仕事を辞めて弁護士に転職しました

公務員として数年間働いていましたが、思い切って公務員を辞めて司法試験を受験し、現在は弁護士として働いています。 自分が受験生の時は情報が少なく相談できる人もいなかったため、色々と悩むことも多かったです。 公務員のこと、司法試験のことなどについて、受験生の方に参考になるかも知れないことを書いていけたらと思っています。 質問がある方はコメント欄に記載してもらえれば可能な範囲で回答したいと思います。回答まで時間がかかることが多々ありますがご容赦ください。

司法試験・予備試験

司法試験受験における定義や規範の覚え方について


質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います

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はじめまして、いつもブログを参考に勉強しています。
質問なのですが、
定義や用語についてはどう覚えていったらよいのでしょうか?論文を書くにあたって、定義は必須だと感じました。問題集や過去問で出てきた定義をその都度、必要な程度に暗記すればよいのでしょうか?
それとも、何か定義集のようなもので学習すればよいのでしょうか?
初歩的な質問で申し訳ないのですが、お答えいただければ幸いです。
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◆「定義」や「規範」の覚え方について


質問者の方が述べているとおり司法試験の対策として「定義」の暗記は大事なことです。

また有名な判例が示している「規範」や、多くの基本書に載っているような「規範」の暗記も大事です。


私も司法試験の勉強を始めた頃は予備校本の巻末に載っている「定義集」などをトイレの壁に貼ったりして暗記しようと努力したのですが、暗記が苦手であったためなかなか覚えられませんでした。

そのため、論文式の問題集にあるAランクの答案例や、司法試験の過去問集(ぶんせき本など)の優秀答案の論証をパソコンでワードに打ち込んでいき、学校の試験・答練・模擬試験の直前に読み込んで暗記するようにし、司法試験本番の直前期にも同じ方法で暗記しました。

「定義」や「規範」は単体で覚えるよりも「使い方」とセットで覚えたほうが効率は良いと思います。

というのも「定義」や「規範」は「使い方」も合わせて覚えておかないと試験本番で活用することはできないですし、「使い方」をイメージできない状況で暗記しようとすると苦痛な単純作業になりやすいからです。

また暗記できる量にも限度があるので、論文式試験で必要とされる可能性の高いものから暗記をしていったほうが消化不良に陥るリスクは低くなります。

そのため論文式の問題集の答案例や論証の流れの中で「定義」「規範」を暗記していったほうが個人的には効率が良いと思います。

英単語も単体で覚えていくよりも文章の中で覚えたり実際に書いたり話したりしたほうが記憶に残りやすいと思います。

司法試験受験の「定義」や「規範」も英単語と同じように、単体で覚えるよりも論文式の問題集の答案例の流れとセットで覚えたり、実際の論文式試験の問題を解きながら覚えていったほうが記憶に定着しやすいと思います。

ただ、一部の受験生の中には定義集、基本書、予備校本、択一六法など黙々と読み込んで大量の知識を暗記できるような超人的な精神力と暗記力を持っている人もいるので、そういった人であれば本を読みながら暗記をするという方法でも良いと思います。

基本書、予備校本を読む時には、趣旨、定義・規範、理由付け、結論など、要素毎にマーカーで色分けをしておくのもお勧めです。

例えば、私は黙々と基本書を読むのが苦手なので↓のように色分けをしていました。

・条文や制度の趣旨 ⇒ 黄色

・定義・規範 ⇒ 緑

・積極方向の理由付け ⇒ 水色

・積極方向の結論 ⇒ 青

・消極方向の理由付け ⇒ オレンジ

・消極方向の結論 ⇒ 赤


基本書や予備校本の文章をこのように色分けしておくと、例えば答練や本試験の直前に「定義と規範をチェックしておこう」という場合には、緑色の部分を中心に読み込んでいけば効率的に復習ができます。

またパソコンで自分用の論証集や定義集を作っている場合には

・絶対に暗記をしておきたい定義や規範には「★」のマークを付けておく

・なかなか暗記できない定義や規範には「●」のマークを付けておく

などというようにしておくと、答練や本試験の直前のワードの検索機能を使って「★」や「●」のある箇所を検索して効率的に復習ができるようになります。
(マークは自分が見やすいものであれば何でも良いと思います。)




◆趣旨規範ハンドブックなどの予備校本を活用する方法

論文式試験用の問題集は全ての論点を網羅しているとは限らず、また最新の裁判例や過去問に出てきた論点が載っていないこともあります。

そのため論文式の問題集の穴を塞ぐ目的で、定義や規範が網羅的に整理された予備校本を活用する受験生も多いです。

受験生が良く使っているのは辰已法律研究所の「趣旨・規範ハンドブック」だと思いますが、自分の使いやすい本を選べば良いと思います。

●趣旨・規範ハンドブック

注意点としては、最初から「趣旨・規範ハンドブック」を使って暗記しようとすると挫折する可能性が高いという点です。

「趣旨・規範ハンドブック」は司法試験の勉強がある程度進んできた受験生が知識の穴を確認したり、自分の頭の中に散らばっている知識を整理するのに有効な本です。

そのため司法試験受験に必要な知識だけが網羅的にコンパクトにまとめられているものの、解説などはほとんどないので、初学者がこの本を読みながら勉強・暗記しようとしても理解できずに挫折をしてしまう可能性が高いです。

そのため最初は入門書、論文式試験や短答式の問題集、基本書や解説が多めの予備校本などを活用して勉強をして、ある程度コアとなる部分の知識や理解が深まってきた後に使ったほうが効率が良いです。



◆法律用語集を活用する

定義の覚え方という質問の趣旨とは逸れてしまいますが、司法試験の勉強をする時には手元に六法とは別に「法律用語辞典」などがあると便利です。

勉強をしていて分からない用語が出てきた時には基本書や予備校本で調べるのがベターですが10冊以上ある基本書の中から用語が載っていそうな本を選んで・・・という作業をしていると面倒になってしまい結局調べずに分からないまま進めてしまうということもあると思います。

また最近はネットで定義や用語も調べることも出来ますが正確な情報にたどり着くのに時間がかかったり、スマホやパソコンを触ったついでにSNSを見て時間が過ぎてしまったり・・・ということもあると思います。

そういった時に全科目を網羅した用語集があると比較的簡単に定義や用語を調べることができるので、定義などの理解や暗記の作業が進みやすくなります。

●有斐閣法律用語辞典

●法律学小辞典

私が受験生の時にメインで使っていたのが有斐閣の「法律用語辞典」ですが、試験に合格した後は「法律学小辞典」を使っています。

本屋さんで実際に手に取ってみて自分の好みのものを選ぶと良いと思います。




◆定義や規範は試験本番までに覚えておけば良い


受験生が想像しているよりも司法試験で丸暗記が必要とされる量は実際にはそれほど多くはないと思います。

しかし、それでも定義や規範がなかなか覚えられなかったり、一度覚えたはずのものを次々と忘れたりして、勉強が嫌になってしまうこともあると思います。


私も受験生の時に暗記法の本を読んだり悩んだりしていたのですが、とある司法試験の講師(たぶん伊藤真先生)の本に

・定義や規範は試験本番までに覚えておけば良い

・試験本番までに覚えておくことを整理しておいて直前期に覚えるという方法でも良い

というようなことが書いてあったのが役に立ちました。

暗記は繰り返せば繰り返すほど定着しやすくなるため、学校の試験・答練・模擬試験の度に暗記をするという作業を繰り返しておくと、その後に忘れてしまっていたとしても本試験の直前期に暗記をするのが楽になります。

また何度も暗記をしようと努力をしているうちに、自分がなかなか覚えられない定義や、間違いやすい定義なども分かってきます。

暗記が苦手な人は、「覚えにくい定義」「間違えやすい定義」を自分の中で整理しておいて試験の直前期に一気に暗記するという方法を試してみても良いと思います。

司法試験の論文式試験の過去問が解けない場合の対策や考え方について


質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います

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4年前にこのブログに出会い、記事を参考にして勉強してきたものです。

このブログの勉強法を参考にして、ロースクール既習者入試、そして先月無事留年することなく卒業することができました。
ありがとうございます。

実は最近悩みがあってコメントさせていただいてます。
それは司法試験の問題が解けないということです。

特に伊藤塾の赤本に出てきていない分野や学説対立問題など、赤本上では取り扱いが薄い所になるとほとんど解けなくなります。

このような状況でも司法試験過去問に取り組むべきでしょうか。

それとも赤本に取り組む姿勢が間違っていたのでしょうか。
赤本には答案例を暗記しながら、基本書でわからない点等を確認したりしていました。
基本書での確認も甘かったのかもしれません。

百選はあまり使っていません。読んでもあまりわからないので、ほとんど読んでいません。

ロースクールの講義は難しかったので、講義は聞かずほとんど赤本の答案例を暗記する時間に費やしてました。

司法試験を解いたあとの事の復習でも悩んでいます。
問題を起案したり、答案構成をしたあとにはぶんせき本でC答案くらいの答案を読んでいます。
ただ、読んでいても書ける気がしません。
赤本に取り組んでいたときと同様に写経等暗記すべきか迷っています。

3ヶ月後に司法試験を控えていますが、最近では諦めて就活に切り替えたほうがいいのか悩んでいます。

ただ弁護士は子供の頃からの夢なので、まだ諦められないという状況です。

お忙しい状況かとは思いますが、是非コメントをお願いします。
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ロースクール卒業おめでとうございます。

質問者さんのお話を要約をすると

論文式問題集を回してきたものの、司法試験の論文式試験の過去問を解いてみても解けない問題があって悩んでいる

というご相談だと思います。



◆最初のうちは過去問に歯が立たないのは当然であるということ


司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)」などでも書いていますが、最初のうちは「論文式試験の過去問を実際に解いてみても、全く歯が立たなくてショックを受ける」というのはほとんどの受験生が経験することです。

私も過去問を始めて回しはじめた頃は「こんなに難しい問題を解けるようになる訳がない・・・」と愕然とした記憶があります。

しかし、同級生とゼミを組んで皆で過去問を解いてお互いの答案を見せ合ってみたところ、(司法試験に最終的に100位以内で合格した人や、ロースクールで成績優秀者として表彰された人もいましたが)、ほとんどの同級生は過去問に取り組みはじめた最初の時期は、まともな答案は書けていませんでした。

そして何度も何度も過去問や答練にチャレンジしていくうちに、次第に本試験の傾向、取り組み方、考え方が分かってきて「落ちにくい答案」を書けるようになっていった人が合格する、というイメージです。

なので最初のうちは過去問が解けなくてもめげずに何度も繰り返し取り組んでいき、解けない原因を分析した上で、何をすれば本番までに本試験の問題が解けるようになるのか対策を立てていくということが大事です。

1人で過去問を解くのが辛いという場合には仲間を集めて皆で時間を計って過去問を解いてお互いの答案を見せ合うようにすると、自分以外の受験生が何を解けて、何が解けないのかということも分かってくるのでおすすめです。



◆司法試験の論文式試験の設問を難易度に分けて考える

質問者さんの質問の中に「伊藤塾の赤本に出てきていない分野や学説対立問題など、赤本上では取り扱いが薄い所になるとほとんど解けなくなります」というコメントがありますが、そもそも司法試験の論文式試験では、例年のように受験生の多くにとって「知らない問題」や「解いたことがない問題」が出ます。

受験生の中には「知らない問題」や「解いたことがない問題」に出会った時に「自分が知識不足だったから解けなかったんだ」と考えて、挫折してしまったり、問題集を何冊も買ってきたりして消化不良になってしまう人もいます。

しかし、過去問や答練で解けない問題に出会った時には、まずは冷静に最初にその問題が以下の分類のどれに当てはまるかを考えた上で対策を考える必要があると思います。


① 基本的な問題
⇒論文問題集のAランク、自分の勉強不足で解けなかった問題

② 細かい知識を問う問題
⇒論文問題集のB・Cランクの問題や、短答式試験で問われるレベルの知識を使って解く問題

③ 現場で考えて解くことを要求されている問題
⇒論文問題集にはあまり載っていない問題、基本書等にもあまり書いれていない論点に関する問題



① 基本的な問題

「① 基本的な問題」(問題集のAランク)は合格者のほとんどが解ける問題で配点も大きくなる傾向があるため、この問題が解けないとそれだけで不合格の可能性が高くなりますし、数年おきに似たような論点が繰り返し出題されることもあります。

そのため過去問や答練などで「① 基本的な問題」が上手く書けなかったという場合には、基本書などに立ち返って徹底的に復習をして、似たような問題が出題された時に確実に解けるようにしてくおく必要があります。



② 細かい知識を問う問題

「② 細かい知識を問う問題」(論文問題集のB・Cランクの問題や、短答式試験で問われるレベルの知識を使って解く問題)は、他の受験生もきちんとした答案が書けていないことも多いため、「理由付けをした上で、規範をきちんと立てて、あてはめをする」という三段論法を守った形の答案が書けていれば合格ラインの到達できる場合が多いです。

そのため「② 細かい知識を問う問題」に出会った時には「他の受験生もちゃんと書けない人も多いだろうから、自分は落ち着いて答案を書こう」と気持ちを切り替えることが大事です。

私が本試験を受けた時も「② 細かい知識を問う問題」がいくつか出題され、私自身は規範もきちんと暗記していないという状況でした。

しかし「論文問題集のBランクかCランクに区分されていた論点だったな」ということが分かったので「他の受験生もちゃんとした答案を書ける人は少ないだろう」と思い、落ち着いて六法で条文を引いて、条文の趣旨から自分なりの理由付けを考えて、規範も自分の頭で考えて立てて、あてはめをきちんとする、という方法で答案を作成して無事合格をしていますし、その科目の点数は合格者の平均は超えていました。

また論文式試験では(短答式試験と異なり)六法を見ることが許されていますので、自分の知らない問題が出たとしても「全く何も書けない」ということは(条文以外の知識が問われている問題でなければ)無いはずです。

なので「② 細かい知識を問う問題」に出会って、何を書いたら良いのか分からないという場合には「落ち着いて六法を開いて考える」ということを心がけることも大事です。




③ 現場で考えて解くことを要求されている問題

「③ 現場で考えて解くことを要求されている問題」(論文問題集にはあまり載っていない問題、基本書等にもあまり書いれていない論点に関する問題)は、「誘導」がある場合が多いです。

「誘導」がある場合には「誘導に素直に乗って求められる答案を書けるか」ということが大事で、誘導に上手く載ることが出来れば「全く知らない知識」に関する問題であっても解けるようになっていることが多いです。

逆に「誘導」がある問題で「誘導」を無視してしまうと即死クラスのダメージを負うリスクがあるので、過去問で「誘導」のある問題が出てきて誘導に上手く乗れなかった場合には、何度も復習をする必要があります。



「③ 現場で考えて解くことを要求されている問題」は、とにかく「慣れること」が大事で、過去問を回すことでしか身につきにくい技術でもあります。


なお「③ 現場で考えて解くことを要求されている問題」なのに「誘導」がないというケースもあります。

このような問題は他の受験生も対応に苦慮することも多く、あまり時間を掛けすぎずには短めに書いて、割り切って次の問題に進むということが大事です。

私も本試験でどうしても分からない小問があり、その問題は諦めて思いついたことを短めに書きましたが、結果的には出題趣旨と全く違う内容の答案を書いていました。

その小問はおそらく1点も取れていないと思いますが、それでも合格しています。

それでも論文式試験の点数は合格者の平均点を超えていたので、仮に他にも論点を落とした問題があったとしても合格していた可能性があります。

大事なのは「分からない問題」に出会った時に「分からない問題」に時間をかけすぎないようにして、一般的な合格者の多くが解けるような「基本的な問題」できちんと点数を取っておくということです。

「分からない問題」に時間をかけすぎて「解けるはずだった基本的な問題」が途中答案になってしまうと不合格の確立が一気に跳ね上がりますので、「他の受験生が解ける問題か」を見極められるようにすることが大事です。




◆司法試験の過去問が解けない理由を分析する

司法試験の過去問を解いてみて「書けない問題」があった場合には、その原因を分析することが大事です。


「① 基本的な問題」(論文問題集のAランク、自分の勉強不足で解けなかった問題)が解けない場合、その原因は

(ア)基本的な知識の理解不足、暗記不足

(イ)知識や理解は合ったが違う角度から聞かれたので分からなかった

(ウ)そもそも答案の書き方のフォーマットが定まっていない

等にあると思います。


「(ア)基本的な知識の理解不足、暗記不足」の場合には、基本書、予備校本、問題集等なども使って徹底的に復習するしかないです。

「(イ)知識や理解は合ったが違う角度から聞かれたので分からなかった」は演習の経験不足が原因であることが考えられますので、過去問や答練を繰り返し受けて慣れていくことが大事だと思います。

「(ウ)そもそも答案の書き方のフォーマットが定まっていない」場合には、出来るだけ早い時期に答案の書き方を自分の中で整理しておく必要があります。

特に憲法や行政法は、答案のフォーマットが頭の中に入っていないと答案が書けないパターンが多いので、問題集や予備校本などを使ってフォーマットを頭に叩き込み、過去問や答練を繰り返し解いてフォーマットを自分の中で使えるようにすることが大事になってきます。





② 細かい知識を問う問題(論文問題集のB・Cランクの問題や、短答式試験で問われる知識を使って解く問題)が解けないという場合の原因は

(ア)細かい知識が頭に入っていない

(イ)六法の使い方に慣れていない(そもそも六法を活用するという意識が薄い)

(ウ)細かい知識を問われた時に解けないものだと思って諦めてしまっている

等にあると思います。


「(ア)細かい知識が頭に入っていない」は最近のロースクール卒業生に多い問題だと思います。

というのも以前は司法試験においても、「憲法・民法・刑法」だけでなく「行政法・民事訴訟法・商法・刑事訴訟法」についても7科目の短答式試験が課されていました。

また現在も予備試験においては7科目の短答式試験が課されています。

そのため昔の司法試験受験生や現在の予備試験経験者は、論文式試験で細かい知識を問われる問題が出てきたとしても、短答式試験の勉強で得た断片的な薄い知識を絞り出して、論文式試験の答案を書くことが出来ていました。

しかし現在の司法試験では短答式試験は「憲法・民法・刑法」の3科目だけになったため、予備試験を経験していないロースクール卒業生の中には「行政法・民事訴訟法・商法・刑事訴訟法」の細かい知識があまり頭に入っていない、という傾向があると思います。

この「(ア)細かい知識が頭に入っていない」の対策としては

・薄めの基本書や択一六法を通読する

・答練を数多く受けて復習する

・予備試験や法学検定などの短答式の問題集を回す

・論文式試験のBランク・Cランクの答案例や「趣旨・規範ハンドブック」の規範の部分だけを暗記しておく


などが考えられます。

「薄めの基本書や択一六法を通読する」は、基本書等を読んで頭に入るタイプの人であれば良いと思いますが、本を読んでも上滑りする感じで頭に入ってこないという人にとっては相性が悪い方法です。
(私も受験生の時は基本書の通読はほとんどしていませんでしたが、短答式試験のない選択科目については電車に乗っている時間などを利用して薄めの入門書を一冊通読しました)




「答練を複数受けて復習する」は旧司法試験から存在した作戦です。

というのも旧司法試験も短答式試験は「憲法・民法・刑法」の3科目だけで、しかも短答式試験の数ヶ月後に論文式試験が行われるという受験日程であったため、受験生の多くは短答式試験までは「憲法・民法・刑法」を徹底的に勉強し、短答式試験が終わった後の僅か2ヶ月程度の間に下三法(商法・民事訴訟法・民事訴訟法)の論文式試験を慌てて勉強する、という傾向がありました。

そのため短答式試験がなく知識の少ない下三法(商法・民事訴訟法・民事訴訟法)については予備校の答練を受けて、ある意味「ヤマを張る」という形で受験していた人も多かったようです。


「予備試験や法学検定などの短答式の問題集を回す」は、予備試験受験生と同じような方法で「行政法・民事訴訟法・商法・刑事訴訟法」の細かい知識をインプットするという方法で、基本書等を読んでも知識が定着しないタイプの人のとっては向いていると思います。
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ただ短答式試験の問題集には論文式試験では問われる可能性の低い知識も多数あるので効率が良いとは言えず、質問者さんの場合には本試験まで3ヶ月しかないということですので時期的にはこの方法はおすすめ出来ないかと思います。


「論文式試験のBランク・Cランクの答案例や「趣旨・規範ハンドブック」の規範の部分だけを暗記しておく」は、今からでも十分に対応できる方法だと思います。



論文式試験の「細かい知識を問う問題」は他の受験生の出来が悪いと配点が低くなる傾向があり、理由付けを丁寧に書いたとしても思ったよりも点数が上がりにくい傾向があるため、とりあえず「規範」の部分だけ暗記しておき、理由付けについては条文の趣旨などから現場で考えて書く、という作戦であれば今からでも間に合う可能性はあると思います。





③ 現場で考えて解くことを要求されている問題(論文問題集にはあまり載っていない問題、基本書等にもあまり書いれていない論点に関する問題)が解けないという場合、その原因は

・「誘導」に乗れることに慣れていない

・そもそも問題が難し過ぎて合格者の多くも解けなかった問題である

が考えられます。


「誘導に乗れることに慣れていない」という場合には、過去問や答練をいくつも解いて、誘導に乗ることに慣れていくしかないです。

「知らない問題」が出ても、とにかく焦らずに「知らない問題」である「認識」することが大事です。

そして「誘導」を探し、誘導がある場合にはそれに丁寧に乗る、誘導がない場合にはあまり時間をかけずに短めの答案を書いて終わらせる、ということが当たり前にできるようになるまで、本試験形式の問題に慣れていくことが大事です。


「問題が難し過ぎて合格者の多くも解けなかった問題かどうか」については、「ぶんせき本」などで下位合格者の再現答案を見てみると、問題の難易度が分かると思います。

下位合格者がまともな答案を書けていなかったような問題については、自分が解けなかったとしてもあまり気にする必要はありません。
(似たような問題が出題される可能性があるので復習をしておく必要はあります。)

それよりも過去問をいくつも解いて「他の受験生が確実に解けるであろう基本的な問題」と「他の受験生もまともな答案は書けないであろう問題」を見極めることができるようにして、「他の受験生が確実に解けるであろう基本的な問題」は途中答案にならないようにきちんと書く、「他の受験生もまともな答案は書けないであろう問題」はあまり時間を掛けないようにする、という判断を本番までになるべく正確に出来るようにしておくことが大事だと思います。


◆まとめ

「司法試験の論文式試験の過去問が解けない場合の対策や考え方について」は以上のとおりです。

個人的には質問者さんの以下のコメントが少しひっかかっています。

「赤本に出てきていない分野や学説対立問題など、赤本上では取り扱いが薄い所になるとほとんど解けなくなります」

「・・・ぶんせき本でC答案くらいの答案を読んでいます。ただ、読んでいても書ける気がしません。」


前記のように論文式試験では六法を見ることが許されるため、知らない問題が出てきたとしても「全く何も書くことが無い」というケースは少ないはずですし、合格者の中には本番で「知らない問題が出たけど自分の頭で考えて書いて合格した」という人も多いです。

質問者さんはもしかしたら「司法試験の合格者の多くは論文式試験で出題された問題の知識を網羅的にきちんと暗記していた」と思い込んでいてらっしゃるかも知れません。

しかし、実際にはそうではなく「知らない問題」が出てきても「知らない問題」として六法、誘導、断片的な知識などの手がかりを元に何とか答案を作り上げて合格しているという人も多いです。

例えば(例えとして適切か分かりませんが)論文式試験の過去問を解き始めた最初の頃の時期は「自転車・自動車の乗り方は教わったけども、自転車・自動車の運転には慣れていない状態」や「英語は教室で習ったけれども英語でほとんど会話をしたことがない状態」に近いと思います。

自転車・自動車に始めて挑戦した頃は思うように運転できず、転んだり、教習所の道路から脱輪したりして「運転できるようになる日」をイメージしにくいこともあると思いますが、何度も繰り返し練習・訓練をすることで鼻歌を歌いながら自転車・自動車の運転ができるようになります。

英語も机の上で習っているだけでは会話ができるようにならないですが、英語を使って何度も会話しているうちに自然と言葉が口から出てくるようになったりします。

司法試験も最終的には実務家として適切な判断をして実務家にとって読みやすい文章を書くための訓練なので、何度も繰り返し挑戦しないと上手くなりません。

そして「見たことがない問題だから解けない」「解き方が分からないから解けない」というスタンスで過去問に取り組んでいると、なかなか成長しません。

「見たこともない問題でも」「解き方が分からなくても」いいので、とにかく六法を引いて、誘導を探して、断片的な知識、基本原則や条文の趣旨を活用して、自分の頭で考えて答案を作ってみる、ということが大事です。


最初のうちは酷い答案しか書けないと思いますが、何度も答案を書いて前記のような分析を繰り返して復習をしているうちに、少しずつ答案が書けるようになってくると思います。


なので過去問を解いてみて分からない問題があったからといって司法試験受験を諦めるというのは早計ではないかなと思います。

受験の直前の時期は不安になったり諦めの気持ちが出てくることもあると多いと思います。

それは他の受験生も同じですし、同級生や後輩の中には試験の直前に「もうダメだ」と泣いていたけれども、諦めずに受験して合格した人は何人もいます。

また実際に実務家になってみると基本書や判例集を見ても解決できない難しい問題に出会うこともありますが、それでも自分の頭で考えて事件を処理していかなければなりません。

「弁護士は子供の頃からの夢なので、まだ諦められない」ということですので、諦めずに是非とも頑張っていただきたいと思います。

司法試験用の論文問題集を回すペースなどについて

質問をいただきましたので、私見についてお答えしたいと思います。

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いつも大変参考になる記事を書いていただき、ありがとうございます。
これまで法律を学んできたことはありませんが、このブログの記事を参考に、法律の勉強を始めました。

さて、司法試験の全科目を1周するペースについて、私も、行政法まで辿り着くなに2年ほどかかってしまいました。自分でも、あまりにも遅いと思います。

具体的な勉強法としては、1つの科目を終えるのに、「伊藤塾試験対策問題集」の「A」ランクの問題について、何らか答案が書けるようになるということを目標として、問題集(BとCの問題を含め)を読んだり、音読したり、書き写したり、わからない箇所を基本書や予備校本で調べたり、関連する判例を読んだりしています。

しかし、問題集を何度読んでも、Aレベルの問題でさえ、簡単には答案を再現できる気がしません。1つの科目で、10回程度は同じ問題集を繰り返し読んでいると思います。その後、「A」ランクの問題について自分で答案を作成して、次の科目に移ります。結果として、1つの科目に3・4ヶ月程度かかってしまいます。

ここで、お伺いしたいのが、「1周する」の具体的な内容です。読んで理解できることを「1周する」というのか、問題演習(=答案を作成する)することを「1周する」なのかということです。

例えば、この記事で「数日から2週間程度で1科目を回せる」と書いていただいていますが、それは、答案作成するということでしょうか。

ただ読むのと答案作成では、負荷が相当異なります。また、最初は答案作成は難しいでしょうが、どこかの時点(過去問演習の前)では、答案を作成する必要が出てくると思います。どの時点で答案作成が必要でしょうか。

同じ勉強を長く続けていると、モチベーションの維持も難しくなるので、勉強法を改善したいと考えています。

大変お忙しいことと思いますが、教えていただけると助かります。
よろしくお願いいたします。
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問題集を回すペースは人それぞれだとは思いますが、一般的には周回するペースは短いほうが、記憶が頭に定着しやすいと思います。

問題集を周回するペースが長いと、2回目に回した時に1回目の時の記憶がほとんど飛んでしまっていて、記憶が定着しにくいと思います。

勉強を周回するペースの早さの重要さについては「超高速勉強法」という本などにも詳しく書かれていますし、その他の勉強法の本などにも書かれていると思いますので、興味があれば勉強法の本なども見てみると良いかも知れません。

★超高速勉強法 ISBN-10 ‏ : ‎ 4766783190

全科目を1周するのに2年もかけるのは、質問者の方がおっしゃっているとおり時間がかかりすぎかなと思います。

どうやったら時間を短縮できるか、私の考えについて書きたいと思います。



  • ◆「Aランク」の問題のみに絞り、「Bランク」と「Cランク」の問題は後回しにする

相談者さんはBランクとCランクの問題も読まれているとのことですが、「司法試験の勉強方法,おすすめの参考書や問題集(総論)」という記事でも書いたとおり、「伊藤塾試験対策問題集」を使う場合は、最初は「Aランク」の問題に絞ったほうが良いです。

司法試験の勉強を始めた時は、不安になって範囲を広げたくなる気持ちは分かるのですが、司法試験・予備試験の論文式試験で合否を分けるのは、「Aランク」レベルの問題であることが多いです。

合格者の中にも実は「Bランク」と「Cランク」レベルの問題にはあまり手が回らず十分に理解できていない、という人は少なくないです。

私の感覚的な話になりますが、以下のような感じです。

上位合格者 
→「Aランク」レベルだけでなく、「Bランク」「Cランク」も理解できている

上位以外の合格者
→「Aランク」レベルの理解はそこそこあるが、「Bランク」「Cランク」については穴がある

不合格者(又は、ギリギリで合格した人)
→「Aランク」レベルの理解も怪しい


そして、司法試験の論文式試験の配点は、「基本的」(Aランク)な部分に配点が多く割り振られ、「基本以外」(BCランク)の部分は配点が小さい、と言われています。

なぜなら、前記のように「合格者」と「不合格者」の違いは「基本的」(Aランク)な部分の理解の差にあることが多く、「基本以外」(BCランク)の部分では合否を決定することは難しいからです。

いまいちピンと来ないかも知れませんが、過去の合格者の優秀答案・上位以外の合格者の答案・不合格者の答案を見比べてみたり、他の人とゼミを組んで答案を採点し合っていると、少しずつそのことが分かってくると思います。

★ISBN-10 ‏ : ‎ 4864665044

なので、最初は「Aランク」の問題に絞るべきなのです。

私が「伊藤塾試験対策問題集」をおすすめしている理由の1つは、問題のランク(A・B・C)が付されていて、「Aランク」の問題は各科目30問程度なので、「Aランク」の問題に絞れば短い時間で回しやすい、という点にあります。

単純に「解答例を読む」又は「解答例を写経してみる」という作業であれば、仕事をしている人でも1日2問やれば2週間程度で1科目(30問÷2問=15日)を回せますし、1日の多くを勉強に費やせる人であれば数日で1周させることは可能です。

参考になるか分かりませんが、私が社会人の時は平日は論文式の問題を1日2問やることを目標にしていました。

実際には1つの問題に時間をかけすぎてしまい、1日に2問も出来ないこともあったり、スケジュールどおりに進まないことも多々あって、スケジュールの組み直しを余儀なくされる場面もあったのですが、可能な限り2週間から1ヶ月くらいで1科目を回せるように努力をしていました。

なお、範囲を「Aランク」に絞った場合、「BランクやCランクの論点が本試験で出たらどうするんだ?」と思うかも知れません。

科目や論点にもよりますが、「Aランク」の論点の勉強が進んでくると「Bランク」や「Cランク」の論点も理解しやすくなります。

そのため、勉強が進むにつれて試験直前期に「Bランク」や「Cランク」の論点を一気に詰め込む、という作業がしやすくなります。

また、論文式試験の過去問の演習を繰り返していると「少ない知識で最低限の答案を書く」という技術や感覚が身についてきます。

というのも、本試験では見たこともないような問題や考えたことがないような問題も出題されることもあり、過去問を解いていると、自分が持っている少ない知識で、何とか答案を完成させなければならない、という場面が出てくるからです。

そういった技術や感覚が身についてくると、「Bランク」や「Cランク」の論点が出てきても慌てることが少なくなってきます。

私が司法試験を受験した時も刑事訴訟法でBランクレベルのややマニアックな論点が出題されましたが、私はその論点の答案構成は覚えていませんでした。

しかし「この論点は比較的マニアックな論点だから、他の受験生もたいした答案は書けないだろう。だから、条文の趣旨を使って理由付して、自分なりに規範を立てて、丁寧にあてはめをして、最低限の答案を作れば、そこそこの点はもらえるだろう。」といった感じで落ち着いて対応することができましたし、結果として刑事系の点数は良かったです。

いずれ、最初のうちは「Bランク」や「Cランク」の論点は後回しにしたほうが効率は良いと思います。




  • ◆「1周する」とは「読む」という意味なのか「答案を作成する」という意味なのか

問題集の使い方は自分に合っていれば、「読む」という方法でも、「答案を作ってみる」という方法でも、どちらでも良いと思います。

ただし、当然ですが「答案を作ってみる」という方法は、「読む」という方法よりも時間がかかります。

私は司法試験の勉強を始めた最初の頃は仕事をしており、時間がなかったため、

論文式問題集は基本的に

・問題文を読む

・六法で条文を引いて自分の頭で少し考えてみる

・(ほとんどの場合、よく分からないので)解答例を読んで考えてみる

・答案の書き方を身につけるためにパソコンを使って解答例を写経する

という流れで問題集を使うことが多かったです。

問題集を何周か回した後に、短答式の勉強、過去問の演習などをやっていると、何度やっても自分の中ですっきりしない論点が浮き彫りになってくることが多いです。

その後に、じっくりと基本書や判例集などを読み込むという作業をすると、理解が深まるということが多かったです。


なので、問題集を回すのに時間がかかっているようであれば、

・とりあえず理解が出来なくてもあまり気にせずに何度も読んだり写経をしてみる

・何度も回してみて分からない部分に絞って、じっくりと腰を据えて基本書や判例集などを読んでみる

というほうが効率は良いと思います。

誤解を招く表現かも知れませんが、「論文式試験の問題集を使った勉強」は英語などの語学の勉強に近い部分があると思います。

最初のうちは意味不明な文章の羅列にしか見えない文章が、何度も繰り返し読んだり書いたりして覚える努力をしているうちに「自分の言葉」になってくる、というイメージです。

英語の勉強でも文法などをじっくり覚えるという勉強の他に、「シャドーイング」といって、英語の音声に自分の声を重ねるように発音して英語を覚える、という勉強がありますが、それに近い感じかも知れません。

問題集の問題や参考答案を何度も読んだり写経しているうちに、それが自分の言葉のようになって、少しずつ似たような文章が書けるようになっていく、というイメージです。

やり方は人それぞれだとは思いますが、じっくりやって上手くいかないタイプの人は、最初のうちはあまり深いことを考えずに、何度も読んだり書いたりということを高速で繰り返したほうが結果が出やすいかも知れません(私も最初はどちらかというと、そのタイプでした。)。




  • ◆逆算をしてスケジュールを組むこと

相談者の方は論文式問題集を1周するのに2年ほどかかったということですが、(もともと2年かけて1周するつもりだったのであれば別ですが)、試験日から逆算をしてスケジュールを組んでおいたほうが良いと思います。

実際にスケジュールを組んでみると、本試験までの間にできることは、驚くほど少ない、ということが分かると思います。

予備試験での司法試験でも論文式試験の勉強の他に、短答式の勉強もしなければなりませんし、過去問を解いたり、答練や模試を受験して復習する時間も確保する必要があることを考えると、論文式問題集の1問1問を丁寧に解いていく時間がある受験生のほうが少ないと思います。

「基本書や判例集を見てじっくり考える」という勉強は大切ですが、スケジュールを組んでみて、全ての問題について、その作業をすることが困難であるということが分かった場合には、さらに問題の中で優先順位を付けて、「この論点については掘り下げて勉強をする」「この論点については時間がないのでとりあえず答案の流れと規範を暗記して乗り切る」というような割り切りが必要になってくる場面もあると思います。

ご自身が1日あたり勉強に充てられる時間や、自分の性格(高速で何度も回したほうが頭に入ってくるのか、1問ずつじっくりとやらないと頭に入ってこないのか)等を総合的に考慮した上で、計画を立て、計画に従って勉強を進めていけば「予想外に時間がかかってしまった」という失敗をするリスクは減らせると思います。


私の経験からすると、

・初期の頃は、分からないことがあってもどんどん進めて何度も回す

・ある程度勉強が進んできたら、特定の論点についてじっくりと基本書なので調べる時間を作る

というように段階を踏んだほうが効率は良いと思います。

初学者の頃は基本書をじっくり読んでも理解できないことが多いので、問題集を何度も回してむしろ疑問点を増やしていき、ある程度勉強が進んだら基本書などを読んで疑問をじわじわと解決していく、というほうが頭に入りやすいと思います。




  • ◆答案の型を覚えること・完璧な答案を目指す必要はないこと

質問者の方は「1つの科目で、10回程度は同じ問題集を繰り返し読んでいる」のに、「Aレベルの問題でさえ、簡単には答案を再現できる気がしません」ということです。

普通であれば問題集を10回も読めば、ある程度の答案は書けるようになってくるはずだと思いまが、それにもかかわらず答案を書けないということであれば、いつくが原因が考えられます。


1つは、答案の型をあまり意識していない可能性です。

司法試験・予備試験の論文答案が書けるようにならない場合について」という記事も参照していただきたいのですが、答案がなかなか書けない人は、司法試験の論文式試験の答案の書き方の基本が理解出来ていない可能性があります。

「伊藤塾試験対策問題集」の「はしがき」の部分には,司法試験・予備試験の答案の書き方の基本が説明されています。

答案の書き方が分からなくなった時や答案が上手く書けない時に,この「伊藤塾試験対策問題集」の「はしがき」の部分を何度も読むと良いと思います。


基本的な論文答案の書き方は通常は以下のような流れになります(例外もあります)。

(1)問題文・事案から問題点を抽出する

(2)必要に応じて事案の問題点を指摘する

(3)必要に応じて論点の問題点を指摘する(多くの問題には論点の問題点があります)

(4)規範を立てるための論証をする。その場合,出来るだけ条文の趣旨,法原則,保護法益などを使って理由付けをする。また,例外を論じる際には必ず原則について触れてから例外を論じる。

(5)規範を立てる(規範は基本的に暗記しておく必要があります)

(6)あてはめ。問題文の,規範に関連する事実を拾い上げて,規範との関係でどのような意味があるのか述べる(評価をする)。

(7)結論を書く。必ず問題文に対応する形で。Ex:問題分が「AのBに対する請求が認められるか」という問であれば,「AのBに対する請求は認められる。」「AのBに対する請求は認められない。」という結論になる。


論文式試験では手元に六法があるため、六法で頑張って条文を探せば、少なくとも「何も書けない」ということはそれほどないと思います。

問題集を何回か回していれば、その問題が何条の問題なのか、ということくらいは分かってくると思います。

なので、まず問題文を読んだら手元の六法で問題となりそうな条文を引いてみてください。

そして、条文を読みながら「この問題では、何が問題だったのか」を思い出してみるのです。

そうすると、「条文のこの文言の解釈が問題だったな」とか、「この条文が類推適用できるかどうかが問題だったな」と、何かしら思い出せることがあると思います。

そうすれは、上記の「流れ」のうち(1)~(3)の問題点を指摘の部分については、少なくとも自分の言葉で、何が問題なっているかは、それなりに書けることが多いはずです。


問題点が分かったら、後は理由付けをした上で、規範を書きます。

理由付けは何も思い出せなかった場合には、(科目にもよりますが)問題提起で問題とした条文の「趣旨」を理由付けにするのが便利です。

「なぜこのような条文が存在するのか」ということを考えた上で、「民法○条の趣旨は~~~という点にある。」などと書けば、理由付けとして成立することが多いです。

その後に規範を書きますが、規範は基本的に暗記をしておく必要があります。

特に「Aランク」の問題の規範は、確実に暗記をしておくべきです。

どうしても規範が思い浮かばない場合には、自分の頭で規範を考えます。

論文問題集を何回か読んでいれば、規範が全く思い浮かばない、ということは少ないと思います。

最初のうちは「なんか、こんな感じの規範だったような気がするな・・・」という曖昧な記憶でも良いので、頑張って規範を書きましょう。

規範は試験当日までに覚えていれば良いので、演習の段階では正確に書けなくても特に問題はありません。

規範がどうしても覚えられないという人は、模試・定期試験・本試験の1ヶ月~数週間前から、規範を暗記するための期間を確保しておき、その時に一気に規範を暗記するという方法をとると良いと思います(私はこのタイプでした。)


規範を書いたら後は事実を規範に当てはめるだけです。

事実は問題文に書いてありますから、自分の立てた規範と問題文の事実がどう結びつくのかを自分の頭で考えて書けば良いのです。

このように見てみると答案を書く上で暗記が必要不可欠なのは「規範」だけであり、それ以外の部分は暗記をしていなくても「何とかなる」こともある、ということが分かると思います。

なので、問題集を何度か読んでいれば、少なくとも「それっぽい答案」は書けるようになるはずです。



次に、答案を書けない理由として考えられるのは「完璧な答案を書こう」としているのかも知れない、ということです。

論文式問題集、答練、過去問演習に取り組む際は、必ずしも「完璧」な答案を書けるようにする必要はありません。

参考答案と同じような答案を書けるようにするための「努力」をすることは必要ですが、参考答案と「似たような」、同じ流れ・趣旨の答案が書ければそれで十分ですし、ほとんどの受験生は論文問題集を何度回しても、問題集の参考答案レベルと全く同じレベルの答案を書けるようにはなりません。

むしろ、問題集の参考答案の劣化版のような答案しか書けない受験生がほとんどだと思います。

もし「伊藤塾試験対策問題集」と同じレベルの答案をスラスラと正確に書けるようになれば、司法試験・予備試験で1位を取れてもおかしくないですが、そのようなレベルに達するのはほとんどの人にとっては不可能です。

こういった感覚は、過去の本試験の再現答案を見ると分かると思いますので、早い段階で過去問の演習をしてみるのが良いと思います。

実際に本試験では十分に勉強をしたつもりでも、緊張で暗記したことが出てこない、ということもあったりします。

なので、合格者であっても、全てを暗記をして答案を書いている訳ではなく、その場で六法を引いてあれこれ悩んで考えながら答案を書くという場面も少なくありません。

このように、問題集の解答を作成する際には、問題集の答案を「そのまま再現」しようとするのではなく、問題集の答案と似たような流れ・趣旨の答案を書けるようになれば、それで十分です。

あとは、過去問演習をやりつつ合格者の答案を読んでいけば、問題集の参考答案のうち「この部分は正確に暗記するべき部分」「この部分は自分の言葉で書いても問題はない部分」というのが分かってくると思います。


以上のように、「答案の型を覚える」ということと、「完璧な答案など書けない」というふうに割り切れば、問題集を何度も読んでいるのに、全く答案が書けないということはないと思います。



  • ◆どの時点で答案作成が必要か

論文式問題集について、どの時点で答案作成に取り組むか、というのは先ほどの試験までのスケジュールによって異なってきます。

私は勉強に費やせる時間が少ないほうだったので、「伊藤塾試験対策問題集」については、基本的に読んだり、写経したり、答案の書き方の辞書として使うことが多く、「伊藤塾試験対策問題集」の問題について、じっくりと答案を書くということはほとんどありませんでした。

といよりも、試験までのスケジュールを逆算して立てると、論文式問題集について1つずつ丁寧に答案を書く、という作業ができる人は少ないかも知れません。

そのような場合には、答案作成の練習は予備校の答練、過去問の論文式の演習、同級生とのゼミなどで行い、「伊藤塾試験対策問題集」はあくまでも知識をインプットするためのツール(教科書や辞書と同じような扱い)として割り切って使う、という方法に切り替えたほうが良いかも知れません。


  • ◆さいごに

勉強をどの程度のペースで回すかというアドバイスは、相手方によって変わってくるので難しい部分でもあります。

ただ、今回の質問者の方は、慎重にゆっくり勉強するタイプの人であるように見受けられますので、理解できない部分があっても割り切って、スケジュールをきちんと設定した上で「もっと早いペースで回す」ということを意識したほうが、成績が早く伸びる可能性が高いように思います。

蛇足的な話も多かったと思いますが、また分からないことがありましたらコメント欄に記載をしてください。

司法試験・予備試験の選択科目の選び方・おすすめ・参考書等について


選択科目の選び方や基本書等についてコメントをいただきましたので、分かる範囲でお答えしたいと思います

令和3年度の時点で、司法試験の選択科目は8科目であり、受験者数の多い順に並べると以下のとおりになります。

労働法   1,113人(29.65%)
経済法   702人(18.70%)
知的財産法 527人(14.04%)
倒産法   483人(12.87%)
国際私法  392人(10.44%)
租税法   313人 (8.34%)
環境法   171人 (4.56%)
国際公法  53人 (1.41%)

令和4年度からは、予備試験の論文式試験でも選択科目が課される予定です。

予備試験の選択科目は、令和3年6月の時点ではまだ正式に公表はされておりませんが、おそらく司法試験と同様の8科目になると予想されています。


選択科目については、基本的に自由に選べば良いと思いますが、選択科目を選ぶ際の視点としては、以下のようなものがあります。

(ア)教材・情報の入手のしやすさ 

(イ)必要となる勉強量

(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)

(エ)その選択科目の受験生の合格率

(オ)実務で使う頻度

(カ)自分が興味を持てる分野か



独学で勉強をする予定の人は、特に教材・情報の入手のしやすさなどを考慮して選択科目を選んだほうが良いです。


以下、科目ごとの特徴とおすすめの度合いなどについて説明をしたいと思いますが、あくまで私の主観的な感想に基づくものですので、他の合格者などの意見も参考にして決めたほうが良いと思います。

「おすすめ度」は、「★」(1)から「★★★★★」(5)で記載しています。






労働法


おすすめ度
★★★★★(5段階中)

労働法は、最も選択する受験生が多く「無難」な科目です。

勉強すべき量がやや多いのが欠点ですが、勉強方法に迷った場合に情報を得られやすいので、どの選択科目にすべきか迷って決められないという場合には、労働法を選んでおくと後悔する可能性は低いと思います。


(ア)教材・情報の入手のしやすさ
★★★★★(入手しやすい)

労働法を選択する受験生の数は多く、その分、教材や情報も充実しています。

そのため、独学の受験生のも対応しやすい科目です。

また、ロースクール、学部、予備校などの通っている受験生にとっても、ゼミ仲間を見つけやすく、受験生仲間と一緒に勉強しやすいのもメリットです。


(イ)必要となる勉強量
★(多い)

労働法のデメリットは、必要となる勉強量、暗記すべき量が比較的多いということです。

前記のとおり教材や情報が多い分、効率良く勉強を進めやすいという面もありますが、選択科目を勉強する時間をできるだけ減らしたい人は、他の科目を検討しても良いかも知れません。


(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★★(それなりに関連性がある)

労働契約法の理解のためには民法の知識が必要になりますが、裏を返すと、労働法の勉強をすることで民法の(一部の)知識・理解の穴を埋めることができるため、一定程度の相乗効果が期待できます。

民法が得意な人にとっては、とっつきやすい科目だと思います。


(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★★(やや高い)

選択科目を決めるにあたり、その選択科目の受験生の合格率も考慮したいところです。

私が受験生だった頃から、倒産法を受験した受験生の合格率が高いですが、労働法を選択した受験生の最終合格率も悪くありません。

最近の選択科目ごとの合格率は、アガルートの以下のページで分かりやすく整理されています。




(オ)実務で使う頻度
★★★★★(多い、というかほぼ必須)

弁護士になって仕事をしていると、労働関係の相談は非常に多いです。

消費者系の弁護士は従業員側から相談を受けることが多いですし、企業側の弁護士は雇用主側からの相談を受けることが多いため、どの事務所に就職したとしても、労働法の知識は必要となることが多いです。

そのため労働法の勉強をしたことが無駄になることはありません。

ただし、労働法は実務で使うことが多い分、実務に入った後に勉強を始めても一定程度の知識は身につきますので、他に特に興味のある選択科目がある場合にまで、敢えて労働法を選択する必要はないと思います。


(カ)労働法の基本書・演習書

労働法の基本書は、個人的には水町先生の労働法が分かりやすくて、おすすめです。

●労働法 第8版 水町勇一郎 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641243360
学部時代に水町先生の労働法の授業を受けたことがあるのですが、暗記よりも理解を重視した授業で、過去に受けた法律の授業の中で一番分かりやすく楽しかったです。

水町先生の基本書も知識の押しつけではなく理解しやすいよう丁寧に説明がなされており、初学者でも分かりやすいと思います。


水町先生以外の基本書としては、「プレップ労働法」も分かりやすくて面白いのでおすすめです。

●プレップ労働法 第6版 ISBN-10 ‏ : ‎ 4335313292


その他、菅野(すげの)和夫先生の労働法は実務書として定評があり、受験生にとっても、分からないことがあった時に調べる「辞書」として使い勝手が良いです。

江頭先生の会社法の基本書のように重厚感のある本ですので、威厳に溢れるタイプの基本書が好きな人には、菅野先生の基本書が合うと思います。

私は実務に入ってからは基本的に菅野先生の基本書を使っていますし、法律事務所に就職すると菅野先生の本が置いてある可能性が高いと思います。

●労働法 (法律学講座双書)  菅野和夫 ISBN-10 ‏ : ‎ 4335315473



労働法の基本書は選択肢が多いので、本屋さんや図書館で目をとおしてみて、自分に合ったものを選ぶと良いと思います。


その他、労働法については予備校本もあります。

予備校本が好きな人は予備校本を使っても良いと思いますが、個人的には前記の水町先生の基本書や、プレップ労働法も十分に分かりやすいので、実際に購入する前に自分の目で見比べてみるのが良いと思います。

●労働法 第4版 (伊藤真試験対策講座 14)





労働法は、演習書も沢山あります。

私がもし今の受験生であれば「事例演習労働法」か「労働法演習ノート」を使うと思います。


●事例演習労働法 第3版補訂版

●労働法演習ノート ISBN-10 ‏ : ‎ 4335355149



その他、労働法を選択する場合は、判例百選は買っておいたほうが良いです。

通読する必要はないと思いますが、問題演習や答練で判例が出てきた時に辞書的に使うと理解が進みます。

●労働判例百選 第9版 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115311



経済法


おすすめ度
★★★(5段階中)

経済法は最近になって選択する受験生が増えてきた科目です。

受験生が多い選択科目の中では、必要とされる勉強量が比較的少ないのが特徴です。


(ア)教材・情報の入手のしやすさ
★★★(あまり多くはない)

前記のとおり経済法を選択する受験生の数は増えてきていますが、労働法に比べると教材の数は限られています。

ただし、独学であっても、現在出版されている教材で勉強を進めることができる科目であるため、教材の選択肢が少なくても構わない、という人であればそれほど特に問題はないと思います。



(イ)必要となる勉強量
★★★★(少ない)

経済法は、刑事刑科目に似ており、事案を要件に当てはめていくという作業が重要な科目です。

そのため、事実認定(当てはめ)の作業が得意な人であれば、勉強量は比較的少なくて済みます。

経済法の選択者が増えている理由の1つは、インプットにかける時間が少なくて済むという点にあると思います。

他方で、問題演習が重要になるため、事実認定的な作業が苦手な人や、問題演習があまり好きでない人は、避けたほうが良い科目です。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★(関連性は少なめ)

経済法では主に独占禁止法という法律の勉強をしますが、独占禁止法の条文は特有の考え方に基づいたものが多く、他の科目との関連性はそれほど大きくはありません。

そのため、経済法の勉強をすることで他の必須科目の理解が深まる、という場面は少ないと思います。

ただし、経済法の問題演習をすることで身につけた事実認定能力、当てはめの技術は、刑事系科目や公法系科目で活かすことができるため、選択科目の勉強の中で事実認定能力を高めたいという受験生のとっては、選択するメリットがあると思います。


(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★★(普通)

経済法を選択した受験生の最終合格率は平均程度です。



(オ)実務で使う頻度
★★(少なめ)

顧問に大企業を抱える大手の法律事務所や、企業内弁護士であれば、経済法(独占禁止法)の検討が必要になる場面は一定程度あると思います。

他方、一般消費者や中小企業を顧客としたいわゆる「街弁」にとっては、経済法を活用する場面は少ないと思います。

私もいわゆる「街弁」ですが、独禁法が関係する相談を受けたことは数回しかありません。



(カ)経済法の基本書・演習書

私が今から司法試験受験生・予備試験受験生として経済法の勉強をするとすれば、薄めの「ベーシック経済法」などをメインで使い、辞書的に金井貴嗣先生・川濵昇先生, 泉水文雄先生の「独占禁止法」と使うと思います。

●ベーシック経済法 -- 独占禁止法入門 第5版 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641221413

●独占禁止法 <第6版>ISBN-10 ‏ : ‎ 4335357516


白石忠志先生の「独禁法講義」を使っている受験生も多いと思いますが、通説・判例に対する批判的な記述も多いので、使いづらいと感じる人もいると思います。

●独禁法講義 第9版  ISBN-10 ‏ : ‎ 4641243328


演習書としては最近では「論点解析 経済法」を使っている受験生が多いのではないかと思いますが、「ケーススタディ経済法」なども人気があるようです。

ただ、これらの本を独学で使うのは難易度が高いため、ゼミを組んで答案を持ち寄るとか、予備校の答練を利用する等の工夫が必要だと思います。

●論点解析 経済法〔第2版〕 ISBN-10 ‏ : ‎ 4785724595

●ケーススタディ経済法 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641144761


私は法科大学院で経済法の授業は受けたものの、試験は受けていないので、実際に本屋さんで手にとって自分に合いそうか確かめてみたり、他の合格者の意見も聞いた上で決めたほうが良いと思います。


経済法を選択する場合は判例・審決百選は辞書的に使うために手元に置いておいたほうが良いでしょう。

●経済法判例・審決百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115346







知的財産法



おすすめ度
★★(5段階中)

知的財産法(知財)は新司法試験の制度が開始した当初から選択する受験生が一定程度いる科目ですが、知的財産法を選択する受験生は「知財が好き!」「将来は知財に関わる実務家になりたい!」「音楽業界や芸能界と関わるような華やかな仕事がしたい!」「理系出身!」という意識の高い受験生が選択することが多く、受験生のレベルはやや高めという印象を受けます。

他方で、特許や著作権に興味がある人にとっては、事案をイメージしやすいため、苦痛無く勉強を進めやすい科目でもあります。

知的財産法を選ぶ場合には、「著作権や特許などに知的好奇心・興味を持てるか」「将来、知的財産法を使って活躍する自分の姿を想像してワクワクできるか」といった点が大事なポイントになってくると思います。



(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★★★(それなりに多い)

他のマイナー科目に比べると知的財産法に関する教材は充実しているほうです。

受験生も多いため、情報不足で困るということも無いと思います。




(イ)必要となる勉強量
★★★(普通)

知的財産法を受験した同級生からは勉強量が多くて困ったという話は聞いたことはありませんので、勉強量が特別多いということはないと思います。

しかし(無難だという消極的な理由で選ばれがちな労働法などと異なり)敢えて知的財産法を選択する受験生は意識が高い人が多いです。

私の同級生の中でも知的財産法を選択した人は、成績上位の人(司法試験で100番以内)や、もともと弁理士事務所で働いていた人、学部で知的財産法のゼミに入っていた人などが多かったです。

そのため、受験生のレベルはそれなりに高いと思われますので、中途半端な覚悟で知的財産法を選択すると、痛い目を見る可能性はあるかも知れません。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★(やや関連性がある)

知的財産法の勉強の中では、不法行為の問題や、差止請求の問題が出てくるため、民法とやや関連性があります。

ただ、関連性があるといっても、民法の知識のうち、不法行為などの一部の知識しか使わないため、知的財産法の勉強をすることで他の科目の成績がアップする、というケースは少ないと思います。



(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★(普通~やや低め)

知的財産法を選択した受験生の最終合格率は、普通~やや低めです。



(オ)実務で使う頻度
★★★(事務所による)

企業法務をメインで扱う法律事務所や、企業内弁護士にとっては、知的財産法に関わる場面は多いと思います。

また、街弁であっても、中小企業の経営者や個人事業主から、商標権などに関する相談を受けることは、それなりにあると思います。

もっとも、知的財産法に関わる士業として弁理士という専門職があることや、知財高裁が置かれている場所が限られている地域が限られていることもあり、知的財産法を専門で扱っている法律事務所と、そうでない法律事務所とでは、知的財産法に関する業務の量・レベルは全く異なります。

将来的に知的財産法を専門とした法律事務所で勤務したい場合や、音楽業界・IT業界などを専門とした弁護士になりたい場合には知的財産法の理解は必須だと思いますが、そうでない場合には司法修習に入った後に勉強を始めても遅くはないと思います。

私は法科大学院の時に知的財産法の授業をとらなかったため、司法試験に合格した後に、知的財産法の勉強をしました。



(カ)知的財産法の基本書・演習書

知的財産法では、主に特許法と著作権法を勉強することになるのですが、一般的に特許法と著作権法の基本書は分かれていることが多いため、基本書が2冊必要になることになってしまいます。

しかし、選択科目の勉強にあまり時間をかけたくない司法試験受験生・予備試験受験生としては「選択科目のために2冊も本を読んでられないよ」という人が多いと思います。

私は司法試験に合格した後に特許法と著作権法の勉強をしようと何冊か目をとおしましたが、厚い本だと消化不良になりがちです。

そのため、私が仮に今から受験生として知的財産法の勉強をするのであれば、「LEGAL QUEST」など、知財分野をコンパクトにまとめた基本書をメインで使い、辞書的として使うために厚めの本を別に用意しておくと思います。

●知的財産法 (LEGAL QUEST)  ISBN-10 ‏ : ‎ 4641179360



演習書はいくつか選択肢がありますが、私が受験生であれば消化不良にならない問題数の「知的財産法演習ノート」などを選ぶと思います。

●知的財産法演習ノート: 知的財産法を楽しむ23問 ISBN-10 ‏ : ‎ 4335356943



知的財産法を選択する場合には、特許法と著作権法の百選が必要です。

他の選択科目と異なり、判例集が2冊必要になるのは少しデメリットですね。

●特許判例百選 第5版 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115443

●著作権判例百選 第6版 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115427



倒産法



おすすめ度
★★★★(5段階中)

倒産法は以前から選択する受験生がそれなりおり、労働法に次いで無難な科目だと思います。

勉強量はそれなりに必要ですが、民事系科目の知識や条文を駆使することで安定した点を取りやすいため、きちんと勉強すれば本試験で「大怪我」をする可能性の低い科目です。

確実に予備試験・司法試験に合格したいという人にとっては、労働法と同様におすすめの科目です。

私が司法試験受験生の時に悩み抜いて選んだのがこの「倒産法」ですが、後述のとおり人を選ぶ科目でもあり、合わない人もいると思いますので、「おすすめ度」は「★★★★」(4)としておきます。




(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★★★★★(多い)

労働法と同様に教材は充実しています。

民事訴訟法の学者の先生が倒産法の学者を兼ねていることも多いため、分からないことがあった時に参考にできる資料や、相談にのってくれる先生も多いです。

受験生も多いため、情報不足で困るということも無いと思います。



(イ)必要となる勉強量
★★(普通~人によってはやや多くなる)

倒産法は、民法・民事訴訟法の特別法的な立ち位置にあります。

そのため、倒産法の勉強では、民法・民事訴訟法の知識を応用することで理解できることが多いです。

また、要件や細かい手続も条文に書いてあることが多いため、条文操作に慣れておけば、試験本番で対応できる場面も多いです。

そのため、民事系をきちんと勉強している人であれば、勉強量は比較的少なくて済むと思います。

裏を返すと、民法・民事訴訟法が苦手な人にとっては、勉強量が多く必要になる科目でもあります。


なお、倒産法では、主に「破産法」と「民事再生法」という法律を勉強しますが、「破産法」と「民事再生法」は似たような条文・制度が多いです。

そのため、「破産法」が理解できると、「民事再生法」の(感覚的にですが7割程度)はカバーすることができ、そういった点でも勉強がしやすい面があります。

ただし、これも裏を返すと「破産法」と「民事再生法」という「似ているけど、違うところもある法律」を一緒に勉強することになるため、両者の違いを整理しながら勉強をしないと混乱することになります。

さらに「倒産法」の中には「民法」の制度の一部(詐害行為取消権など)と「似ているけど、違う制度」がいくつかあり、これも違いを整理しながら勉強をしないと混乱の元になります。

そのため、人によっては倒産法の勉強を苦痛に感じる人もいると思います。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★★★★(関連性は大きい)

前記のとおり、民法・民事訴訟法の特別法的な立ち位置にあります。

そのため、倒産法の勉強をする中で、必然的に民法の対抗要件(民法177条)や抵当権に関する主要論点などを必然的に復習することになります。

そのため、倒産法の勉強をすると、民法などのいくつかの論点の知識・理解をアップさせることができます。

他方、民事系が苦手な人が倒産法を選択すると、民法の一部を勉強し直す場面が出てくるため、苦痛に感じることもあると思います。

民事系が苦手な人は「選択科目を通じて苦手な民事系を克服しよう」と思えるのであれば倒産法を選択するのが良いと思いますが、「苦手なことは避けたい」という人は選択しないほうが良いかも知れません。



(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★★★★(高い)

私が受験生の時から、倒産法を選択した受験生の最終合格率は高いです。

その理由は良く分からないのですが、いくつかの理由が考えられます。

(ア)司法試験の最終合格を左右することが多い民事系が得意な受験生が選択することが多い

(イ)倒産法を勉強する中で民法などの知識・理解が深まり民事系の点数が上がった

(ウ)上位のロースクールの出身者が倒産法を選択する人が多い


(イ)の理由によれば、倒産法を選択することにはメリットがあることになります。

他方、(ウ)の理由によると、倒産法を選択することは、レベルの高い受験生の中に飛び込むことを意味するため、倒産法を選択するかは慎重に考えたほうが良いということになると思います。

個人的には、(イ)の「民法などの知識・理解を深める」というメリットのほうが大きいと思っています。



(オ)実務で使う頻度
★★★★(やや多め)

街弁の場合、破産・民事再生等に関わることが多いです。

私自信も毎年数十件単位で破産事件をやっていますし、破産事件を多くこなしていると、裁判所から「破産管財人」に選任されることも増えていきます。

「破産管財人」は、裁判所から選任される形で、破産者(個人・法人)の財産を調査・換価(お金に換えること)したり、換価したお金を債権者に配当したりします。

「破産管財人って地味」と思われるかも知れませんが、大きい破産事件の破産管財人になると1件あたりの報酬が数百万円~一千万円以上になることもあります。

大手の法律事務所でも、倒産・企業再生を専門にした部署を置いているところが多いと思います。


ただ、企業内弁護士になる場合には、倒産法の知識を使う場面はそれほど多くないと思います。

破産の場面では時間がない中で判断しなければならないことも多く、知らないまま実務に出ると事故が起きやすいので、司法試験・予備試験で倒産法を選択しなかった人が、破産を扱う法律事務所に入る場合には、司法修習中に入門書を読んでおくことをおすすめします。

後記の山本和彦先生の「倒産処理法入門」は読みやすく薄めなので、気合いを入れれば1日~2日で読み切れます。


(カ)倒産法の基本書・演習書

私は受験生時代に倒産法の基本書・参考書をいくつも買いましたが、振り返って考えてみると

(1)山本和彦先生の「倒産処理法入門」をざっと読む

(2)「倒産法演習ノート」など定評のある演習書を回す

(3)演習書を回していて分からないところを伊藤眞先生の「破産法・民事再生法」などの厚めの基本書や、判例百選などで調べる

(4)過去問や答練をこなす

という勉強法が効率が良いと思います。


●倒産処理法入門(第5版)

●倒産法演習ノート―倒産法を楽しむ22問 ISBN-10 ‏ : ‎ 4335356684

●破産法・民事再生法 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641137447

●倒産判例百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115524


山本和彦先生の「倒産処理法入門」は、細かい論点に関する記載はありませんが、条文の趣旨などが丁寧に書かれており、条文操作が重要な倒産法を理解する上では、かなり便利な入門書だと思います。

伊藤眞先生の「破産法・民事再生法」は実務でも使える重厚な本ですが、かなり詳しいので辞書的な使い方をするのに便利です。


倒産法の演習書はいくつかありますが、「倒産法演習ノート」は内容がそれなりに充実していて、消化不良になりにくい問題数なので、おすすめです。

「倒産法演習ノート」だけでは不安な人は、辰巳法律研究所の「えんしゅう本」を回しても良いと思いますが、ここまで手が回るほど時間に余裕がある受験生はあまり多くないと思います。

●司法試験論文 選択科目えんしゅう本〈2〉倒産法 ISBN-10 ‏ : ‎ 486466076X


倒産法は判例集も複数ありますが、個人的には判例百選が手元にあれば十分だと思います。




国際私法



おすすめ度
★★★(5段階中)

国際私法は、私が受験生の時は、「覚える量が少ない科目」「楽な科目」と言われていました。

ただ最近の合格者の話を聞くと国際私法も問題が少しずつ難しくなってきており、昔ほど楽な科目ではなくなってきているように思われます。

国際私法は「短期間で完成できる科目」という噂が広がり過ぎた結果、予備試験経由のレベルの高い受験生が集まってきてしまい、難易度があがってきているのではないかと思われます。

国際私法は主に、国際的な問題についての「管轄」や「どの国の法律を使うのか」ということを勉強する科目ですが、選択科目以外の7法とは基本的な考え方が違うので、人によって「合う」「合わない」の要素が大きい科目だと思います。

国際私法の考え方が合う人にとっては楽しく勉強できると思いますが、合わない人にとっては苦痛だと思います。

あくまでも個人的な意見ですが、民事訴訟法が好きな人には合いやすいと思いますが、民事訴訟法の勉強をしていると眠くなるような人は合わないかも知れません。


私は学部時代(かなり昔)に国際私法の授業をとったのですが、最後まで「よく分からん」「しっくりこない」という感覚が抜けませんでした。

そうは言っても、将来、渉外事務所で働きたい人にとっては国際私法の知識は必要ですし、民法等ともある程度の関連性があります。

自分が希望するキャリアを見据えた上で、将来渉外法務に携わりたい場合には選択肢に入れて良い科目だと思います。



(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★★(やや少ない)

国際私法は司法試験ではマイナー科目ですが、基本書の種類は比較的多いと思います。

他方、演習書の数は、労働法などのメジャー科目に比べると限られています。

「基本書を読めば頭に入る」というタイプの人は勉強しやすいと思いますが、「問題演習をしながら慣れていく」というタイプの人にとっては勉強しづらい科目だと思います。



(イ)必要となる勉強量
★★★★(少なめ)

国際私法は、本来勉強すべき範囲は広いのですが、司法試験等で出題される範囲は限られています。

前記のとおり以前は国際私法の勉強量は少ないと言われていて、選択科目に時間をあまりかけたくない受験生が選ぶことが多い科目でした。

そのため、選択科目を勉強する時間がないと焦っている受験生にとっては助け船的な存在になることがあります。

ただ、最近は他の選択科目とのバランスをとる必要性からか、難しい問題も出題される年もあり、「楽をしたい」というだけの安易な気持ちで選ぶと本試験で思ったような点数を取ることができず、後悔をする可能性があるかも知れません。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★★(関連性は大きめ・・・だが)

国際私法は「私法」という名称が付いているように、民法・民事訴訟法と関連する科目です。

そのため、国際私法の勉強をすると、民法・民事訴訟法の理解も深まりそう・・・な気もするのですが、国際私法では国際的な問題についての「管轄」や「どの国の法律を使うのか」ということが問題になることが多いので、実際には日本の民法・民事訴訟法の知識・理解が問われる場面はそれほど多くありません。

ただ、民事系科目が得意な人にとっては、なじみやすい科目だと思います。



(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★(やや低め)

国際私法を選択した受験の最終合格率は、いずれの年もやや低いです。

その理由はよく分からないのですが、もしかしたら司法試験に向けた勉強が間に合っていない受験生が、勉強量が比較的少なくて済む国際私法を選択するからなのかも知れません。

最終合格率が低いという話を聞くと、選択しないほうが良い、と思いたくもなるところですが、裏を返すと、もしかしたら「国際私法を選択した受験生のレベルはそれほど高くない」という可能性もある、ということだと思います。

そのため、国際私法に関しては受験生の合格率は、それほど気にしなくても良いのではないかと思っています。

ちなみに、私の同級生の知り合いの中で、国際私法を選択した人は、ほとんどが合格しています(もともと優秀な人達ばかりでしたが)。



(オ)実務で使う頻度
★★(事務所による)

国際私法は渉外事件を扱っている事務所では必要です。

渉外事務所への就職を希望している受験生にとっては、国際私法を勉強するメリットはあると思います。

渉外事件をやらない事務所では使うことは少ないと思います。

私(街弁)も、実務に入ってから国際私法の知識が必要になったことはあまりありません。

ごくたまに国際的な離婚の問題などの相談があった場合には、基本的に渉外事件を扱っている事務所の弁護士を紹介したりしています。


(カ)国際私法の基本書・演習書

私は国際私法は法学部に在籍していた時に単位をとるために勉強をしただけなので、基本書等は詳しくありませんが、司法試験対策としては「国際関係私法入門」を使っている人が比較的多いと思います。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641046840


私は法学部の時は沢木敬郎先生の「国際私法入門」を使いましたが、沢木敬郎先生はお亡くなりになられて、現在は道垣内正人先生(民法の担保物権で有名な道垣内弘人先生とは別の方)が改訂をされているようです。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641112843


演習書は種類が少ないですが、比較的使い勝手がよさそうなものは「演習国際私法 CASE30」あたりではないかと思います。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 464104676X

基本書・演習書いずれについても本屋さんや図書館で自分の手でとってみて選ぶと良いと思います。


国際私法の勉強の中では判例集を何度も読み込む必要はありませんが、辞書として判例百選は持っておいがほうが便利だとは思います。

●国際私法判例百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115109




租税法



おすすめ度
★★(5段階中)

租税法は、文字どおり「税法」に関する科目で、主に所得税法が問われます。

また、法人税法などの一部も押さえておく必要がありますが、「簿記・会計」の知識は問われないため、数字が苦手な人であっても問題はありません。

租税法は実務でも必要となる重要な法律ですが、実務に出てから感じたのは、税務の分野では「法律」の知識だけでなく、「簿記」(会計)の知識・理解が重要だということです。

税・会計の分野については「税理士」「公認会計士」といった専門家が別にいます。

そのため、実務に出た後に「税」を強みとして活躍するためには、司法試験で問われる「租税法」の知識では不十分だと思います。

もっとも、司法試験での租税法の勉強を足がかりとして、司法試験に合格し実務に出た後も「税」と「簿記(会計)」の勉強を続ける意思がある人や、もともと「税」と「簿記(会計)」に興味がある人は選択肢に入れても良い科目だと思います。




(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★(少ない)

租税法を選択する際の主な問題は教材の少なさだと思います。

所得税法や法人税法については税理士試験用の参考書などが市販されているため、数は多いのですが、司法試験の選択科目のレベルにちょうど良い参考書が少ないです。

税理士試験や公認会計士試験の世界では、予備校を利用するのがスタンダードで、独学で勉強する人は限られていますが、もしかしたら業界的に租税法も同じような感覚なのかも知れません。

租税法は演習書もそれ程多くありません。

そのため、租税法の勉強をするためには、予備校を利用するとか、法科大学院での授業・ゼミを利用して勉強する等の工夫が必要になることが多いと思います。




(イ)必要となる勉強量
★★★★(やや少なめ)

所得税法や法人税法は、本来は学ぶべきことが多い法律ですが、司法試験で問われる範囲は限定されているため、司法試験の選択科目としての勉強量は比較的少なくて済みます。

租税法を選択して合格した同期の話を聞くと「基本的には判例を押さえていけば良く、その点は楽だった」とのこと。

私は学部時代に租税法のゼミに入っていましたが、租税法は学説上の争いが少なく、その点では他の科目よりも勉強しやすいと思います。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★(関連性は少ない)

所得税法や法人税法は、司法試験の他の必須科目との関連性は低く、租税法の勉強の中で得た知識・理解が、他の科目の知識・理解の向上に繋がる場面は少ないと思います。



(エ)その選択科目の受験生の合格率
★★★(普通)

租税法を選択した受験の最終合格率は、いずれの年も全受験生の平均に近いです。



(オ)実務で使う頻度
★★★★(頻度は多いが・・・)

税法は実務で問題になることが多いため、租税法の勉強の中で身につけた知識・理解が無駄になることはないと思います。

しかし、司法試験の「租税法」で問われる知識は、税法の知識のごく一部のみであり、租税法を選択したからといって、それだけで「税法に強い弁護士」になれる訳ではありません。

弁護士業務の中で税法を活用するためには、合格後にも税法や簿記・会計の勉強を続ける必要がありますし「税法に強い弁護士」をなるための勉強量は膨大です。

そのため、実際のところは「餅は餅屋」的な考え方で「税や会計で分からないことがあったら、税理士や公認会計士に聞く」という弁護士が多いと思います。

租税法を選択した私の同期も、今のところは弁護士業務の中で税法を売りにしている訳ではないようです。

他方で、「税に強い」ことを売りにしている弁護士が少ないからこそ、合格後も勉強を続ける強い意志があるのであれば、税法を得意分野として活躍できる可能性があると思います。



(カ)租税法の基本書・演習書

私の周囲に租税法選択者が少なく情報が少ないのですが「スタンダード所得税法」と「スタンダード法人税法」が比較的使い勝手が良いと思います。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4335358067

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4335357672


私は法学部生の時に租税法のゼミに入っていましたが、その時は金子宏先生の「租税法」を使っていました。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4335315414

金子先生の基本書は実務でも定番の本なので持っていると便利だとは思いますが、司法試験対策という観点から見た場合には、前記の「スタンダード所得税法」と「スタンダード法人税法」などのほうが使い勝手が良いと思います。


租税法の演習書は数が少ないですが、独学や少人数のゼミで使う場合には「租税法演習ノート-租税法を楽しむ21問」が比較的使い勝手が良いと思います。ただし、問題の難易度はやや高めのようです。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4335358504

また、他の科目も同様ですが、租税法では特に過去問の演習が大事ですので、過去問は早い段階から手をつけておいがほうがよいです。



前記のとおり租税法選択者の話をきくと、租税法では判例の学習が大事ということなので、判例百選は必要だと思います。

●租税判例百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4335358504





環境法


おすすめ度
★★(5段階中)

環境法は、行政法など他の科目の理解にも繋がる科目であり、行政法が得意な人であれば勉強しやすい科目えす。

他方で「法学」的ではない勉強も必要になるため、人によっては「とっつきにくい」感じる人もいると思います。

また、受験生が少なく(令和3年度は171人、全受験生の4.56%)、仲間を見つけにくい、本試験の成績が他の受験生の出来に左右されやすい、というデメリットもあります。



(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★★(少なめ)

環境法を専門とする学者の先生が少ないということもあり、基本書の選択肢は非常に限られています。

また、演習書の選択肢も非常に少ないです。

様々な教材を使いたいという受験生にとっては、とっつきにくい科目かも知れません。

他方で、受験生が得られる情報が少ない分、通っている法科大学院や大学に環境法の大家の先生がいる場合や、先輩が残したノートなどの資料に恵まれている場合には、他の学校の受験生に差を付けることができ有利になる可能性もあると思います。





(イ)必要となる勉強量
★★★★(少なめ)

環境法の問題においては、行政法の訴訟類型の選択、民法の不法行為などの考え方を流用できる場面が少なくないため、他の科目に比べると勉強量は少なくて済むと思います。




(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★★★★★(関連性は大きい)

前記のとおり、環境法の問題では、行政法の訴訟類型の選択、民法の不法行為などの考え方を流用できるため、環境法の勉強をすることは特に行政法の論文式試験対策にも繋がります。

裏を返すと、行政法の論文式試験の勉強をすることが、環境法対策の勉強にもなります。

環境法を選ぶ1番のメリットはコレだと思います。

行政法の論文式試験が苦手な人が選択科目の勉強を通じて行政法の知識・理解を深めていくという場合や、逆に行政法が得意な人が少ない時間で選択科目の勉強を終わらせたいという場合には、環境法を選択するメリットはあると思います。

他方、行政法の論文式試験が苦手な人は避けておいたほうが良いと思います。


(エ)その選択科目の受験生の合格率
★(低い)

環境法を選択した受験の最終合格率は、いずれの年も低いです。

理由は分かりませんが、司法試験に向けた勉強が間に合っていない受験生が、勉強量が比較的少なくて済む環境法選択している等の事情があるのかも知れません。

前記のとおり環境法は行政法や民法などともリンクをする科目ですので、環境法を選択したことが理由で、試験に合格しにくくなる、ということはないと思います。

ただし、司法試験の評価は相対評価であるところ、環境法の受験者は例年少ないため、他の受験生の出来によって環境法の点数も左右されやすいということは注意が必要ですが、きっちと勉強をすれば上位の成績を取れる可能性がある科目でもあります。



(オ)実務で使う頻度
★(少ない)

環境法が関連する事件は、原告適格や訴訟費用等のハードルがあるため、実務の世界で環境法を使う場面は、少ないです。

ただし、大手の事務所の中では環境問題を取り扱う部署を設けているところもありますし、弁護士会には環境問題を扱う委員会もあります。

そのため、環境法の知識が活躍する場面が必ずしも多くないことを認識した上で、それでも敢えて環境法を勉強したいという熱い思いがある人は環境法を選択して欲しいと思いますし、マイナーな分野だからこそ、極めることができれば第一人者になれる可能性のある分野でもあると思います。


(カ)環境法の基本書・演習書

環境法の基本書は選択肢がかなり限られています。

司法試験受験生の中では、大塚直先生の「環境法BASIC」や北村喜宣先生の「環境法」を使っている人が比較的多いと思います。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641138664

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4335356110


私はロースクールで環境法の授業を受けましたが、その時は大塚直先生の「環境法」(BASICが付いていないほう)を使いました。(指定図書だったからというだけの理由です)。


●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641137900



環境法の演習書は数が少ないです。

演習書として使えそうなものは(少し古いですが)「演習ノート 環境法」と司法試験の過去問あたりではないかと思います。

●ISBN-10 ‏ 


環境法の勉強をしているとマニアックな法律がいくつも出てくるので、環境六法は手元にあったほうが良いでしょう。

●ベーシック環境六法 ISBN-10 ‏ : ‎ 4474068688


また、環境法を選択する場合には、百選も手元に置いておいて、疑問点が出てきた時にすぐに使えるようにしておいほうが良いです。

●環境法判例百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115400






国際公法




おすすめ度
★★(5段階中)

国際公法は司法試験の選択科目の中で、最も受験者数が少ない科目です。

令和3年度の結果を見ると、国際公法を選択した受験生は53人、全受験生の1.14%です。

受験者が少ないということは、他の科目よりも高得点・高順位を狙える可能性がある一方で、仮に他の受験生のレベルが高かった場合、相対的に自分の点数が低くなる可能性もあります。

国際公法が好きな人は選択しても良いと思いますが、「何となく」という安易な気持ちで国際公法を選ぶのは避けたほうが良いと思います。

ちなみに、私の同級生の中でも国際公法を選択した人が1人いましたが、その人は学部時代から国際公法を専門とするサークルに所属しており、「国際公法なら誰にも負けない!」という自信を持っている人でした。




(ア)教材・情報の入手のしやすさ 
★★(少なめ)

基本書の種類は多くはありませんが、学者の先生の書いた基本書で勉強できる人であればインプットはできると思います。

他方、司法試験用の演習書として使える本は種類が限られています。


(イ)必要となる勉強量
★★★★(やや少なめ~普通)

国際法は国家間の問題に関するルールですが、問題の処理は、主に条約を使える場面では条約に違反しているかと判断する、条約が使えない場面では慣習法があるかどうかを判断し、慣習法に違反しているかを判断する、という流れになるのが一般的です。

司法試験六法・予備試験六法に掲載されている条約の数は限られているため、本試験で出題される可能性のある条約の範囲は予測できますし、慣習法についても出題される可能性のある範囲は限られているため、他の科目と比べると覚えるべき量は比較的少なくて済むと思います。

ただし、アウトプットに使える教材が限られているため、教材が充実している他の科目に比べると「勉強しにくい」と感じる人もいると思います。

過去の試験問題を見る限りでは、アウトプットよりもインプットが重視される傾向にあるため、基本書などを黙々と読み込んで暗記できるタイプの人には向いていると思います。



(ウ)他の科目との関連性(相乗効果・シナジーを期待できるか)
★(関連性は小さい)

前記のとおり、国際法は国家間の問題に関するルールで、国家間の条約や慣習法などが問題となるため、国際公法で学んだ知識・理解を他に科目に活かすことができる場面は少ないと思います。



(エ)その選択科目の受験生の合格率
★(低い)

国際公法を選択した受験の最終合格率は、いずれの年も低いです。

理由は分かりませんが、司法試験に向けた勉強が間に合っていない受験生が、一発逆転を狙って、勉強量が比較的少なくて済む可能性のある国際公法を選択している等の事情があるのかも知れません。



(オ)実務で使う頻度
★(少ない)

国際的な機関、外務省などで勤務する場合には、国際公法を使う可能性はあると思いますが、一般的な弁護士、裁判官、検察官が国際公法を使う場面は少ないと思います。

大手の法律事務所では国際法が絡む案件を抱えている事務所もあると思いますが、数はそれほど多くないと思います。

国際公法に強いということを売りして実務家として活躍するためには、十分に作戦を練る必要があると思います。


(カ)国際公法の基本書・演習書

国際公法(国際法)の基本書はいくつかあります。

受験生が少ないため参考にできるサンプル数が少ないのですが、法科大学院生や司法試験受験生の中では、「現代国際法講義」や「国際法学講義」を使っている人が比較的多いのではないかと思います。

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641046565

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4641046646

判例集については、この記事を書いた時点では判例百選がしばらく改訂されていないため、「判例国際法」などの新しい判例集を併用する必要があると思います。

●国際法判例百選 ISBN-10 ‏ : ‎ 4641115044

●ISBN-10 ‏ : ‎ 4798915580


国際公法の演習書として司法試験で使えそうなものは「演習プラクティス国際法」くらいではないかと思います。

●「演習プラクティス国際法

他の科目と同様ですが、演習書が少ない国際公法などのマイナー科目では他の受験生も過去問をきっちりとこなしていることが多いです。

また、現時点では国際公法の過去問を見る限り、似たような角度の出題が繰り返されています。

そのため、特に国際公法では過去問の演習が大事ですので、過去問は早い段階から手をつけておいがほうがよいです。




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司法試験の受験に役立つ資格試験について



  • (1)法学検定


「法学検定」は「公益財団法人日弁連法務研究財団」という団体が実施している民間資格で,法律系資格の登竜門と言えるような試験です。

民間資格ですが「法学検定」を受験しておくと,法科大学院(ロースクール)によっては入学試験で点数を上乗せしてくれる場合があります。

また,「法学検定」は「ベーシック〈基礎〉コース」→「スタンダード〈中級〉コース」→「アドバンスト〈上級〉コース」というように,少しずつレベルを上げて受験することができるため,中期的な目標を立てやすく,勉強も挫折しにくいですし,順番に受験をすることで十分な実力がつくように工夫がなされています。

勉強方法も「法学検定試験委員会」から販売されている問題集をこなすだけで合格できるので,何をやれば良いのかが明確で勉強もしやすいです。

「アドバンスト〈上級〉コース」に合格するくらいの実力がつけば,司法試験合格はかなり現実的なものになるでしょう。

●ISBN-10: 4785725117

●ISBN-10: 4785725125

●ISBN-10: 4785725133



  • (2)ビジネス実務法務検定試験


「ビジネス実務法務検定試験」は商工会議所が行っている法律系の試験で,日商簿記の法律バージョンみたいなものです。

問題の質がとてもよく,実際の仕事に役立つ知識を得ることができます。

というか弁護士の立場から見ると「ビジネス実務法務検定試験2級」程度の知識もないのに,ビジネスをやっている人を見ると恐くて仕方がありません。

仕事をやっている人であれば司法試験を受験するか否かを問わず,勉強をしておいて損をすることはない資格です。

法務部に異動したい人は「ビジネス実務法務検定」を取っておくと人事部に対するアピールになるでしょう。

1級はかなり難しいので,とりあえずは2級くらいまでとっておけば十分です。

2級までであれば勉強方法は至ってシンプルで,商工会議所が出版している「ビジネス実務法務検定試験公式テキスト」を読みながら「ビジネス実務法務検定試験公式問題集」を繰り返すだけです。

私は仕事帰りにスターバックスに寄ってテキストと問題集を繰り返し,半年程度で3級と2級に合格しました。

●ISBN-10: 4502221414

●ISBN-10: 4502221511




  • (3)宅地建物取引士


「宅地建物取引士試験」は「法律系資格の登竜門」と言われることもあって,比較的簡単に合格することができ,しかも他の法律系の資格試験の受験に役立つ知識を得ることができます。

しかも,「宅地建物取引士試験」に合格すれば,仕事や転職に役立つ「宅地建物取引士」という資格を得ることができるので,最終的に司法試験を諦めたとしても勉強が無駄になることがありません。

私も司法試験にチャレンジする前に「宅地建物取引士試験」を受験し合格しました。

「宅地建物取引士試験」で得た知識は,弁護士になった今でも役に立っています。

「宅地建物取引士試験」の内容や勉強方法は「●仕事を辞めて転職したい人におすすめの資格1:宅地建物取引士」「「宅地建物取引士試験」の勉強方法」という記事にまとめていますので参考にしてみてください。



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