい量の免除が受けられます。
具体的には短答式と論文式の民法と選択科目が免除になり、税理士の資格を持っていれば論文式の税法が免除になります。
そのため、弁護士資格と税理士資格の両方を持っていれば、論文式試験の会計学と監査論にだけ受かれば公認会計士の二次試験に合格することができます。
公認会計士になるためには、論文試験に合格した後、①2年以上実務経験 ②原則3年間の実務補習 ③修了考査が必要ですが、税理士試験に合格した経験があれば、それほど苦労することなく、仕事をしながら公認会計士の資格をとることも不可能ではないと思います。
弁護士、税理士、公認会計士の3つの資格を持っていればさらに業務の幅は広がりますし、私が知っている複数資格保持者は、この3つの資格を持っているパターンが多いです。
- 2 地方都市での転職について
税理士としての勤務経験があり、社会人としてマナー等に問題がなければ、30代後半や40代前半でも法律事務所への就職は可能だと思います。
むしろ、弁護士は税法を苦手にしていることが多いため、税理士の経験がある弁護士というのは希少価値は高いと思います。
条件さえ合えば歓迎されると思います。
ただし、地方で弁護士が「40〜100人程」いる事務所に就職するというのは難しいと思います。
というのも、地方には弁護士が40〜100人もいる法律事務所というもの自体が少ないからです。
以下のジュリナビのデータを見ていただければ分かると思いますが、弁護士の数が40人以上の事務所をピックアップしていくと、大阪府4事務所、愛知県1事務所で、その他の40人以上の事務所はすべて東京にあります。
したがって、東京都以外で弁護士の数が40人以上の事務所に就職しようとした場合、選択肢は5つ程度の事務所しかない訳です。
この5つの法律事務所に就職できなければ、地方で弁護士が「40〜100人程」いる事務所に就職する、ということはできないことになります。
なので、地方で働くことを希望する場合には、より小規模の法律事務所等も視野に入れる必要があると思われます。
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ちなみに職歴は5年ほどある30代半ばの男性です